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学園編・前編
第26話〜救い〜
しおりを挟む馬車に揺られ四つの影が楽しげに談笑をしている、中に座るのはこの世界では知らぬ者の居ない英傑であった。
「…奴と話すのも久しぶりだな、…アリシアは無茶をしていなければ良いが」
「ふふ、…大丈夫よ、あの子(アリシア)はなんだかんだ言ってユウキが好きなだけなんだから」
剣と魔法、各々の師匠でありユウキにとっては大切な父親は彼に託された旧友(アレクシア)の娘子を気遣うも、同じ女だからこそ解るとばかりにソフィアは首を振る。
「いやぁ、それにしても家族7人で飯食うなんざ久しぶりじゃねぇか?ルトちゃんとルカちゃん、アジの野郎を入れたら10人だけどな!」
「そうだね~それに、レオさんとソフィア姐さん達も報告しなきゃいけない事もあるし、ね?」
…まぁな、と言う照れ臭そうな声と頬を赤らめているソフィア…彼女の腹部はぽっこりと膨らんでいる。
そう、この二人は50代を前にして漸く子宝に恵まれたのだ。…今までどうして恵まれなかったかと問われるならば偏に過去の大戦時に受けた呪術的な後遺症と言えるが此処では割愛する。
重要なのはユウキにもうじき妹が出来るという事実、長年家族として暮らしていたリリスとテラの喜びもひとしおというものだ。
----------------
私はあの後セチアに御礼を述べた後、彼女を学園の女子寮へと送り届けエリスを伴い父上達との待ち合わせ場所である学園の内部に店舗を持つ高級レストランの待合席に陣取っていた。
魔法騎士養成学校イージス、三大国家から選りすぐりの才能の原石を集め育てる養成機関にして有事の際は軍隊としての機能も持つ。
この学園に入学している者は魔法を扱う適正のある者と、魔法を扱う適正が無い代わりに卓越した武術の腕前を持つ何方にしても英雄の卵と呼べる人材が集う最高峰の訓練学校だ。
その性質上、学校というよりは最早学園都市に近い性質を持つ為私とエリスが居る様なレストランや料亭、ブティック、散髪屋、果てはプラネタリウム等多岐に渡る店や施設も学園内に併設されている。
「ところで、エリスはどの寮にするか決めたのかい?」
「ん……ユーくんの行くとこ…」
この学校には大きく分けて四つの寮が存在する。
強い魔法や能力の適性を持つ者がその素養を更に高め、実戦的な魔法技術を高める為の学び舎とする第一寮。
剣や弓、槍や徒手空拳のあらゆる武術と馬から始まり魔獣や竜種に対する騎乗スキルを学ぶ第二寮。
魔法道具の開発や武具の錬成鍛冶、新たな魔法の理論を研究・実証実験を主とし戦争に有利に働く技術を学ぶ第三寮。
そして、どの寮の科目にも自由に出席が出来る代わりにそれに比例し進級や卒業に必要な単位が多くなる第四寮の四寮からなる。
「私は…そうだな、政務とかもあるからあまり忙しくない寮が良いけど魔法を使って良いなら四寮が良いかな、色々学びたいからね…?」
そう、私は入る寮を悩んでいた。どの寮も各々に特色があり学ぶものが多いのは私の興味を大いに引いた。
無論、本人の特性によってクラス分けはされるのだが私とエリスに関してはその入学の経緯からして特殊である為現在保留にして貰っている。
「…セチアは第一寮…」
何時の間に仲良くなったのかは解らないがエリスはポシェットから飴を取り出し口の中で転がしている。なるほど、確かにあれだけの資質を持つなら妥当というものだろう。
「──そうか、彼女は第一寮なんだね。私は第二寮だ。…勿論、ユウキも第二寮を選んでくれるよね?」
「……アリシア…」
不意に隣の席に人の気配を感じるとにこにこと微笑みながら首を傾げるがエリスは完全に臨戦態勢に入っている。
同時に、アリシアもその体勢から紡がれる闘気に反応するかのように帯刀した片刃の剣の柄に手を掛ける。
「…何しに来た…また、ユーくんを泣かせに来たなら───潰す」
「…──良い機会だ、ボクは前々から君が邪魔だったんだ…来なよ、峰打ちで済ませてあげるから」
さっきはいきなりの口付けで動けないでいたが、弱さを指摘され、認められた今なら向き合える。
「二人とも、喧嘩はダメだ…アリシア、父上達が来るまで未だ少し時間はある…話をしよう」
「……うん、良いよ…君がそれを望むなら…」
アリシアは今にでも引き抜いてしまいそうな剣から手を離すと笑顔を浮かべ私の申し出に応じてくれた。
その気持ちに応える為に、私はちゃんと私の想いを伝えよう。…それが、私自身の為であり彼女に真摯に向き合うという事なのだから。
----------------
店のウェイトレスに言付けを託し私達は三人で夜の噴水広場に足を運ぶ。
「…アリシア…先ずは五年前の約束を結果的に破ってごめん、…君を護ると言っておきながら父上達に甘えて君の意思を無視していた…」
「…何を言ってるんだい?当時はそれが最良だったし君は君の立場で出来る事をしてくれた、それを恨むのはお門ち「それでも、君の心を傷付けていたのは変わりない」……ユウキ…」
