上 下
33 / 48
第一章〜幼年期編〜

暴走…そして決着

しおりを挟む



 俺としての意思と何かが混ざり合った感覚を感じながら、普段手にしていた星武器とは異なる得物を握る。


「神槍…!」

 リンは心底驚いたように声を上げるが、今の俺にはそう驚くべき事では無かった。寧ろ、神克しんこくの先に在る技、その技に至り手にした力の正体がこの槍だという事にある種の納得を得た。

 セイの棒術を時に受け、時に躱し、時に打たれていて良かった。初めて振るうのに手が馴染む。

「アンナ様…私達の想定よりもずっと早く神槍を扱えるように」

「…往くぞ、リン…」

「先程よりも速い…いえ、これは…」

 確かに俺の口から衝いた言葉だったが、確実に俺ではない“ダレカ”の意思が介在した口調で空間を跳躍し、一瞬で槍の間合いに入り突きを繰り出していた。


◆❖◇◇❖◆

 一方、モニター越しにアンナの戦いぶり、そして変化した星武器のデータを採取していたシュリは普段のおちゃらけた様子はなりを潜める。

「時間?いや、空間魔法…?速いとか速くないの次元じゃない、それに突きを繰り出す際の動き自体が一切の無駄がない。…然も、あの槍、魔力の濃度が濃すぎて計測器が振り切れてるよ」

「速いだけじゃない、一突き一突きが直撃すればフィールドを容易く破壊出来る攻撃力を示している…!」

 ルドルフの名を受け、シュリの手伝いをしていたシュバルツもその規格外の攻撃力に驚嘆しているが、此の儘、試合を続ければ死人が出る…否、下手をすればこの学園自体が壊滅すると判断し顔を青ざめさせている。

「シュリ先輩、今はリンさんが何とか捌いていますが危険過ぎる…即刻試験を中断させるべきです!」

「それは不味いかも」

「シュリ先輩…?」

「フィールドが展開しているお陰で二人の戦いの余波が来ないだけで、もし今中断したらその余波は辺りにどんな影響を与えるか分からないよ、良い感じにガス抜きさせなきゃ、ね…?」


 今の2人を覆うフィールドは、言わば限界まで空気が入った風船のようなものだ。その風船の中身を何とかしない限り、中断しても被害は免れないだろう。


「それはそうですが…しかし「それに、」…?」

「今この戦いを止めたら、アタシ達は一生リンちゃんに恨まれるよ、星騎士同士の誇りを掛けた戦いに水を差した、って」

「誇り…」

「もし、アンナ様が本格的に暴走しそうになったらアタシやレイちゃん、セイちゃんにハクちゃんとで止めるから…やらせてあげて」

 深々と頭を下げるシュリを前に、ルドルフは彼女の覚悟と決意を確認し、現理事長として一つの決断を下す。

「…分かりました、一応、医療国家エキナセア国の医療機関に連絡を、此処の設備では身体の傷は治せても精神的な異常には対処は出来ないですから…」

「ありがとね、ルーくん」

◆❖◇◇❖◆

 一突き一突きが膨大な魔力と氣を消費する一撃は、それだけでフィールドを穿つ力を示しながらも、その一撃を受け流し、逸らし、躱すリンにも疲れの色が見え始めた。


「は…っは…っ…」

「…一突き事に魔力と氣を消費するな…未だ強くなれる…強くなる理由がある…!」

「善良な弱者が真っ当に生きられる世界…ですか…初めて貴女様の願いを知れた気がします」

 未だ強くなれる、それは俺の口から出てくる言葉ではあるが、言葉に込めた想いは俺ではない、別のダレカのものだった。俺に出来るのはそのダレカに呑まれない様に踏み止まるだけだ。

 そんな状況下で、リンは穏やかに微笑んでいた。

「誰にも負けない強さが欲しい、と言ったはず「違います」……」

「強さを欲するのは“手段”に過ぎない、アンナ様が本当に欲しいのは、“誰もが優しさを忘れない世界”ではありませんか?」

「……否定はしない、だが、それは今は言っても詮無きこと…強さを示し続ける、それがの在り方であり祈りだ」

 そう、否定はしない。
 あの日、護れなかった自分も、護ってくれなかった世界周りも世界の側面だというのであれば、そんなものは必要無い。

 その醜いものを抱えて、俺は俺が護れるものを護り続ける。

 在り方であり、祈りであり、…贖罪なのだから。


「……なら、私は私が掲げた騎士道の元、貴女様に道を示すとしましょう…!」


「望むところ…! 咆哮せし者ルドラ!」
「絶剣参之型・天叢雲剣…!」

 槍にありったけの魔力を込めて音速を超える速度での投擲に合わせ、さっき魔力を斬った時の気配を“同時”に九つ、振るい束ねた斬撃の大波がぶつかり合う…!!

◆❖◇◇❖◆

 異なる力と力がぶつかり合い、永遠とも一瞬とも捉える事が出来る競り合い…直後、訪れる沈黙の元、映し出された映像は倒れ伏した2人だった。

「九つの斬撃が重なり合い神槍とぶつかり合った…!」

「凄い破壊力だ…フィールドが完全に破壊された処か衝撃波が此方にまで…!」

「……良かった、生きてるみたい…リンちゃん、魔力を祓う斬撃を放って被害を最小限に抑えたみたいだね、二人共凄い怪我で気絶してるけど」

「救護班は至急御二人を生命維持装置へ、エキナセア国からの返答は?」

「受け入れ、問題無いようです、転移ゲートも解放済みです」

「ご苦労様です。…大変な事になりましたね」

 シュバルツの迅速な対応で既に二人の治療は行われる事に。一先ず生命の危機は脱したが…問題は試験中に神槍が発現したという状況だ。

 誰も到達する事が無いと思われていたG級、神槍を自由自在に扱える様になったアンナは文句無しに、それに該当するだろう。…だが、今は自在には扱えていない、それは扱いを間違えれば危険な力を有していると言える。


「そうだねぇ~、で、アンナ様を受け入れるのが怖くなった?」

「…怖くない、と言えば嘘になりますが、同時にアンナ様の様な力を野放しには出来ないでしょう?…シュリ先輩…いえ、前理事長」

「あはは、今は君が理事長でしょ?…大丈夫、私達も支えるから」


 懐かしい呼び名に思わず笑みを零してはウィンクをするシュリ、学生時代から見てきた変わらぬ様子にルドルフは笑みを浮かべる。


「…っ、はい!」

「さぁて、アタシは入院の準備をしなくちゃ、忙しい忙しい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡なオレは、成長チート【残機無限】を授かってダンジョン最強に! でも美少女なのだがニートの幼馴染みに、将来性目当てで言い寄られて困る……

佐々木直也
ファンタジー
交通事故で死んだオレが授かった特殊能力は──『怠け者でもラクして最強になれる、わずか3つの裏ワザ』だった。 まるで、くっそ怪しい情報商材か何かの煽り文句のようだったが、これがまったくもって本当だった。 特に、自分を無制限に複製できる【残機無限】によって、転生後、オレはとてつもない成長を遂げる。 だがそれを間近で見ていた幼馴染みは、才能の違いを感じてヤル気をなくしたらしく、怠け者で引きこもりで、学校卒業後は間違いなくニートになるであろう性格になってしまった……美少女だというのに。 しかも、将来有望なオレに「わたしを養って?」とその身を差し出してくる有様……! ということでオレは、そんなニート幼馴染みに頭を悩ませながらも、最強の冒険者として、ダンジョン攻略もしなくちゃならなくて……まるで戦闘しながら子育てをしているような気分になり、なかなかに困った生活を送っています。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...