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17.幸せな思い出
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ものすごく朧気な形で認識していた気持ちにハッキリと気付いてしまった。
ただ単に、裏表がなくて、読み取れる気持ちに嘘がなくて、信頼できる人で…。
なんとなく、傍にいられたら…と思っていた。
なのに…
「ルイーズ、おはよう」
約束の時間に家から出てきた私に、すぐ横から声がかけられる。
ビクッと肩を揺らして、横へ向いて視線を上げれば、見慣れた彼の顔が視界に入る。
その瞬間、頬に熱が上り、私は思わず片手を頬に触れた。
そんな私を覗き込むようにして「どうした?」と問いかけてくるジェイクに、私は慌てて言葉を返した。
「な、なんでもないわ!おはようジェイク」
私が挨拶を返すと、彼は柔らかく微笑んで私の頭に軽く手を乗せる。
そして、髪を撫でるように手を降ろすと、至極当然のように手を握られる。
「行こうか」
彼の優しい声、優しいしぐさに、心臓が早鐘を打つ。
…ああ…。ジェイクが好きだ…。
意識してしまうと、どうしようもなく恥ずかしく、顔を上げることができないけれど、彼に握られた手をきゅっと握り返し、手を引かれるまま歩きはじめた。
「ルイーズはどこか行きたいところはあるか?」
そう訊かれて、行きたいところを考えてみる。
ジェイクと一緒ならどこでも楽しそう…。
そう思うけれど、そんなこと口には出せない。
私は辺りに目を向けながら、再度考えてみて、ふと思いついたことを口に出してみた。
「…セレスに何かプレゼントしたいのだけど…。ずっと周りに気を配って、すごく良くしてもらってるから」
「…ああ。そうだな。俺からも何かお礼をしておかないとな」
私が言うと、ジェイクも考え込むように顎に手を当て、それから辺りに目を向ける。
セレスはどんなものなら喜んでくれるだろう?
…きっとジェイクからもらったら、どんな物でも喜ぶんだろうけど…。
歩きながら、色々な店を覗いてみる。
けれど、いつも来るこの市場は、すっかり見慣れた物ばかりで、しかも生活必需品的な物の扱いの方が多くて、プレゼントにするような物があまり見当たらない。
暫く歩いた後、ふと足を止めたジェイクにつられて私も足を止め、彼を見上げる。
「あまりプレゼントになりそうな物がないな。少し足を延ばすか」
見上げた私の視線を受けてジェイクはそう言うと、ちょうど通りに泊まっていた辻馬車を指さした。
この世界に来て、初めて街の外へ出る。
最初に案内人にものすごくざっくりとは説明してもらったけれど、この世界の世界規模も国の規模もいまいちよく分からない。けれど、ジェイク曰く、私たちの住む街から、馬車に乗れば2時間ほどで鉱石の産地で有名なノーフォークという街に着くらしい。
私たちが住んでいるウォッシュバーンは城下町で、市場も幾つかに別れて日用品から武器防具まで色々な物を扱っている店が沢山ある。
それこそ、城下だけあって品物の質も良い。
けれど、お土産品的な物やプレゼントにということを考えると、若干独自性というか、地域性みたいなものがない。
その点で言えば、隣街のノーフォークは色々な鉱石が採れ、鉱物を使ったアクセサリーなどを多く扱っているらしい。
道すがらジェイクにそんな説明を受け、昼前には目的のノーフォークへと辿り着いた。
ウォッシュバーンと違い自然が多く、山が見えるかと思えば、遠目に海も見える。
街中も自然が多く、鉱石や山の幸、海の幸で賑わいはあるものの、田舎町といったようなのどかさもある。
ちょっとした遠足に来た気分で、気持ちが僅か高揚する。
ジェイクに手を引かれながら、色々な店を覗き、店先に並んだアクセサリーを見ていると、ふと懐かしい記憶も思い出される。
