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学園編・前編

第37話〜秘めた狂気〜

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「階層(ヒエラルキー)を壊す…とは?」

 穏やかに微笑む緋色の瞳を見詰めながら問い掛ける、言葉のニュアンスと女神と諍いを興したという事から少なくとも見た目は15歳程の少女だが彼女は私は勿論のことエリスよりも年齢は上な筈だ。

 …これも女神の呪いとでも言うのだろうか。


「そうね、…先ずはこの世界の種族のパワーバランスを振り返ってみましょうか」


 ふむ、このウィルビウスは嘗て幾つかの戦争を経験したがその中でも長く、そして多くの犠牲者を出したのが、人魔竜大戦だが他にも三代目が架け橋となった妖精戦争や三大国家が未だ今の体制を取る前の混迷を極める時代の古代大戦等が存在する。

 が、どの大戦でもどの種族が一番等とは歴史書にも書かれていなかった筈だが彼女は歴史書以外の何で知ったというのだろうか。

 私はあの図書館で多くを学び、そしてアジ・ダハーカ達竜神の記憶を継承する事で少なくとも疑似体験として識(し)ったが…この子もまた何か預かり知らぬものを…?

 訝しんでいる私に彼女は首を振る。


「…それは未だ言えないわ、けれど私の能力は先程も言った様に“自身も他者も含めた運命力を支配する”能力。貴方が庇護下に置いている人達は上げる事は危害を加えないという事から特に問題無いかもしれないけど、下げようとすれば無効化された上に私自身にフィードバックされる…けど、そもそも運命力って何?って思わない?」


 それは…思わなくもないな、無論言葉のニュアンスとしては転生する時にクロトから訊いたが彼女だって運命の三女神と呼ばれる神の一柱だ。守秘義務として詳しくは言えない事もあるだろう。


「私はテュケ…運を司る女神に転生させられた、と言えば貴方なら解るかしら」


 …なるほど、説により両親が異なるがローマ神話ではフォルトゥナと呼ばれた女神だ、その呼び名の通り財産や繁栄、運を司る女神であり或る意味では彼女の担当女神には相応しい女神だが、彼女は先程“転生等望んでいなかった”と言っていた。

 それと階層(ヒエラルキー)を壊すというのと何か関係があるのだろうか?


「そう、私もユウキさんも、勿論他の転生者達も何かしらの“女神”に転生、或いは転移させられたという点は同じ。ピンキリがあるからなんとも言えないけれど、私はあくまで一般人の常識範囲での戦闘能力が無いのに対しユウキさんは国民的バトル漫画の方々に連れて行かれそうな勢いで強い、一体どんな能力を与えられたんですか?」


 お、おぅ……確かに言われてみれば女神(クロト)に与えられたからこその能力ではある。
 後、そのバトル漫画の大先生に怒られるからそういう事言うのやめよう?別の意味で危機を感じるから。

 まぁ、問われたら答えるが。


「私は極限突破(きょくげんとっぱ)というスキルを転生時に貰ったね、限界の概念を無くし逆説的に本来習得不可能な魔法や異能を習得可能にする能力、最近目覚めた力のお陰でパラメータも上がっている筈だよ」

 そう、私は玄武が宿った時に一つ殻を破った様だ。

 自分一人で鍛錬する時の環境は周囲に影響を与えないように半径5kmに多面結界、玄武の護りを張り1万倍の重力下で300キロの重りを着込み500キロの特性の模造刀を合計1万回振っている、後は以前食堂で何時ものメンバーに話した鍛錬をバージョンアップさせた鍛錬をしている。

 因みに私のパラメータはつい先日、ファラ陛下に巨神の暴走を止めた英雄を世間に宣伝する為に必要だから、という事で玄武を身に纏い、能力や魔力を精密に検査出来る魔道具で測った時はファラ陛下にドン引きされた。

 その記録を桃…基(もとい)、アンに見せると同じ転生者である彼女すらドン引きしている。


(持ってて良かったパラメータ表記魔道具…!)


