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第3章 エイレン城への道
ホグロからヴァネス、そしてニス湖へ①
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ホグロでウエンさんと別れ、湖を目指すと言ったサフィラスと再び馬車に乗り込んだ。
どうやら馬車の利用は、都市ヴァネスの中心を流れるニス川に沿って南に下っていくとあるニス湖までのようで、そこからはひたすら歩くという。
「…ねぇ、サフィラス…。あの…」
ニゲルは、再びガタガタ揺られる馬車の中で向かいに座り、肉詰めパイを差し出すサフィラスを見上げた。
「どうした?芋パンよりこちらを食べるかい?」
芋パンとは、ニゲルが食べているじゃがいもをすりつぶして粉と混ぜて平たく焼いた、少しもちっとして腹持ちの良さそうなものである。
はじめて食べたけれど、ほんのり甘くて挟んであるソーセージとも合っていて、とても美味しい。
一方、肉詰めパイはちょっと硬そうな生地で肉だねをつつんだ平たいパイで、サフィラスにさっきどっちが好みかと聞かれた。手のひらのような形で、みんな好んで食べるのだという。確かに、お肉とスパイスの合わさったような良い匂いが、馬車内にいっぱいだ。
「いや…そうじゃなくて…」
「飲み物か?」
いや、それとも違うのだけど…。
なんというか、まったく本人はそれについて何も言わないけど、さっきと服が全然違うのである。
「あのさ、その格好、どうしたの?」
ちょっと…旅用にしてはきれいすぎる格好だ。
初めてサフィラスに会った時のような、美しい刺繍の入ったふかい緑色の上衣は腿のあたりまでと長く、ズボンは黒いけれど、丈夫そうな生地。ひざまでの長靴はやわらかそうだが、容易に破れたりはしなさそうな革づくりだ。それに、またしてもそでのあたりがきらきらと星屑をまとっているかのような感じで、貴族が身に着けるような立派な生地ときている。
さっきは、やっと踊る躍る子羊亭から出てきたと思ったら、突然そのような高級そうなよそおいに変化していてびっくり仰天したのだ。
そして一番おどろいたのが、剣を腰に下げていた事だった。
両手持ちの大剣と短剣の2本。
とくに大剣の方は、刃が1メートルはあるのではないかと思えた。
座席の上に置かれた重そうなそれが気になって、何度もチラチラとみてしまう。
でも、剣をサフィラスのようなおだやかな人がふり回す姿がどうしても思い浮かべられないし、正直なところ、そんなぶっそうな存在が似合わないという感じがするのだ。
「この服かい? これは踊る躍る子羊亭の主人にあずかってもらっていたものだ」
「さっきまで着ていた黒い服はどうしたの?」
「ああ、それはウエンが持って帰ったはずだ。あれは彼の服だし、背中の傷のせいで汚れていたから、ちょうど着替えよう思ってね」
そうだ。
背中の傷の具合はどうなのだろうか。
「傷の具合はどうなの…?」
「…まあ、悪くはなっていないから回復を待つしかない。手当てしてもらった感じでは、傷はほとんどふさがってきているようだ。やけどの水ぶくれもひどくない。心配ないよ」
それを聞いてほっとする。
「よかった…。傷を見てもらっていたから遅くなったんだね。食堂なのに、医術師がいるの?」
「…いや、知り合いがあそこをやっていてね。いつも親切にしてくれるんだよ」
そう言って手元の肉詰めパイをほおばるサフィラスに、ニゲルは剣の事も聞く。
「…その剣は、サフィラスの…?」
「ああ、そうだよ」
「…使ったことある、んだよね…」
「…あるよ」
ニゲルはためらったものの、正直に聞いてみようと思った。
「それって、人を、その…、つまり…」
サフィラスは、店から調達した皮水筒に入った果実水を口に運ぶのをやめて、ニゲルの方をじっと見た。
「人を、切ったことがあるか?と言いたいのかい?」