「…私の母は鉱石の好きな人で、タンブルや裸石を沢山集めていて、よく石の説明をしてもらっていたわ」
もう随分長い間、そんな幸せだった過去を思い出す余裕もなかった。
店先に並んだ鉱石を一つ手に取り呟くように漏らす。
ジェイクは、そんな私をただ黙って見守ってくれている。
手に取ったのは前世での私の誕生石だったトパーズ。
心の汚れを浄化し、直観力と洞察力を高め、人を見抜く目を養う。自分が本当に何を必要としているのか、何を見るべきなのかが分かってくる。
そんな意味を持つ石。
今ではお守りにこの石を持つ意味もない。
そう思って、トパーズを元に戻し、ふとその隣にある石に目を惹かれる。
淡いグリーンカラーの石。
──翡翠。
「お。お嬢ちゃんお目が高いね。これは徳を高め成功と繁栄をもたらす石として、価値の高いものは王族や貴族の間でも喜ばれる石でね。その上、災いや不運から持ち主の身の安全を守ってくれる石とも言われていて、手ごろな価格のものはお守りとして人気の石だよ。彼氏にプレゼントなら革紐で首からかけられるようにしてあげるけどどうだい?」
私の目がとまったのを目ざとく見つけ、店主が声をかけてくる。
「か、彼氏?!あ、いえ、あの女の子の友達にプレゼントしたくて…」
店主の言葉に思わず慌てて手を振り、否定の声をあげる。
しかし店主は気にした様子もなく話を続ける。
「女の子にかい?なら、ピアスや首飾り、ブレスレットに指輪、結構な種類があるよ。どれにする?」
幾つか見本を出してくれたのを見ながら、セレスに合いそうなものを考える。
「あ、これ。これください」
「お、いいな。セレスに合いそうだ」
私が並べられた品から一つを指さすと、ジェイクも賛同してくれる。
「はい。ありがとよ」
店主が手早く品物を包んで手渡してくれるのを横目に見ながら、ジェイクも他の品を見ている。
そして、店主が品物を私に渡すのを確認すると、今度は彼が選んだ品物を店主に渡す。
「俺はこれを貰おう」
ジェイクも私もセレスへのプレゼントを購入し、店を離れようとした時、ふと視界の端に赤い色が映る。
足を止め見やると、そこにあったのはガーネットだった。
ガーネットは勝負運、金運、健康運、恋愛運など様々な意味があるけれど、母が説明してくれた中で一番印象に残っていたのが、戦地へ赴く兵士が、ケガをせず生還できるためのお守りとして持っていたというもの。
私が立ち止まったことにジェイクがまだ気づいていない内に、私は慌てて店主に声をかけた。
「ルイーズ?」
ジェイクが、少し先で立ち止まって私を振り返るのとほぼ同時に、私は店主から品を受け取り彼の元へ小走りに駆け寄った。
「ごめんなさい。ちょっと気になるものがあったから」
言って彼を見上げると、彼は「もういいのか?」と訊き返してくる。
それに頷いて返すと、彼はまた逸れては困るというように、すっと私の手を取った。
「どこかで昼飯にしようか」
帰るにもまた時間がかかる。
お昼ご飯を食べて、少しゆっくりしてからでないと、車のように食べながらドライブという訳にはいかないだろう。
私は返事を返し、辺りを見回してみる。
カフェやレストランもあるようだけれど、軽食やお弁当を持ち帰れるようなお店も幾つかある。
「ジェイク、どこか公園のような場所で食事ができる所はあるかしら?」
私がサンドイッチ等を売っている店の方を見ながらそう問うと、ジェイクは「ああ、それなら良い場所がある」と答えて、お店の方へ歩き出した。
サンドイッチと飲み物を買って、私たちは市場から少し離れた小道を入り暫く歩いた場所にある池のほとりに立っていた。
周りに人気はなく、鳥のさえずりや風の音が心地良い。
「前に来た時に適当に歩いてたら迷い込んでな」
言いながら、ジェイクが座れそうな場所を探してくれる。
比較的草の少なく整った場所にハンカチを広げながら「悪い、座れそうなところがなかったな」と、私にハンカチの上に座れと促してくれる。