 ユウキ 黒天龍王(こくてんりゅうおう) 玄武(げんぶ)
 体力 SSS(トリプルエスダブルプラス)++(EXに限りなく近い)
 筋力 SSS(トリプルエスダブルプラス)++(EXに限りなく近い)
 防御力 測定不能(感情の変動でSSSから♾)
 俊敏性 SSS(トリプルエスダブルプラス)++
 魔力 SSS(トリプルエスダブルプラス)++
 対魔力 測定不能(防御力の項参照)
 最大魔力許容量 測定不能
 独自能力 極限突破

 使用スキル (最大Lv5が上限※但し心魔法を解放し、竜神の後継者を解放しているこの状態は上限が一つ上がる)
 鑑定眼Lv5 騎乗Lv4 火魔法Lv6 水魔法Lv6 風魔法Lv5 土魔法Lv5 金魔法Lv5 氷魔法Lv6 雷魔法Lv5 光魔法Lv5 闇魔法Lv5 音魔法Lv5 創魔法Lv5 時魔法Lv5 空魔法Lv5 心魔法Lv5 無魔法Lv5 魔心流開眼 複合魔法技術Lv5

 EXスキル
 (諸行無常
色即是空 心闘術・黒天龍王玄武(こくてんりゅうおうげんぶ)
空即是色)
 竜神の後継者
 心闘術・黒天龍王玄武(こくてんりゅうおうげんぶ)
 (心に宿る霊獣、魔獣、聖獣、神獣の類を武具や神鎧として形作った結果生み出されたユウキ自身の心の形。巨大な黒い亀に白蛇と黄金の龍が巻き付いた姿をしており神鎧として具象化した際は漆黒の鎧に純白の蛇腹剣が巻き付き脇差として生太刀が腰に帯刀された姿になっている。更に手甲は盾の役割もこなし肩や腹部、腕から魔力を弾丸に変えた一斉掃射も可能。

 また、神鎧としての能力は驚異的な迄の絶対防御力と再生力。今までEXスキルとして存在していた能力も内包しており魔法や能力、更に神クラスの権能や無効化、模倣の類も能力として定める様になり結果的には脳を破壊するか、相応のダメージを与える“毒”を与える。防御力に至っては障壁ではなく多面結界を操る様になり、そもそも結界を張らずとも自身と同じパラメータかそれ以上の攻撃しか通さない。

 鎧全体は傷だらけではあるがこれはユウキが経験してきた戦いと鍛錬の歴史、多くを護り、その度に傷付いても涙を流しても愚直な迄に護り通そうとしてきた祈りの数。増える事はあれど減る事は基本的には無い。)


「いや、これ人魔竜大戦時の八英雄全員か邪竜神がガチで対応するレベルのバケモノパラメータじゃないですか、然もユウキさんの性格からして過剰に盛らないのは私が一番解ってるし…何だったら太陽神之銃弾(ヘリオス ヴォリーダ)、太陽神之銃剣(ヘリオス クシフォロンヒ)…あれだけでも世界から畏怖されてるわよ?」

 色々酷い言い草ではあるが確かにパラメータとしての戦闘能力では父上と漸く並んだ位だとは思う、後、前世での素の言葉で話してるよ、桃。

 それに、私程度を畏怖するよりも私を鍛えてくれた父上達の方がバケモノじみているとは思う。

 あの人達は多分パラメータを偽装している、或いは私が未だ知らない上の世界がある。離れて暮らすようになりそれが如実に解るのだ。


 まぁ、彼女が妹の生命を握っているのと同じ様に下手な手を打てば自身の破滅を意味する事は理解してくれた様で何よりだ。晒す事になるがそれ以上に彼女は戦闘という点では初心者だ。

 パラメータだけ見て腰を抜かしそうな勢いでいる彼女個人にあるのは財力と前世が現代人であるという知識のみだ。

 こほんと咳払いをしながら大仰に両腕を広げるアンに白々しさを感じるが敵意はあっても害意は無い事を伝える様に腕を組む。


「素晴らしいわッ!能力の概要を訊いた時に肩透かしを受けた気分だったけど正に無敵の超人!神を殺すのも夢では「誰も殺さないよ、私は」…今なんて?」


 ギギギ…と、首を動かす桃に突き付ける、そもそも私と桃とでは考え方が異なるのだから先ずはそこから説明しなければなるまい。


「君が誰に何をされたのかは知らないし、正直君が私を裏切った時点で私の人生から有栖川(ありすがわ)桃(もも)という存在は死んだも同然だ。今は母上のお腹の中に居る妹が殺されそうだから話したくもない君と話してるだけで、私の中での君はその程度の価値しかないんだよ、……それに、本当に邪道になるけど生太刀を使えば若しかしたら一時的に生命を落としたとしても妹は蘇生出来るしね?私自身の矜恃(プライド)に傷を付けたくないから誰も殺したくないけど、君が15年前の惨劇の様なものを引き起こすなら私は矜恃を裏切ってでも君とテュケという女神を殺すしかないよね。多くの生命を救う為に“俺”が汚れ役を躊躇無く出来る屑(ロクデナシ)なのは、元恋人である君が一番解っているだろう?」


