上 下
1 / 48
第一章〜幼年期編〜

プロローグ〜ある未来の一幕〜

しおりを挟む
 ステンドグラス越しに差し込む稲光が教会を包む中、二人の少女が剣を交えていた。

「はッ!」

 一人は緋色の髪を腰まで伸ばし、両刃の大剣を細腕で軽々と振るう物憂げな印象を与える少女。

「はぁッ!!」

 一人は射干玉の髪を肩まで伸ばし片刃の刃で大剣をいなし踏み込んだだけで本来破壊する事すら叶わぬアストラル体である床を踏み砕き緋色の髪の少女の得物を弾き飛ばす。


「っ……お見事です、アンナ様…」

 首元に鋒を突き付けられた少女、エステル・スカーレットは乱れた息を整えながら敬愛する少女、アンナ・ノワールに微笑みを浮かべお互いのデバイスである精密機器から機械的な電子音声が勝者であるアンナの名を挙げる前にエステルは二人の戦いを結界の外から高みの見物をしていた初老の老人の手により無理矢理引き寄せられる。


「悪魔に負けるとは情けない…」

「…何の真似でしょうか?」


 アンナはというと予想は出来ていたのだろう、問い掛ける言葉遣いそのものは淑女のそれではあるが己が魔力を武具として顕現させる腕輪型のデバイスである 顕章けんしょうに先程よりも魔力を喰わせ、辺りは彼女の怒気がそのまま現象として形作るが如く、幾つもの火花が散る。


「現代に蘇った悪魔を倒せない聖女等不要の長物…かくなる上は次代の為に生命を捧げて貰お「──はッ!想像通りのゲス野郎じゃねェか…ふざけんじゃねェぞ…!」…何だと?」


 自身を悪魔と呼ぶ声には特に何の感情も湧く事は無いが、聖女…エステルの生命を奪う発言にアンナは吼えた…!


「生命をなんだと思っていやがるッて言ってんだッ!その腐りきった根性を叩き直してやるぜハゲオヤジ!!」

「…舐めるなよ、小娘が……行け、御前達!」


 初老の男の命により数十人もの黒いスーツに身を包んだ男が各々の得物を顕現させる間、自身の為に啖呵をきった悪魔令嬢アンナを見つめるエステルの眼には荒々しくも力強く燃え盛る焔と紫電を纏う三叉槍を振るい一振で十数人もの 星騎士せいきしを戦闘不能にして行く至高の騎士の姿であった。


◆❖◇◇❖◆


 数分後、数の暴力に打って出た黒服達はたった一人の黒髪の少女に破れ死屍累々となっていた。
 約一名、辛うじて意識を保っていた男は焔と雷を纏い舞うように軽々と長物を繰るアンナに畏怖の視線を送る。

「ば、化け物め…」

「おう、俺ァバケモンだからよ、吐くもん吐かねェとマジで沈めんぞ 手前テメェ等…タマ取られる前に吐いた方が良いぜ…?」


 そんな男の皮肉にも否定ではなく肯定で返す処かヤクザか暴力団の様な言葉遣いで…否、見た目は絶世の美女ではあるが言葉遣いは疎か気配もがカタギのものでは無い異常なものを発し槍の鋒を向けながら見下ろすアンナに男は畏れと憧憬を抱き上半身を起す。


「…せ、聖女なら転生の間だろう…此処から差程離れていない研究所の地下だ…」

「転生の間、ね…あんたの車借りるぜ」


 素直に話した御褒美とばかりに身体をまさぐり車のキーを取り出すとそのまま足早に教会を後にし、外に停められていた黒塗りのリムジンに乗り込むアンナを見送る男は呆気に取られるばかりだ。

「め、めちゃくちゃだあのガキ…」


 無論、本人はそんな言葉や想い等知った事ではない、仮に届いたところで彼女は意にも介さないだろう。


「…今度は間に合ってくれよ…!」


 ───これは、彼女かれが最強の星騎士せいきしとして哀しくも気高い運命を破壊し、遠い未来に神話となる物語。


 何れ語られる物語の一幕である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

平凡なオレは、成長チート【残機無限】を授かってダンジョン最強に! でも美少女なのだがニートの幼馴染みに、将来性目当てで言い寄られて困る……

佐々木直也
ファンタジー
交通事故で死んだオレが授かった特殊能力は──『怠け者でもラクして最強になれる、わずか3つの裏ワザ』だった。 まるで、くっそ怪しい情報商材か何かの煽り文句のようだったが、これがまったくもって本当だった。 特に、自分を無制限に複製できる【残機無限】によって、転生後、オレはとてつもない成長を遂げる。 だがそれを間近で見ていた幼馴染みは、才能の違いを感じてヤル気をなくしたらしく、怠け者で引きこもりで、学校卒業後は間違いなくニートになるであろう性格になってしまった……美少女だというのに。 しかも、将来有望なオレに「わたしを養って?」とその身を差し出してくる有様……! ということでオレは、そんなニート幼馴染みに頭を悩ませながらも、最強の冒険者として、ダンジョン攻略もしなくちゃならなくて……まるで戦闘しながら子育てをしているような気分になり、なかなかに困った生活を送っています。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

処理中です...