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第一章〜幼年期編〜

欠けた笑顔

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 意識を戻してから3日目、大きな木を中心に円形状の中庭にあるベンチに腰掛けながらデバイスを弄り、今日も今日とて俺はリンを含めた5人の過去の試合を観る。


「なるほど、こういう戦い方があるのですね…」

「アンナ様?何を見ていらっしゃるんですか?」

 白衣に身を包んだミラが俺に気付いたようで近付いてきたのを感じると、俺は映像を一時停止にして顔を上げる。


「ごきげんよう、ミラ。今はデバイスでS級リーグ戦を観戦していました」

「S級リーグ戦、ですか…アンナ様もそういった方々と何れ戦いたい、と思っていらっしゃるのですか?」

「えぇ、…正確には何れ、というよりは既に、が正しいのですが…」

「ぇ、す、既に?」

 矢張り医者という職業柄、他人を傷付け、自分も傷付く星騎士…それもその最高峰となるS級星騎士という存在に思う所があるのだろう。

 気持ちは分からなくはないが、俺は既にその世界に片足を突っ込んでいる事を伝え、更に試験とはいえS級星騎士と戦った事もある事を伝えると理解が追い付かないと言わんばかりにミラは惚けている。

 案外、俺と戦っていたリンの事素性を知らないでいたのか?と、不思議にも思ったが、それならそれで説明すれば良いかと思い直しリンについて説明しようとした所で当の本人にも声を掛けられる。


「はい、私と一緒に運ばれてきたリン、彼女もか「アンナ様?中庭で何を…」噂をすれば、彼女もS級星騎士ですよ」

「え、えぇ~っ!?え、S級騎士のリンさんなんですか!?」

「S級?!」
「S級だってよ!」
「お姉ちゃんえすきゅーせいきしなの?」


 リンの驚きの声が木霊し、俺が呆気に取られていると何処に隠れていたのか、俺よりも小さなガキ共がわらわらと集まってきた。
 無理もないか、S級星騎士の上位陣というのは世界に1000人も居ない星騎士達の頂点だ。S級星騎士もそう何人も居ないのに、身近に5人も居たからその辺の感覚が麻痺してるだけで本来なら出逢える事自体がレアだろう。

「っ、何時になってもこの反応は慣れませんね…」

「ふふ、リンは有名人なのですね…?」

「ご、ごめんなさい!リンさん、アンナ様も?!」

「何の騒ぎですか、これは」


 慣れていない、と言いながらもガキ共を上手くあやしているリンに軽口を叩き、ミラはミラであたふたと慌てていると、もう一人の研修医であるルカが騒ぎを聞きつけやってきた。


「ルカさま!」

「此方のリンがS級星騎士だと話していたら、何時の間にかこんなに子供達が集まってしまいまして」

「なるほど、…ミラ、患者の素性をあんな大声で口にするのは控えてください。リンさん、僕の婚約者が申し訳ありません…」

「いえ、確かにあの大声は確かに驚きましたが私は気にしておりません、寧ろ気を遣わせてしまい申し訳ありません…」


「それを言うなら私も、ですね…申し訳ありません、ルカ、ミラも…」

 医者、という観点からいえば至極真っ当な言い分ではあるが、それにしては最初の印象と違いミラに対して当たりが強い様に感じたのでリンの次に謝罪の言葉を口にする、騒がせてしまったのは俺にも原因があるからだ。


 「……いえ、僕こそ申し訳ありません。父に呼ばれているので失礼します。ミラ、後の事は頼みます」

「は、はい!……はぁ…またやっちゃったなぁ…」

「ルカは何時もあんな感じなのですか?病室で初めて会話した時は、まだ穏やかな印象だったのですが…それともミラにだけ?」

「アンナ様、あまりそういった事は…」


 リンに窘められるが気になったので訊ねる、理由は幾つかあるが、ルカのあの目は何か重いものを背負った奴の目だ。出逢って間もないが、放ってはおけなかった。


 ミラは少し言い淀んだが、意を決した様に事情を語り始める。


「いえ、良いんですリンさん。…私とルカさまは婚約者である前に幼馴染ですから、国王様…ルカさまはお父様の跡を継ごうと必死で勉強していらっしゃるんです、多分病室で穏やかだったのってお花を花瓶にさしてた時かな、と。ルカさまはお花が好きですから…」


「…なるほど」

 父親の跡を継ぐ為に自分を厳しく律しているが、問題は自分にも他人にも厳しくなっている、って所か。
 別にそれ自体は変ではない、前世にもそういう奴等は何人か見てきた。

 問題は、8歳という遊び盛りに既にその在り方が定着しかけている、といった所だが…こればかりは俺が言えた義理じゃねぇしな。

 どうしたもんか、と考え込んでいるとミラの裾を脇から引っ張る小さな影に気付く。

「ねーねー、ミラおねえちゃん?今日もあそんで?」
「俺も遊びたい!」
「僕も~」

「え~…しょうがない、少しだけですよ?」


 ガキ共に絆されるようにミラが微笑むのを見ると俺もつられて笑みを浮かべる。


「ふふ、今度はミラが人気者になってしまいましたね?何時も遊んであげてるんですか?」

「そうですね、入院中はどうしてもマナの流れが安定しなかったりしますので…独りが寂しいのは私も知ってますから」

「…そうですか、ならリン、リンも少し遊んであげて下さい。頼りにしていますよ?S級星騎士様?もちろん私も参加しますので」

「わ、私がですか…?…分かりました」

「「「わーい!」」」

 リンにお願いをすることでガキ共が更に元気にはしゃぎだす。
 子供はこれくらいが丁度良い、何も考えずに遊んで笑う、…それが当たり前の在り方だと思うから。

 願わくば、ルカにも笑顔でこの場に居て欲しい…そんな事を思いながらミラとリン、それから俺の3人で笑顔で駆け回るガキ共の相手をする。
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