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第3章 エイレン城への道
ニス湖畔、アルカット城① アレン・ダード
しおりを挟むアルカット城主アレン・ダードは、いつもかならず時間通りにやってくる彼が来ないことに違和感を感じていた。
「…もう二時間も過ぎているぞ。あれから連絡はあったのか?」
時計の針は午後四時十分をまもなく指そうかという時間になっていた。家令にそう尋ねるものの、相変わらず首を振っては今一度確認してまいりますと部屋を出ていく。
明かり取りの小窓の外の空は、すっかり夕暮れだ。
あと一時間もすれば日は落ち、この堅牢で無骨な城は、城門をはじめいたるところに松明が掲げられ、ぼうっと湖畔に浮かび上がるような、風情ある幻想的な城へと一変する。
彼もその光景が好きだといい、共に語りながら酒を酌み交わすのがアレンの楽しみの一つでもあった。
しかし、同じように国を守ってきた自分達一族は栄え、このように権力をたもってこれたのとは逆に、今や消えてしまったと言っても過言ではないほど魔法士達は減ってしまい、最も力のあった一族も、その姿を消してしまった。
それゆえ、彼はつねに一人でいた。
見向きもされなくなって、ひとり孤独な魔導師であったが、本当はとても情深く、優しい青年。
それを、自分は知っている。
そんな彼は権力を好んで媚びへつらう貴族が好きではないが、自分にはめずらしく信頼を寄せてくれる。
そしてこうして連絡をよこしたかと思えば、ごくまれにここを訪れる際には、必ずニス湖とつながる水際門を利用する。水際門は、外敵を防ぐ役割の一つである深い堀にかかる跳ね橋を渡らねばならない城門とほぼ正反対の位置にあり、湖岸につながっている唯一の場所である。
城への物資の搬送も大抵は船でここまで運ばれ、荷揚げされて、城内に運ばれる。
しかし常に一人で行動する彼がどうやって水の上を渡れるふねを調達するのか。
その秘密は、湖の下にある。
このニス湖に、彼はあろうことか、小舟を沈めているのだ。
——永遠に朽ち果てぬ、魔法をかけた小舟を。
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