悪いからと断ったけれど、もう広げてしまったからと押し切られ、お礼を言って私はそこに腰を降ろした。
ただ単に、裏表がなくて、読み取れる気持ちに嘘がなくて、信頼できる人で…。
なんとなく、傍にいられたら…と思っていた。
なのに…
「ルイーズ、おはよう」
約束の時間に家から出てきた私に、すぐ横から声がかけられる。
ビクッと肩を揺らして、横へ向いて視線を上げれば、見慣れた彼の顔が視界に入る。
その瞬間、頬に熱が上り、私は思わず片手を頬に触れた。
そんな私を覗き込むようにして「どうした?」と問いかけてくるジェイクに、私は慌てて言葉を返した。
「な、なんでもないわ!おはようジェイク」
私が挨拶を返すと、彼は柔らかく微笑んで私の頭に軽く手を乗せる。
そして、髪を撫でるように手を降ろすと、至極当然のように手を握られる。
「行こうか」
彼の優しい声、優しいしぐさに、心臓が早鐘を打つ。
…ああ…。ジェイクが好きだ…。
意識してしまうと、どうしようもなく恥ずかしく、顔を上げることができないけれど、彼に握られた手をきゅっと握り返し、手を引かれるまま歩きはじめた。
「ルイーズはどこか行きたいところはあるか?」
そう訊かれて、行きたいところを考えてみる。
ジェイクと一緒ならどこでも楽しそう…。
そう思うけれど、そんなこと口には出せない。
私は辺りに目を向けながら、再度考えてみて、ふと思いついたことを口に出してみた。
「…セレスに何かプレゼントしたいのだけど…。ずっと周りに気を配って、すごく良くしてもらってるから」
「…ああ。そうだな。俺からも何かお礼をしておかないとな」
私が言うと、ジェイクも考え込むように顎に手を当て、それから辺りに目を向ける。
セレスはどんなものなら喜んでくれるだろう?
…きっとジェイクからもらったら、どんな物でも喜ぶんだろうけど…。
歩きながら、色々な店を覗いてみる。
けれど、いつも来るこの市場は、すっかり見慣れた物ばかりで、しかも生活必需品的な物の扱いの方が多くて、プレゼントにするような物があまり見当たらない。
暫く歩いた後、ふと足を止めたジェイクにつられて私も足を止め、彼を見上げる。
「あまりプレゼントになりそうな物がないな。少し足を延ばすか」
見上げた私の視線を受けてジェイクはそう言うと、ちょうど通りに泊まっていた辻馬車を指さした。
この世界に来て、初めて街の外へ出る。
最初に案内人にものすごくざっくりとは説明してもらったけれど、この世界の世界規模も国の規模もいまいちよく分からない。けれど、ジェイク曰く、私たちの住む街から、馬車に乗れば2時間ほどで鉱石の産地で有名なノーフォークという街に着くらしい。
私たちが住んでいるウォッシュバーンは城下町で、市場も幾つかに別れて日用品から武器防具まで色々な物を扱っている店が沢山ある。
それこそ、城下だけあって品物の質も良い。
けれど、お土産品的な物やプレゼントにということを考えると、若干独自性というか、地域性みたいなものがない。
その点で言えば、隣街のノーフォークは色々な鉱石が採れ、鉱物を使ったアクセサリーなどを多く扱っているらしい。
道すがらジェイクにそんな説明を受け、昼前には目的のノーフォークへと辿り着いた。
ウォッシュバーンと違い自然が多く、山が見えるかと思えば、遠目に海も見える。
街中も自然が多く、鉱石や山の幸、海の幸で賑わいはあるものの、田舎町といったようなのどかさもある。
ちょっとした遠足に来た気分で、気持ちが僅か高揚する。
ジェイクに手を引かれながら、色々な店を覗き、店先に並んだアクセサリーを見ていると、ふと懐かしい記憶も思い出される。
「…私の母は鉱石の好きな人で、タンブルや裸石を沢山集めていて、よく石の説明をしてもらっていたわ」
もう随分長い間、そんな幸せだった過去を思い出す余裕もなかった。
店先に並んだ鉱石を一つ手に取り呟くように漏らす。
