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第一章〜幼年期編〜

来訪者

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 リンとミラと一緒にガキ共の相手をした翌日、俺は検査室でルカと話をしていた。

「おはようございます、今日は良い天気ですね、ルカ」

「そうですね、…昨日はお見苦しい所を見せて申し訳ありませんでした」

「いえ、…よろしかったらお昼に中庭でお話しませんか?患者と医者ではなく、同じ王族として友好的な話がしたいです」


「…分かりました、僕としても益になる話だと思いますから」


 昨日の今日、という事もありルカの方はバツの悪そうな顔をしていたが、敢えて空気を読む事をせずノワールの姫として、ルカという王子と話がしたいと切り出すとルカも誘いに応じる。

「ありがとうございます。それにしても…死にかけた患者でも治す医療技術は凄いですね、流石は医療大国です」

「…そうですね、父も祖父も…そのまた祖父も、医療系の能力を持った星騎士でしたから僕もそんな一族に恥じないキャリアを積まないと」

「……」

「……失礼しました、少し空気が悪くなってしまいましたね。脈拍、血圧、魔力の流れ、特に問題はありません。明日には退院出来るかと」


 話には聞いていたが、想像以上に根の深い話のようだ。

 確かに家系…一族が繋いできた血やキャリアは大事だろう、だが…それが重荷になるようなら、それは本人にとっては毒や呪いのようなものだ。…考え込んでいるとルカから謝罪をし、医者として退院しても問題ないと口にする。


「ありがとうございます、…退院し自国へ戻ったら改めて感謝の意を示したく存じます」

「研修医とはいえ医者として当然の事をしたまでですが…はい、謹んで受けたく存じます」

◆❖◇◇❖◆

 昼、病院の購買で売っているサンドイッチと冷たい紅茶が入ったペットボトルを手に昨日駆け回った中庭にあるベンチを目指し歩く。隣には俺と同じ様に購買で買ったのであろうサンドイッチと飲み物を手にしたルカ。

 ミラには少し悪いが、前世という人生の経験値がある分、俺がルカにしてやれる、とある話をしようと昨日の時点で決めていた。

「昨日も思いましたが、広いですね…まるで庭園のよう…」

「気に入って頂けて何よりです、僕も此処は好きな場所なんですよ」

「そうなのですね、ルカ…実は「…アンナ様…?」エステル?」


 いざ切り出そうとした所で、意外な人物に声を掛けられて思わず其方へと視線を向けるとそこに居たのは数日前にノアで話したばかりのエステルだった。


「…?」

「アンナ様…!よかった…」

「エステル、どうして…」

「あ、その…母の付き添いです、父が少し身体を壊してしまって…」

「なるほど、御両親想いなのですね…お疲れ様です」

「……なるほど」


 何かを納得したようなルカは、それが何なのかは伝える事なく巨木を見上げサンドイッチを口にする。患者の俺が分からなくて、医者のルカが分かるという事は実際にエステルの父親がこの病院に入院なり通院しているのだろう。


「いえ、私なんて…」


「「………」」

「「あの」」

「お先にどうぞ…、エステル」

「その…お身体は大丈夫そうでしょうか?」

「えぇ、今は問題は「きゃあぁあ!ま、待って!止まってくださーいっ!?」危ない!」

 ルカとだけ話をするつもりが、エステルの次にミラまでやってきた、何故か誰も乗ってていない筈の魔導式車椅子を暴走させて。

 セイの試合を観ていて良かった、魔力を用い、周囲の空気をクッションにする感じで固める事で車椅子ごとミラを止め、エステルを助ける。


「きゃっ!?」

「大丈夫ですか、エステル」

「だ、大丈夫です…それより今のは」

「一応簡単な風魔法で空気の壁を作りましたが…ミラは大丈夫ですか?」

「は、はい!私は大丈夫です!…3人とも怪我はありませんか!?」

「私達は大丈夫です、…貴女こそお怪我はありませんか?」

「は、はい…大丈夫です!身体だけは丈夫なので!……はぁ、それにしてもまたやっちゃいました…」


「ミラ、あれ程注意するように「…悲観する事が出来る、それは“未だ”幸せな事だと思いますよ?」…アンナ…?」

 ミラに注意を促そうとするルカを制す事で本来話す筈だった話を語る。

 俺は少し勘違いをしていた、最初はルカを何とか笑顔に出来れば…と思いルカに発破をかけるつもりだったが、そうじゃない、ルカを支えようとするミラの意識も変えなきゃいけなかったんだ。

 無論、それで変わるかどうかは分からないし、ただの自己満足に終わるかもしれない…それでも、何もしないよりはマシだと俺は語るのを止める事はしなかった。


「ぇ…?」

「アンナ様…?」

「…とある国に仲の良い兄妹が居ました、妹はゲームが好きで、血も涙もない悪魔と呼ばれた兄はそんな妹を家族として愛し、護っていましたが、ある日妹は殺されました」

「そんな…」

「…兄は酷く悲しみ、そして激しく怒りました。…そして妹の分まで生き抜き、妹との約束を果たす為だけに力を求めました。…悲観する事も涙を流す事も、嘆く事すら人前でする事なく、只々亡くなった妹の為に」

「「「……」」」

「何かを悲観する事が出来るのは貴女が生きているからです、…命が尽きてからでも遅くはないんじゃないですか?」


「……なるほど、…泣ける話だ。だが…死に行く御前達は死んでから何が出来るかな?」

 最後まで語った直後、それまで気配を感じ取れずにいた黒ずくめの女が木の枝から飛び降り小太刀を顕現させ俺達…正確には俺目掛けて遅い掛かってきた。
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