あべこべ

ひん

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あべこべ

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秘密基地のような小さなドアを抜けたらすぐに、ある部屋にたどり着いた。

4畳くらいのたたみの間で電気がついていないけれど、一瞬、それが気にならないくらいの素晴らしい景色が広がっていたのだ。

部屋いっぱいの丸みを帯びた大きな窓の向こうにはライトブルーの明るい空に眩しいくらいに輝く雪が轟々と吹いていた。

そして吹いた雪は、無数に散らばり木をシャンと飾り立てる。
これが、本当に壮観。

りんごみたいに大きな雪の結晶が一瞬にして規則正しく木に並べられていくその様はまるで、ベテラン店員の手によって素早くキッチリと陳列された、コンビニの商品棚みたいだったと後に思い出していた。


そして空の左上には飛行機の窓のようなものが一つだけ、取り付けられていた。
その太陽のような存在感に目が釘付けになっていたせいで、私は横に女の子がいることに気づけなかった。

いや、窓の外の丸みを帯びた丘にも。
この子達は不思議なくらい正反対だった。
妹らしき外にいる方は元気に外を走っているが、真夏のようなノースリーブワンピースを着ているのだ。あっという間に走り抜けどこかへ消え去ってしまう。

一方で横にいる子は全く喋らない。
ただ私に甘えてきた。白くて温度のない体だ。
次の瞬間、私は自然と、まるで人形みたいなその子をあったかくなるように抱き包んでいたのだ。

「ここは作り物の世界だよ。」
私はこれを、なぜか必死に、または悲観しながら何回も繰り返した。

対して女の子は微笑を浮かべ目をつむっていた。ひたすらに綺麗な子だった。

唐突に気づく。ああ、出して欲しいなんて思ってるわけじゃないのか。
自分に酔ったり、悲観したり、穏やかに憧れたり、ワクワクしたり。
全てがこの中で起こっていたのだ。


ひとしきり空を眺めた後、私はこの景色をお土産にして帰りたくなったので写真に収めようと考える。
あの大きな窓には縁側とドアがあった。

ふと、写真に収めたくなった私はドアをすり抜け丘まで出て携帯を構えた。が、次の瞬間地面に携帯をカランと落としてしまい、驚いて下を見ると全く違う種類になった、けれど自分のものだとわかる携帯がボロボロになって転がっていた。

そして心のどこかではこんなベタなバチが当たるような気がしていた自分を見つけ、変な気分になる。

拾って携帯の中身を見ると、やはり写真は撮れていなかった。

その後、私は急いで帰ろうと自分の車を探すがしかし、これまたボロッボロの車を見つける。

私のナンバーだ。車までも、、、

仕方なく運転していたら、ぬくぬくとした温度を感じ、いつの間にか世界は戻っていた。

私は、穏やかな少女と共に戻ってこられたのだ。
今も忘れていない。

私は実は誰よりもあの世界の者たちを知っていたと言う事実を。


私の中にいて、みんなの中にもいるもの。


作り物でもいい、それは結局、で全てがなんだ。


今日もたくさん作って、取り繕っていこう。








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