12 / 48
第一章〜幼年期編〜
平和の味
しおりを挟むレイとの鍛錬の翌々日、俺はシュリを伴い無駄に広い風呂場へと向かい掛け湯をした後に湯船に浸かっていた。
︎︎ 勿論、レイからの教えを忘れる事なく氣と魔力を体内で…何なら指先一つ動かす度に操作しながらだが。
︎︎ あ?メスガキの入浴シーンに興味ねぇ?うるせーよ、そもそも俺は男(身体は女)だ。
「その後、仮想空間では変わりはないですか?」
「そうみたいですね~、結局なんでログインし難い状態になっていたのか、あの魔族は偶然あの場に湧き出たのか…分からない事が多い事件でしたがアンナ様のお陰で幸いにも死傷者は居ないみたいです~」
︎︎ …シュリの報告に、幾つか思う所はある。
︎︎ 何故、あのタイミングで大規模な電波障害が起きたのか。
︎︎ 何故、エステル達以外の奴等はあの首無しに襲われなかったのか。
︎︎ 思う所はある、が…何分、エステルの幼少期は本編ではあまり深堀はされていない、何かはあったらしく、ファンディスク等で深掘りされているという話を聞いた事はあるが残念ながら、俺はファンディスクには触れること無くこっちの世界に来ちまった。
︎︎ ともあれ、分からない以上は下手な考え休むに似たり、だ。
︎︎ 幸い、シュリを始めセイ等のメイド&警察組が色々調べているようだ。
︎︎ ……まぁ、何かのノリで家政婦はみちゃった、とかやりそうだな、シュリの奴。
「そうですか…、そういえば今日はレオナに呼ばれていたので私は少し出掛けてきます」
「あらま~、湯冷めしないですか?大丈夫です?」
︎︎ 湯船から出て渡されたバスローブを羽織る、…前世の記憶を取り戻した直後には慣れなかったが、このやり取りにも今じゃ慣れたものだ。
「そこまでやわではありません、…どうせならシュリも来ますか?」
「あは♡お供しまーす」
︎︎ 笑顔を見せるシュリ…俺も10年位すりゃあシュリみたいな身体付きになるんだろうか…。
…
……
………
︎︎ はっ!?
︎︎ いかんいかん!つい、一昨日のシュリみたいにセクシーポーズをしている俺アンナを想像しちまった!
︎︎ 首を何度も振る俺に頭の上でクエスチョンマークを浮かべているシュリを内心苦々しく思いながらも話を振る。
「それにしても、まさかシュリが戦いながらデータを採取していたのには驚きましたね、そのお陰で昨日は助かりましたが」
「ふふふ、昔取った杵柄ってやつですよ~、実は昨日のアンナ様の啖呵も撮影済みです~」
「…前言撤回です、同行を許可したのは私ですが割と性悪なのですね、貴女は」
︎︎ 性悪というか、此奴メイドの仕事はちゃんとしているのか?
︎︎ それに昔取った杵柄…ね、前職は探偵か何かか?