 話している最中に前世で一時期使っていた一人称が出てきたが、私は元陸自としてある年に起きた大災害の際に半狂乱し、幼い幼児を盾に物資を独り占めていた男をその場に残っていた私が殺しはしないが全治半年の大怪我を負わせた事がある。

 更に、酒の上での発言とはいえ当時上官に理不尽にいびられていた事もあり、世間に事件として取り上げられる前に自ら陸自を辞めた。

 辞めた事自体には当時の上官に中指を突き立ててやりたい位だが、私が居た部隊の様な場所ばかりでなければ、あの時取った行動も変わっていたし、もう少し続けていただろうか…というのはある。

 その為、今世ではあの時の様な苦い想いはしない様に極力殺したりそれに近い行動は敢えて禁じてきたが…目の前の女が15年前の惨劇を繰り返す一因になるのであれば、俺は自らに課した禁じ手を全て解放してでも桃と女神のみを殺そう。

 努めて平静に、それでも隠し切れない殺気を抑えながら問う私に桃は身体の震えを抑えられないでいる。


「あ、あれは……まさか貴方が居るとは「私が居るかどうかは関係ない、…解るだろう?」っ…復讐、するつもり…?」


 身体を震わせながら問い掛ける桃に私は鼻で笑う。


「馬鹿にしないで貰えるかい?復讐なんて君達と同じ土俵に上がる様な事はしないさ。仮にしたとしてもそれで一人でも生き返る訳でも無いしね
───但し、私は私の護りたい世界(もの)の為に修行で得た力を使うつもりだから、君がそれを害するなら容赦はしない。……私を、俺に戻させるな、桃」

 復讐をするとすれば、そんな事をまかり通らせる世界そのものだ。
 だから私は、私のやり方で世界に復讐をしている、…魔法も使えない社会的弱者の村から生まれた私が社会を飛躍的に進歩させ護り育む、これ以上の復讐は無いだろう。


「…ふふ、ふふふ…っ…狂っているわ、貴方…その為にそこまでの力を手に入れても私に復讐しないなんて…」

「…何度も言わせるなよ、桃。──手前(テメェ)如き眼中にねェんだわ…俺は。今の生活をそれなりに気に入ってるしな。誰を殺したかろうが許さなかろうが知った事じゃない。そんなに殺したいなら手前(テメェ)の手で殺れ、その代わり俺の目の届かない場所でな」


 自分でも未だ前世でのあの暗くて地の底から響く様な声が出るとは思わなかった、だが…こうでも言わないと釘は刺せないだろう、…前世での私なんて吐き気がする程嫌いだが使えるものはなんでも使おう、桃ではないが。


「~~ッ!き、今日はこれで勘弁してあげるわ、…またね、ユウキさん…」


 顔を真っ赤にしてすたすたと立ち去る桃を見送る、この世界には録音機の類は未だ無いが…さて、どう出るかな?


----------------

 私、アンこと有栖川(ありすがわ) 桃(もも)は久しぶりに恐怖というものを感じていた。

 馬車の中で思うのは前世での元恋人である金剛 悠希さんの事である。


「…すっかり変わったと思ったけど…根本は変わっていなかったのね…」


 あの底冷えする様な冷たい眼、鼓膜を擽る低い声…

 その癖、例え自分が闇に堕ちようとも自分が護ると定めたものは護ろうとする喪うまいとする怯えを孕んだ狂気…!

 正しく、高貴なる私が本気で愛した男(ひと)の片鱗を堪能出来た時間だった。


「ふふ…ふふふっ!良いわ…貴方が戻りたくないというなら私が貴方を戻らせてあげる…その上で、あの日果たせなかった約束をハタシマショウ?」

 うふふ……あはははははははははッ!

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