ガンスネーク

こんろんかずお

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俺達の聖戦チョコレートウォー

小雨の降る帰り道に

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 あれは一月前のことだった。

 俺は学校の帰り道の途中にある公園で、ダンボールに入っている子猫を見つけたんだ。

 目はつぶらな瞳で真ん丸く、体は片手に余裕で乗るくらい小さくて、ニャーニャーと、か細い声で子猫は泣いていた。

 この日は小雨が降っていた関係か、ダンボールが濡れないよう雨傘で固定されており、ダンボールの外側にはガムテープで張られた白い紙に大きな文字で「拾ってください」と書かれていた。

「困ったな……」

 飼ってやりたくても、両親がアレルギー持ちで無理なんだよな。

 ……エサ代などをワリカンにしてもらって、蛇野の家で飼ってもらうか?  
 と思ったけど、アイツの家なんかでっかいヘビ飼っていたな。
 ヘビのエサになるだけの、この案は却下だ。
 
 とか子猫の頭を撫でながら、迷っていた所にパシャパシャと雨音をさせながら誰かが走ってきた。

 近くに来て分かったことだが、クラスメートの野原さんだった。
 
 彼女は何故か傘はさしていないので、大分服が濡れている。

「あ、あの……。その子猫、立花君が?」

 怪訝けげんそうな顔で彼女は俺を見る。
 
「あ、いや違うんだ、俺は今コイツを見つけちゃってさ。飼ってやりたいけど宛てが無いし、どうしたもんかと……」

 子猫はまるで俺のその言葉に呼応するようにミャーと一声鳴く。

「ゴメン勘違いしちゃって……。じゃ、悪いけどちょっと手伝って?」
「いいけど何するの?」

 彼女は無言で背中に抱えたリュックからシートを取り出し、地面に広げ、その上にリュックを置く。

 次に、リュックから皿と牛乳パックを取り出す。

 彼女の次の行動を察した俺は牛乳パックを空ける。
 彼女はシートの上に皿を置き、俺が注いでいる牛乳がこぼれないようにパックを固定させるため、そっと手を添える。
 
「ありがとうね、立花君。じゃこの皿、ネコちゃんのダンボールに入れてあげてね!」 

 彼女は俺に優しく笑い、お礼を言う。
 俺は彼女の屈託のない笑顔にドキッとした。

 そして、俺は彼女に言われるがまま、ダンボールの中に皿をそっと入れる。
 子猫はお腹が空いていたのか、無我夢中で牛乳を飲んでいる。

 俺がそうこうしているうちに、彼女はリュックから手際よく、子猫が入りそうなケージを取り出す。

 ド〇えもんのポッケか! このリュックは……。

「の、野原さん手際いいね?」

 俺は思ったことを思わず口に出してしまった。

「あ、あはは。こういうことは慣れてるから……」

 もしかして、例の『研究するか』での成果カナ……?
 それはいいとして……。

「あの、野原さんとネコちゃんが濡れたら可哀そうだし……、良かったら俺の傘貸すけど、どう?」

 それを聞いた野原さんは慌てて手をブンブン振る。

「あっ、ありがとう! あ、でも傘はあるから大丈夫だよ。家もここから近いし……」

 彼女はそう言うと、ダンボールに固定していた黄色いネコ柄の傘を手に取る。

 ああ……、そう言いことだったんだな……。

 彼女は、最初から子猫を何かしら救うつもりで、この算段にでたのだ。
 
 子猫が濡れないように、傘をさしてあげ、急いで家に帰り、子猫を救う準備をし、急いでここに戻ってきたわけだ。

 自分が濡れても子猫が濡れないようにする、その優しい思いやりの心に俺は感動したし、なんかいいなと思えた。

「牛乳も飲んだみたいだし。じゃ、私この子を連れて帰るね」
「あ、うん」

 彼女は、かがんで子猫をケージに入れようとした、その時!

ミャー!
シュッ!

「痛っ!」

 彼女はうめき声を上げる。
 ……そう子猫は警戒していたのだ。

「だ、大丈夫?」

 俺は慌てて、彼女の元に駆け寄る。

「う、うん。大丈夫………。申し訳ないけど立花君、手伝ってもらっていいかな?」
「あ、うんわかったよ」

 俺は子猫の頭を撫で警戒心をとき、軽く額をコツンと叩く。
 お前、野原さんの恩を仇で返しちゃダメだろう……。

 しばらくして、子猫が俺の手にじゃれて、警戒心をとき終えたのを確認し、子猫をつまみケージに入れる。

「えっ? 立花君すごーい、もしかして、この短期間で親と勘違いされているのかも……」
「へへ、それほどでも……」

 俺は何故か知らないけど、動物には懐かれやすく、見知らぬネコや犬によく絡まれる体質なのだ。

 俺は子猫の入ったケージを彼女に渡す。

 彼女は嬉しそうにそのケージを受け取ると素早くリュックにしまい込んだ。

「立花君、今日は色々ありがとう! またねー」

 彼女はそう言うと、嬉しそうに片手をブンブン振りながら家に帰って行った。

 そう、この時から俺は彼女のことが凄く気になりだしたんだ……。
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