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第一章〜幼年期編〜

怒り

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 リオンの妹と幼馴染を救う為に現実世界で二人のデバイスを媒体に訪れたのは神殿が永い時間放置され、彼方此方木々が覆い茂った何処か幻想的な空間だった。

 ︎︎ 何処か幻想的…という点を除けば頬を撫ぜる風も、踏み締める土も現実と何ら変わらない事から隣で何やらデバイスを弄っているシュリに問い掛ける。


「此処が仮想空間ノア…ですか?」

「はい~、現実世界となんにも変わらないですよね~」

「そうですね、現実世界と何ら変わらない…」

「あ、でも魔物や魔族に倒されたら“魂食い”の影響で現実世界でも生命の危機はありますから気を付けてくださーい」


 ︎︎ なるほど、ゲームオーバー=死、か…なら尚更さっさと見付けてやらんとな。


「リオンくんの妹ちゃんは栗毛の女の子でエステルっていう娘は腰まで伸びた銀髪みたいです~、行きましょう、アンナ様~」


 ︎︎ エステル、か…エステルとは『ウルガルド物語』で主人公として登場するメインキャラだが、出逢うには些か早過ぎる気がする。

 ︎︎尤も、ゲーム中で語られなかっただけで幼少期にこういうすれ違いがあったのかもしれんが。

 ︎︎考え込んでいる俺を心配してか不思議そうに首を傾げているシュリが近付いてきた。


「ん~?アンナ様~?」

「…何でもありません、行きましょう、シュラ」

「はーい、───でも、先ずはお掃除が先みたいです~」

 ︎︎何か居る程度の気配しか感じなかった俺よりも数秒早く焔を纏った蹴りを繰り出し纏めて数体のゾンビを蹴散らすシュリ。

 ︎︎俺も負けじと土から這い出てきた後続のゾンビの両手両足を斬り飛ばすが…ゾンビや骸骨の魔物達はそれでも這い出てくる。


「…アンデッドタイプの魔物。しかもかなりの数ですね」

「んー…少しペースを上げますね~、アンナ様しっかりアタシについてきてくださーい───行くよ~『星技・焔舞』」


 ︎︎シュリの星武器は緋色の鉄扇のようだ、前世では数える程度でしか見た事はないが、鉄扇の利点はその携帯性。

 ︎︎白鞘みたいな鍔の付いてない刀よりも、ドスのように見て分かるもんよりも、使い手次第では暗殺に向いている、ある意味厄介な得物だ。


 ︎︎事実、シュリは舞うような軽やかさで間合いを詰め、骨の部分でアンデッド共の手首を、首を、胸骨を、脚を破砕し紅蓮の業火と共に舞う様に鮮やかな動きで燃やしながら無駄の無い動きで進んでいる。


 (やっぱり只者じゃなかったか、ノワール王国の執事やメイドは化け物揃いか…)

 ︎︎感心してはいたが、先程から斬っているアンデッド共にある違和感を感じた。


「…泣いている…?」


 ︎︎ある者は火を自ら受け入れ、ある者は自ら刃を突き立てられに無抵抗に斬られ…その様はまるで…。

「そうみたいですね~…多分、無理矢理従属関係を結ばれた上で操られているみたいです~」

 ︎︎助けて欲しい…救って欲しい…。

 ︎︎声無き声が自らの“消滅”という形で救いを求めている有り様に、俺は無意識に歯を食いしばっていた。

「…シュリ、“この方々”の浄化は可能ですか…?」

「出来ますよ~、寧ろそういうのは朱雀族の十八番みたいなものですから~」

「頼みます、…私はこの方々を操る下衆を消し飛ばします」



 (見よう見まねだが、此処はリンの動きを真似させて貰うとしようか───俺が知る中ではこれが一番速い)

 ︎︎脚に魔力を集めて一気に駆け抜ける。

 ︎︎リンの声がかなり離れた位置で聞こえた気がしたが、気にせず走り抜けた。


「…頼みましたよ、アンナ様。───さてさて、頼まれちゃいましたし全員浄化しちゃいますよ~」

 ◆❖◇◇❖◆

 ︎︎リオンがログアウトしてからどれくらい走っていただろうか、仮想空間だとしても…いや、仮想空間だからこそ肉体的な疲れより精神的な疲れは酷く感じる。


「は…っは……!」

「うぅ…もう走れないよ…私達あの魔物に食べられちゃうんだ…!」

「っ、諦めないで、きっと逃げ切れるから…」

「ククク…鬼ごっこはもうおしまいか?」

「「!!」」

 ︎︎まただ、さっきから攻撃こそしてこないが逃げた先に先回りをしてニヤニヤと私達を品定めでもするように赤黒い視線を向けてくる。


「それにしても、俺様は魔物なんて低級な存在じゃあないんだがなぁ…まぁいい、お前は最後に喰ってやるよ、“レア物”」


「助けてお姉ちゃん…!」

「ッ!食べるなら私だけを食べて!その娘は見逃して…お願い…」


「クヒヒ…泣かせるねぇ、良いぜ?俺様がお前を“喰ってる間は”見逃してやるよ」

 ︎︎幼い私でも分かる、私は生きたまま食べられるのだろう。
 ︎︎嬲るように、恐怖と苦痛を刻み付けられながら。




 ︎︎───それでも、レオナちゃんを護れるなら…!


「絶対よ、…逃げてレオナちゃん…」

「ひひひ…ッ、良いねぇ…!とびっきりのご馳走だァ…!」

 ︎︎生臭い息が近づいてくる、このまま生きたまま食べられてしまうんだ…

 ︎︎怖い…。
 ︎︎怖い怖い怖い…っ。
 ︎︎怖い怖い怖い怖い怖いッ。

 (あぁ…私、此処で死んじゃうんだ)


 ︎︎夢…叶えたかったな…。

「それじゃ、いただきま…ッ!?」

「!?」


「…その穢らしい顔を彼女から離しなさい…下衆」


 ︎︎私が意識を失う前に見たのは、夜の闇よりも黎い髪を靡かせて、深紅に燃える様な眼で魔族を睨み剣先を向ける一人の小さな騎士様だった。
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