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第一章〜幼年期編〜

前世からの誓い

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 絶対に負けられない、手の抜けない戦いという事もあり全力を出したは良いが、肝心の試験官であるシュバルツが降参し、どうしたものかと思考を巡らせていると、闘技場にリンが上がる。


「選手交代です、アンナ様」

「リン…貴女が来ますか」

「アンナ様を最高の星騎士にする、その誓いの元、アンナ様の指導に尽力した成果は矢張り私自身が体感したいので」

 なるほど、要はシュバルツでは試験続行が困難だと判断したのだろう。いうなればS級、そしてその先のG級と認められるにはこの戦いに掛かっていると言える。

 お互いのデバイスからフィールドを展開し、星戦を行う旨を周囲に伝えると同時に肉薄する影。

 相変わらず、肉眼では何時斬り掛かってきたのかすら分からない斬撃を周囲の魔素の動きから逆算し、剣を交差させながら受け止めながら僅かに笑みを浮かべる。


「…私としても貴女なら安心して全力を出せます」

「本当に…成長しましたね、アンナ様。今のは完全に隙を突いたつもりでしたが」

「まだまだ、この程度で喜んでいたら貴女達に申し訳が立たないですから。───リン、麒麟で来てください」

「……そうですね、流石に今のアンナ様に出し惜しみは出来なさそうです」

 あの日、何をしたのか全く分からなかったが、今なら分かる。周囲の魔素を雷へと変え全身に落雷と見紛う勢いで身体に取り込む事で爆発的にパワー、スピード、魔力の質…あらゆる力を高めているのが。

 それは、結論だけ見れば今の俺と同じだった。当然といえば当然か、…この3ヶ月、教えを受けてきたのは目の前のS級星騎士リン達なのだから。


◆❖◇◇❖◆

 眼下で繰り広げられる斬撃と斬撃の応酬を前に、ルドルフは絶句し、シュリは学園の設備の一つであるモニターを前にアンナの各パラメーターを計測していた。

「凄い…としか言いようがないですね、王族とはいえど僅か8歳の少女がS級星騎士と互角に斬り結んでいる…一体どれだけの訓練をしたのですか?」

「うぅん…実はね、時と空間の属性魔法以外はさっぱり教えてないんだよね~」

 測定の傍らで、シュリは自身を含めたアンナを指導する5人がどういった指導をしてきたかを苦笑混じりに語り出す。

「そうなのですか?」

「うん、アンナ様の星武器は剣と銃どっちの性質もあるから、最初はそれを活かした戦い方が出来るように指導しようって事で皆で話し合ったんだ~」

「なるほど、確かに銃は弾を装填するにしても弾を打ち出すにしても魔力の操作が基本になってきますからね…」

「そそ、でもアンナ様は時間と空間、扱いの難しい属性魔法を同時に扱えなければ使用出来ない絶掌をマスターした、つまり通常の属性魔法よりも扱いが難しい魔法を短い期間で習得出来る素質を示した。
そこからは指導方針を少し変えて、力を高める術を学んで頂いた。その術すら自己流にアレンジして使いこなしている。今のアンナ様は御自身の星武器の戦闘スタイルの基本を極限まで極めた状態なんだよ~…」

「…末恐ろしいですね、本当にG級を目指せるのでは「ただ、」…?」

 ただ技を教え、習得するだけならばそう難しくはないが、アレンジが出来る程に技への理解度を示すのは期間を考えると異常だ、モニターが指し示す魔力の質を示すグラフがそれを物語るが…それを肌で感じているリンは既に動いた模様である。


「リンちゃんもまだ奥の手を隠し持ってる、この試合に関して言えばどうなるか分からないかなぁ…あ、噂をしてたら出すみたい」


◆❖◇◇❖◆

 既に何合目かになるかも分からない程、主従は斬り結ぶ中、2人が立つ足場は魔力による圧と脚力で抉れていた。

「通常の剣術では互角、ですか…」

「貴女達から受けた指導のお陰です」

「───では、此処からは“未だお教えしていない”ものを披露するとしましょう」

 瞬間、アンナが感じたのは前世でも、勿論、今世でも感じた事のない“剣気”
 全身を覆い、纏う圧縮された魔力の護りを容易く斬り裂く斬撃の波である。

「ッ!?」

「絶剣壱之型・天之尾羽張」

(魔力を斬った…!?)

「直感的に危機を感じた上で膨大な魔力を射出して横に逸れましたか…的確な判断です───相手が私で無ければ」

「しま…っ!」

「間一髪で後方に飛んでダメージを抑えましたか、3ヶ月という短期間で見違えましたね、アンナ様」

 剣を交差させる暇すらなく振るわれた峰打ちに対し、取れたのは後方に飛び退くしかない、という苦渋の選択であった。


「今のは…」

「天之尾羽張…日本神話で子殺しにして神産みの神刀と名高い剣の名です。私はこの技…いえ、業以外に幾つかの業を修めています」

「…ふふ…」

 技を超えしわざに魅せられアンナは恐怖───する事無く、寧ろ笑みを浮べる。

「…どうかなさいましたか?」

「いえ…嬉しくて」

「嬉しい…?」

「こんな小娘が3ヶ月鍛えただけで大きな力を手にして…満たされると同時に何処か虚しさを覚えていましたが…まだ、強くなれる可能性があるのが」


「…強さの先に何を望むのですか、アンナ様は」

 アンナ自身の生前の戦闘技能や覚えの速さも絡んでくるが、それでも、事象や概念といったものを含めたものを“破壊”する能力…否、権能はヒトの範疇を超えていた。

 故に、権能チカラの方も、アンナ本人も無意識に力をセーブしていたが…リンの問いをトリガーに、チカラはとなり、辺り一帯に暴風が吹き荒れる。


「───善良な弱者が真っ当に生きられる世界…今も“昔”もそれを目指すのがに課せられた約束であり…誓いだ…!!」


 槍の名はトリシューラ、嘗て破壊神が振るい、何の因果か今はアンナが振るわんとする神槍である。
 



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