ジェイクは、そんな私をただ黙って見守ってくれている。
手に取ったのは前世での私の誕生石だったトパーズ。
心の汚れを浄化し、直観力と洞察力を高め、人を見抜く目を養う。自分が本当に何を必要としているのか、何を見るべきなのかが分かってくる。
そんな意味を持つ石。
今ではお守りにこの石を持つ意味もない。
そう思って、トパーズを元に戻し、ふとその隣にある石に目を惹かれる。
淡いグリーンカラーの石。
──翡翠。
「お。お嬢ちゃんお目が高いね。これは徳を高め成功と繁栄をもたらす石として、価値の高いものは王族や貴族の間でも喜ばれる石でね。その上、災いや不運から持ち主の身の安全を守ってくれる石とも言われていて、手ごろな価格のものはお守りとして人気の石だよ。彼氏にプレゼントなら革紐で首からかけられるようにしてあげるけどどうだい?」
私の目がとまったのを目ざとく見つけ、店主が声をかけてくる。
「か、彼氏?!あ、いえ、あの女の子の友達にプレゼントしたくて…」
店主の言葉に思わず慌てて手を振り、否定の声をあげる。
しかし店主は気にした様子もなく話を続ける。
「女の子にかい?なら、ピアスや首飾り、ブレスレットに指輪、結構な種類があるよ。どれにする?」
幾つか見本を出してくれたのを見ながら、セレスに合いそうなものを考える。
「あ、これ。これください」
「お、いいな。セレスに合いそうだ」
私が並べられた品から一つを指さすと、ジェイクも賛同してくれる。
「はい。ありがとよ」
店主が手早く品物を包んで手渡してくれるのを横目に見ながら、ジェイクも他の品を見ている。
そして、店主が品物を私に渡すのを確認すると、今度は彼が選んだ品物を店主に渡す。
「俺はこれを貰おう」
ジェイクも私もセレスへのプレゼントを購入し、店を離れようとした時、ふと視界の端に赤い色が映る。
足を止め見やると、そこにあったのはガーネットだった。
ガーネットは勝負運、金運、健康運、恋愛運など様々な意味があるけれど、母が説明してくれた中で一番印象に残っていたのが、戦地へ赴く兵士が、ケガをせず生還できるためのお守りとして持っていたというもの。
私が立ち止まったことにジェイクがまだ気づいていない内に、私は慌てて店主に声をかけた。
「ルイーズ?」
ジェイクが、少し先で立ち止まって私を振り返るのとほぼ同時に、私は店主から品を受け取り彼の元へ小走りに駆け寄った。
「ごめんなさい。ちょっと気になるものがあったから」
言って彼を見上げると、彼は「もういいのか?」と訊き返してくる。
それに頷いて返すと、彼はまた逸れては困るというように、すっと私の手を取った。
「どこかで昼飯にしようか」
帰るにもまた時間がかかる。
お昼ご飯を食べて、少しゆっくりしてからでないと、車のように食べながらドライブという訳にはいかないだろう。
私は返事を返し、辺りを見回してみる。
カフェやレストランもあるようだけれど、軽食やお弁当を持ち帰れるようなお店も幾つかある。
「ジェイク、どこか公園のような場所で食事ができる所はあるかしら?」
私がサンドイッチ等を売っている店の方を見ながらそう問うと、ジェイクは「ああ、それなら良い場所がある」と答えて、お店の方へ歩き出した。
サンドイッチと飲み物を買って、私たちは市場から少し離れた小道を入り暫く歩いた場所にある池のほとりに立っていた。
周りに人気はなく、鳥のさえずりや風の音が心地良い。
「前に来た時に適当に歩いてたら迷い込んでな」
言いながら、ジェイクが座れそうな場所を探してくれる。
比較的草の少なく整った場所にハンカチを広げながら「悪い、座れそうなところがなかったな」と、私にハンカチの上に座れと促してくれる。
悪いからと断ったけれど、もう広げてしまったからと押し切られ、お礼を言って私はそこに腰を降ろした。
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