頭を下げる、五年前は状況に流されるままに半ば約束を破っていた私は最低だ。
確かに、父上達に預ける事が結果的にはアリシアを護り、強くなる事に繋がったが親に半ば勇者という役目を優先され、孤独だった彼女に全然寄り添えてなかった。
「……ボクはね、君に相応しい女で在りたいんだ、あの夜ボク…私を、救ってくれた曙の勇者である君に。だからあの時師匠達に預けられた事自体は寧ろ感謝してる位なんだよ?」
「……エリスも、それ間違いじゃないと思う…」
……二人の言葉に頭を上げるとアリシアは穏やかに微笑んでいる。
「…エリスとはね、最後に逢った二年前にある勝負をしたんだ」
「…どっちが、ユーくんの恋人になれるか…」
…そうだったのか、…だからアリシアは…
「既成事実を作った方が早いと思ったんだけど…ふふ、逆に嫌われてしまったかな…」
「…………って……よ」
「え……っ!?」
私は気付けば、嫌ってないよ、と…アリシアに囁きながら抱き寄せていた。
嫌う筈が無かった、確かに最初は驚きはした、恐怖もあった。
けどそれは、女性に傷付けられた過去のトラウマを半ば抉られたからだ。意識してしまえばアリシア自身に嫌悪感は無かった。
「…嫌ってないよ、アリシアの事…」
「…ほんと…?」
「うん、…けど恋人っていうのは今は未だ見れない…だって私にとってはアリシアもエリスも…ルトさんやルカさん、父上や母上、リリス姉さんやテラさんと同じ位大切で大好きな人だから。…だから、今の私には誰か一人を特別には出来ない。私にとっては皆特別だから。…そんな状態では君達に失礼だ」
これが今の私の偽らざる想い、…流されるままに交際したとしても結果的に傷付けるくらいなら私は今後の在り方で示したい。
「……そっか、でも…今後は違うかもしれないんだよね…?」
「…うん、アリシアに恋をするかもしれないし、エリスを好きになるかもしれない。もしかしたら違う人を好きになるかもしれないけど…でも、その時はちゃ『しょっぱいなぁ…』…イリアスさん…?」
「…ずっと寝てたのに、何…?」
突如腰に帯剣していた剣からイリアスさんの声がすると静観していたエリスが首を傾げる、という寝てたのか…気付かない程動揺していたという事か。
『いやぁ、ずっと静観させて貰ってたよ?相棒(ユウキ)の転機だし。──けど、しょっぱいなぁ。確かに今までの君を考えたら向き合おうとしただけ大きな前進だけどそれは結局先延ばしに過ぎない』
痛い所を突いてくるが確かにその通りだ、だが…私にはこれ以上の答えは…。
『出せるだろ?相棒。君は僕が見込んだ曙の勇者だぜ?───何で欲張らない?あれも欲しい、これも欲しい、それで良いんだよ。そこの彼女(アリシア)やエリスちゃんに失礼だから?笑ってしまうね、人間が二人以上居るなら考え方も想いの温度差もあるもんさ。…君が本気で全てを救いたいと思っているなら、そういう面でも覚悟を決めな』
っ……
「…すまない、貴方は結局何を言いたいんだ?そもそも貴方は誰なんだ?」
アリシアは困惑というよりも憤りに近い感情で問うがそんなアリシアにイリアスさんは慇懃無礼な物言いで対する。
『これはこれは、初めましてだね現代の勇者ちゃん、私は先代大魔王であるイリアスお兄さんさ。そう、稀代の大魔王(クソヤロウ)を張ってたからこその言葉だと思ってくれて構わない。
──救ってはい、おしまいだなんて貴様は何様だ?…救ったならば救った責任を持て、想いを向けられ其を是とするならば己がものとせよ…其れが真に救うという事だ』
…!!
初めて聞く大魔王としての物言いに衝撃が走った、…そうか…私は…私は自分自身の最初の願いすら裏切っていたのか…。
『…なぁんてね、今の僕はしがないかっこいい神剣でしか無い訳だから後悔しない様に生きなさい、位しか言えないかなぁ…あーねむ、あの遺跡で思いっきり振り抜かれたもんだからねむっ!』
そう言うと剣からイリアスさんの気配は失せる、どうやら眠りに付いたようだ。
「……救う為に、向き合う…」
「……なんなんだ、一体…」
「…イリアス…良い事言った…後で綿ぽんぽんする…」
三者三様、私はイリアスさんが指し示してくれた道を漠然とだが理解出来たがアリシアは困惑、エリスだけはうんうんと頷く。
「…もしも、私が誰かを選んで誰かを選ばないという道ではなく、欲張りになったら…君達は受け入れてくれるのかい…?」
「…勿論、その代わり贔屓は嫌だよ?」
「…英雄色を好む…エリスはユーくんが泣かなくてエリスを見てくれるならそれで良い…」
…全く、…これじゃあ勇者失格だな…
《……ふ、だが裏ボスとやらの視点から見ればらしい、とも言えるがな…?》
エリスの中で一連の流れを見ていたのだろう、アジ・ダハーカの声が私の心の中に響くと私は決意した。
これから先も私は私の為に救うという願いは捨てないだろう、…だが、その場しのぎの救済はもうしない、…勇者であり裏ボスである私は、今後はもう少し傲慢になろう。
それが前世の倫理観とは大きく掛け離れたとしても。
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