︎︎ ───まぁ、指摘されたとしても俺は後悔はしていないが。
◆❖◇◇❖◆
︎︎ 時間は一日だけ遡る。
︎︎ 俺はシュリを伴いリオンが助けを求めたという交番に足を運んでいた。
︎︎ どうしても、一言言ってやらないと気が済まない事があったからだ。
「おや、何かお困り事ですか?」
「御機嫌よう、私はアンナ・ノワール…この国の姫です」
「そしてあたしはアンナ様の従者のシュリちゃんで~す」
︎︎ 一昨日の様にお忍びとしてではなく、ノワール国の姫としてドレスで着飾ってきた為に交番に待機していた若い警察官…リオンの話の通りなら此奴がリオンの話をマトモに取り合わなかった奴だ。
「な!?こ、これはアンナ陛下!本日は一体どの様な御用件でしょうか!」
「そう畏まらないで下さい、…実は先日の電波障害の際に私と同い歳位の一人の少年と出逢いまして、何でも妹と幼馴染を助けて欲しい、と」
「あ、あの時の…」
︎︎ ハッとしたように直ぐに話に食い付いたのを俺は見逃さなかった。
︎︎ 此奴にはどうしても聞きたい事、そして言いたい事があった為に問いかける。
「私は一つ、貴方“個人に”問いたい事があります、───助けを求める声に応じない処か最初から見捨てるのが貴方の正義ですか?」
「ッ…!け、警察は事件が起きなければ動け「私は警察官としての貴方に問うていません、貴方個人に問うているのです。…親しい者を失うかもしれない恐怖を抱いている民間人を…何の力も持たない子供を見捨てるのが貴方の正義……いえ、仁義なのですか?と」そ、それは…」
︎︎ 警察官の目が揺らいでいるのが手に取るように分かる。
︎︎ 俺達、極道の世界は…まぁ、古い考えだとは思うし自覚もしているが仁義を重んじる。
︎︎ 仁義とは人を人たらしめる“道”だ、今回、此奴がした事は何の力もないガキ共を殺されそうだ、と、嘘か真実かは兎も角として、知っているのに見殺しにしたのと同義だ。
︎︎ だが、目が揺らいだのを見ると根っからの外道ではないらしい。言っても分からんジャリだったら、生き地獄を見せる所だったが…その目をじっと見つめ畳み掛けるだけに済ませる事にする。
「…私は信じます、祖父が治める国の国民の一人である“貴方の正義”を」
「っ…!す、すみませんでした……!」
︎︎ 深々と頭を下げる警察官に踵を返す。
︎︎ 何故なら満足したからだ、此奴は“マトモな側の人間”だというのが分かっただけ来た意味はあったから。
◆❖◇◇❖◆
︎︎ シュリに道中揶揄われながらも、数日ぶりにリオンとレオナ、そして2人の父母が待つ家へと着いた。
「先日は息子と娘を助けて頂きありがとうございます、心ばかりの歓迎をさせて頂ければと思いますが…その、本当に宜しいので?今からでも店の方を貸切に…」
「いえ、王族であり騎士として当たり前の事をしたまでです、…寧ろ気を使わせてしまい心苦しいので、それに…」
「アンナ様!これ美味しいんですよ?沢山食べてください♡」
「こら、レオナ!アンナ様に無礼でしょう!申し訳ありません、アンナ様!」
「いえ、こうしてこの国に生きる人々の日常を覗けるのは良い経験だと思っています、…御一つ頂けますか?レオナ」
︎︎ 客人を持て成すならレストランへ、と口にする二人の父親に首を振る。
︎︎ 俺が初めて救ったというなら、普段レオナ達が食べる飯を食いたいと思ったからだ。
︎︎ 寧ろ、レストランで食べるような飯よりこっちの方がこの国の生活が見れるし一石二鳥でもある。
「えへへ、なら他の美味しいものも私がよそいますね!」
「なら俺はシュリさんの分をよそうよ」
「わぁ~、ありがとうございます~」
「それにしても、昨日警察の方が謝罪に来たのですがアンナ様が手を回して下さったのでしょうか…?」
︎︎ シュリがリオンに料理をよそって貰うのを横目で見ながら二人の母親が問いかける、多分あの後すぐに謝罪に来たのだろう…これが日本ならまた誤認なんちゃらがどうだ、とかで謝りにも来ない奴が殆どだと思うが…。
(中々骨がありそうだな…あの若い警察官)
「…そうですね、全くしていないと言えば嘘になります」
「重ね重ねありがとうございます…!」
︎︎ まぁ、謝罪の件に関しては俺というより本人の善意からの行動だから礼は要らないが…というか、この肉料理美味!?流石に三ツ星レストランでコックとして働いてるだけはあるな…。
︎︎ 俺が救った命、そしてそれを暖かく受け入れる家族を羨ましく思いながらも俺は暖かくて美味い飯を平らげた。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる