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第一章〜幼年期編〜
試験開始
しおりを挟む仮想空間でエステルと話をした翌日、俺はリンとシュリを連れてウルガルド学園の門を潜り試験会場へと来ていた。
そこにはつい先日、ノワール城で話をしたルドルフと、その隣には今日の試験官を務めるのであろう黒いスーツに身を包んだ金髪の女が椅子に腰掛けていた。
「おはようございます、先日は謁見の機会を頂きありがとうございました。当学園の理事長を勤めさせて頂いているルドルフ・グロウです、本日は宜しくお願い致します」
「おはようございます、アンナ殿下。本日、アンナ殿下の試験官を務めさせて頂くシュバルツ・リッターです。宜しくお願い致します」
以前から聞いていた試験官、なるほど。確かに試験官を任せられるだけの実力はあるのだろう、向かい合って話すだけでその実力は充分推し量る事が出来る。
だが、俺にも手を抜く事が出来ない理由が出来た。舐める事もなければ手加減をしてやる事もない。
「はい、よろしくお願いします」
「試験は筆記試験と実技試験を予定しております、筆記試験に関しては年齢相応の学力試験と星騎士として有していなければならないものを問う形ですね、実技試験は星騎士としてどのくらい戦えるかを見るものです」
「なるほど、分かりました」
「では、先ずは筆記試験を開始します」
予め用意された筆記用具を脇に置いて、俺は目の前に出された解答用紙に取り掛かる。
◆❖◇◇❖◆
『問一、○×3=27、○の中に当て嵌る数字を答えなさい』
流石に簡単過ぎじゃないか?…問題を見て第一に感じたのは肩透かし地味た筆記試験の与し易さであった。
って、8歳なら掛け算割り算辺りが妥当か?その他の問題も、言葉さえ理解し、真面目に勉強をしていれば答えられる問題である。
(この辺りはリン達に感謝だな…)
いかんいかん、油断せずに取り掛からねぇとな。
─────
───
─
「終わりました」
「流石は殿下、勉学も疎かにしていないのですね。優秀な従者が居られるようで…」
全ての問題を解くのに1時間も掛からずに解答用紙を裏面にして机の上に差し出す。その用紙を手に回答に目を通すシュバルツは俺の後ろで試験の様子を見守っていたリンとシュリを賞賛する。
「恐縮です」
「それ程でも~」
「…後は実技試験ですね、早速始めますか?」
「そうしたいのは山々なのですが、お疲れではありませんか?休憩時間を挟もうかとも思っていますが」
筆記試験が少なからず精神をすり減らすのは分かる、歳相応のガキが試験に身を置けば特にそうだろう。
が、俺はこの提案に首を横に振る事で応える。
「お気遣いありがとうございます、ですが問題ありません。寧ろ…いえ、何でもありません」
「そうですか?では、早速闘技場に向かうとしましょう」
「えぇ、リンやシュリ等の従者を除いて、こういう場で、力を振るうのは初めてですから…少し楽しみでもあります」
「好戦的なのですね、頼もしい限りです」
シュバルツに案内される形で彼女の後を着いて歩く俺に、リンとシュリは各々の言葉で激励の言葉を掛けてくる。
「アンナ様、この3ヶ月間の成果を拝見させて頂きます」
「もう、リンちゃんは堅いなぁ…でもでも、レイちゃんもハクちゃんも、もちろんセイちゃんも応援してました~」
「…貴女達五人には感謝しています、その気持ちをこの一戦で形にしてみましょう」
─────
───
─
七つの大型ドームで囲むように設計された学園の地下、そこには10km四方の闘技場と観客席が広がっていた。
「かのノワール国の姫殿下の試験官に選ばれた事を光栄に思います、…が、試験官として殿下の力を測る無礼はお許し願いたい」
「…構いません、────私も本気を出すとしましょう、私にはどうしてもS級以上に成らねばならない理由がありますから」
闘技場で向かい合うシュバルツがランス状の星武器を展開させるのと同時に、体内で練り上げていた魔力と氣を圧縮させ、更に圧縮させ続けたものを瞬間的に爆発させるように解放すると、その状態を維持。
そして、呼吸と共に周囲の魔素を吸う事で黒い髪を逆立たせ黒いエネルギーを纏う。
「ッッ!?」
「お待たせしました、…何処からでもどうぞ、シュバルツ殿」
「ッ…ま、参りました…降参です…」
◆❖◇◇❖◆
その頃、闘技場全体を見下ろせる位置で特殊な強化ガラス越しから様子を伺っていたルドルフ、リン、シュリの3人は眼下に広がる光景を見て絶句していた。
「うぅん…たった数日であそこまで強くなったかぁ…」
「シュリ、勝てますか?今のアンナ様に」
「えぇ~…どうだろ、あの状態にさせなければ勝てるかもだけど、かなり難しいよねぇ…ていうか、あれって神克に似てるけど…発展させたの?あの短期間で?」
「せんぱ…数少ないS級星騎士である御二人がそう言うとは…」
そう、S級であるリンやシュリをしても今のアンナに絶対に勝てるとは言えない、それだけの力を文字通り示されてしまえば、ルドルフとしては文句無しでA級以上のクラスに入れる事は確定した。
即ち、この時点でS級クラス、S級騎士として認定する事になるのだが…その事を知っているのは、この場に居る3人だけである。
「シュリちゃんは状況次第ではS級でも下の方ですから~」
「…シュバルツ殿が弱い訳ではないですね、確かな実力を感じました。…アンナ様が数日前とは別人と思える程強くなり過ぎたのです」
「なるほど、…さて…どうしたものか…シュバルツはA級騎士の中でも上澄みの力を持ち、そんな彼女を刃も交えないで下す時点で、A級以上の力がある事を認めざるを得ないのですが、学園側としては確かな実力を測りたいのですね…」
「飛び入りみたいな流れになるけどアタシかリンちゃんが試験官役を引き継いでも良いけど~…どーする?」
「それは問題ありませんが…何方が?」
「…私がいきましょう、あの状態でのアンナ様とまともに戦えるのは私しか居ないかと、シュリはアンナ様のパラメータデータを分析してください」
そう口にすると、背後の扉から外に出て、闘技場へと降りて行くのであった。
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