「…あ…。う、ん…」
ニゲルはやっぱり聞くんじゃなかった、と一瞬思ってしまう。
そのくらい、サフィラスはものすごく真剣な顔をしていた。
どうやら馬車の利用は、都市ヴァネスの中心を流れるニス川に沿って南に下っていくとあるニス湖までのようで、そこからはひたすら歩くという。
「…ねぇ、サフィラス…。あの…」
ニゲルは、再びガタガタ揺られる馬車の中で向かいに座り、肉詰めパイを差し出すサフィラスを見上げた。
「どうした?芋パンよりこちらを食べるかい?」
芋パンとは、ニゲルが食べているじゃがいもをすりつぶして粉と混ぜて平たく焼いた、少しもちっとして腹持ちの良さそうなものである。
はじめて食べたけれど、ほんのり甘くて挟んであるソーセージとも合っていて、とても美味しい。
一方、肉詰めパイはちょっと硬そうな生地で肉だねをつつんだ平たいパイで、サフィラスにさっきどっちが好みかと聞かれた。手のひらのような形で、みんな好んで食べるのだという。確かに、お肉とスパイスの合わさったような良い匂いが、馬車内にいっぱいだ。
「いや…そうじゃなくて…」
「飲み物か?」
いや、それとも違うのだけど…。
なんというか、まったく本人はそれについて何も言わないけど、さっきと服が全然違うのである。
「あのさ、その格好、どうしたの?」
ちょっと…旅用にしてはきれいすぎる格好だ。
初めてサフィラスに会った時のような、美しい刺繍の入ったふかい緑色の上衣は腿のあたりまでと長く、ズボンは黒いけれど、丈夫そうな生地。ひざまでの長靴はやわらかそうだが、容易に破れたりはしなさそうな革づくりだ。それに、またしてもそでのあたりがきらきらと星屑をまとっているかのような感じで、貴族が身に着けるような立派な生地ときている。
さっきは、やっと踊る躍る子羊亭から出てきたと思ったら、突然そのような高級そうなよそおいに変化していてびっくり仰天したのだ。
そして一番おどろいたのが、剣を腰に下げていた事だった。
両手持ちの大剣と短剣の2本。
とくに大剣の方は、刃が1メートルはあるのではないかと思えた。
座席の上に置かれた重そうなそれが気になって、何度もチラチラとみてしまう。
でも、剣をサフィラスのようなおだやかな人がふり回す姿がどうしても思い浮かべられないし、正直なところ、そんなぶっそうな存在が似合わないという感じがするのだ。
「この服かい? これは踊る躍る子羊亭の主人にあずかってもらっていたものだ」
「さっきまで着ていた黒い服はどうしたの?」
「ああ、それはウエンが持って帰ったはずだ。あれは彼の服だし、背中の傷のせいで汚れていたから、ちょうど着替えよう思ってね」
そうだ。
背中の傷の具合はどうなのだろうか。
「傷の具合はどうなの…?」
「…まあ、悪くはなっていないから回復を待つしかない。手当てしてもらった感じでは、傷はほとんどふさがってきているようだ。やけどの水ぶくれもひどくない。心配ないよ」
それを聞いてほっとする。
「よかった…。傷を見てもらっていたから遅くなったんだね。食堂なのに、医術師がいるの?」
「…いや、知り合いがあそこをやっていてね。いつも親切にしてくれるんだよ」
そう言って手元の肉詰めパイをほおばるサフィラスに、ニゲルは剣の事も聞く。
「…その剣は、サフィラスの…?」
「ああ、そうだよ」
「…使ったことある、んだよね…」
「…あるよ」
ニゲルはためらったものの、正直に聞いてみようと思った。
「それって、人を、その…、つまり…」
サフィラスは、店から調達した皮水筒に入った果実水を口に運ぶのをやめて、ニゲルの方をじっと見た。
「人を、切ったことがあるか?と言いたいのかい?」
「…あ…。う、ん…」
ニゲルはやっぱり聞くんじゃなかった、と一瞬思ってしまう。
そのくらい、サフィラスはものすごく真剣な顔をしていた。
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