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第2章 旅立ち
大魔法②
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あまりの驚きに、夜中ということも忘れて叫んでいた。
死んだだって?
そんな話、生きている人の口から聞いたら冗談にしか聞こえない。いまどきそんなウソ、子供だって信じない。
「…じ、冗談はやめてよ…死んでるわけないじゃん。目の前にちゃんと見えてるよ…足もある!話もできる…」
「ああ、今は生きているからね」
横目でこちらに目線をむけるサフィラスは至って真面目にそう答えた。
「私は、師匠に助けられたんだ。命をもらったんだ」
「え!うそだ」
ニゲルはふるふると横に首を振った。
いかに魔導師といえども、死んだ人を甦らせるなんて、できっこない。
「そんな事出来るわけないよ…死んだ人を甦らせるんだよ?絶対むりだよ、むり!」
ありえない。
あまりに大それた話だ。
死んだ人をよみがえらせるなんて、人の世の理を逸脱した行為だ。まるで、神様のような技である。だけれど、神様でもなんでもない人間にそんな事が許されるはずがない。
死者は、必ず眠りにつくのだ。でなければこの世に死人が歩き回ることになる。それは考えただけで、異様で気味がわるい。
永遠の眠り、その安息の時間を死んだ人からうばう事は人の道に反することではないのか。
サフィラスが助かって目の前にいる事は自分にとって幸せな事だと思う。けれど同時に、魔法の賢者がそれをやることはひどく悪い事であるような気がしてしまった。
はたしてそれはやっても良い事なのだろうか。
いや、考えてみれば出来ても、やってはいけないことは沢山ある。
人を殺したり、だましたり、盗みを働いたり、それだって、やろうとすれば出来ても、みんなやらないではないか。それは、人の世のルールがあるからだ。約束やルールを破れば罪になる。とすると、死人をよみがえらせるのは、やっぱり罪になるのだろうか。
もしかしたら、罪だから自分の命と引き換えなのだろうか。
頭がこんがらがってわけがわからなくなる。
考え込んで動かなくなったニゲルをみて、サフィラスはため息のような、重苦しいよどんだものをひねりだすかのように、はぁというか細い息を吐いた。
「普通は、たしかに無理だろう。並の魔法士では。しかし大魔導師は、全てを体得し究極の魔法が使える者。やるやらないは別としても、魔法で死者をよみがえらせることはできる」
「えぇっ!信じられないよ…まさか、まさかだけど、サフィラスもそれ使えるの?」
「……」
サフィラスは無言でうなずいた。
できる。
出来るのだ。
死者をよみがえらせることが!
驚愕と畏怖で、足元から震えが上がってくるようだ。
「それ、魔導師ならやって良い事なの…?」
サフィラスは首を横にふった。
否定だ。
やっぱり、だめなのだ。
「私の導師はね…私を助けるためにその大魔法を使ったんだ。つまらない…こんな私を助けるために…」
つまらない?
その意味がニゲルにはわからない。きっとサフィラスの導師は、助けるに値する才能を見出していたに違いない。だめだとわかっていても、使ってはいけない魔法でも、どうにかして救いたかったのだ。
「つまらないなんて言ったら、助けてくれた導師に悪いよ…」
それに、きっと、弟子としてとても大切に思っていたはず。
なぜなら、ニゲルにだって、サフィラスが優しくて強くて、心の底から信頼できる人物であり、輝く魔法の才能を持っていることが分かるのだから。
「だが実際に、導師がこんな私を助けたばかりに、魔法士達はアオガンから恨みを向けられたも同然だ」
「そんな事ない!アオガンは自分が悪い事をしてきたのを棚に上げて、人を羨んでるだけじゃないか。それで人を殺しちゃうなんて頭がおかしいんだよ。王様だって魔法士狩りを許してるなんて、人でなしだ!僕は導師は正しいと思う…使ってはいけない事なのかもしれないけど、サフィラスが好きだったから、どうしても助けたかったんだよ!僕だって自分が魔導師なら、その人と同じ事したかもしれない。目の前の大切な人を救えないんじゃ、どんなにすごい技をつかえようが意味がないもの…。それに、その人のおかげで僕はサフィラスに会えたんだ!すごいよ…僕も会ってみたい。ねぇ、いつか会わせて」
ニゲルはサフィラスの手を取り、お願いと見上げた。
きっと想像もできないくらいすごい人に違いない。この偉大な大魔導師サフィラスを育てた先生なのだから。もしもその人に会えたら、色々聞いてみたいし魔導師についての勉強もしてみたい。
しかし期待に満ちた瞳を向けているニゲルから、まるで見たくもないものを見たかのように、苦しげにサフィラスは目をそらしたのだった。
「…導師には私ももう会えないんだ」
「え、なんで…」
期待を裏切られた落胆と、どうして、という疑問が浮かんでくる。ひょっとすると、使ってはダメな魔法を弟子に使ってしまったから、魔導師を辞めてしまったのだろうか。それともそのせいで力を無くしたのか。
あるいは…。
「もしかして、前言ってたの本当だったの?サフィラスを置いて、本当に会えないくらい遠くの国にいっちゃったの?魔導師じゃなくなったとか?」
「ああ…。そうだよ」
それはあまりにも小さなつぶやきだった。
「死者を蘇らせる大魔法《蘇生》は、自分の命と引き換えなのだ…」
死んだだって?
そんな話、生きている人の口から聞いたら冗談にしか聞こえない。いまどきそんなウソ、子供だって信じない。
「…じ、冗談はやめてよ…死んでるわけないじゃん。目の前にちゃんと見えてるよ…足もある!話もできる…」
「ああ、今は生きているからね」
横目でこちらに目線をむけるサフィラスは至って真面目にそう答えた。
「私は、師匠に助けられたんだ。命をもらったんだ」
「え!うそだ」
ニゲルはふるふると横に首を振った。
いかに魔導師といえども、死んだ人を甦らせるなんて、できっこない。
「そんな事出来るわけないよ…死んだ人を甦らせるんだよ?絶対むりだよ、むり!」
ありえない。
あまりに大それた話だ。
死んだ人をよみがえらせるなんて、人の世の理を逸脱した行為だ。まるで、神様のような技である。だけれど、神様でもなんでもない人間にそんな事が許されるはずがない。
死者は、必ず眠りにつくのだ。でなければこの世に死人が歩き回ることになる。それは考えただけで、異様で気味がわるい。
永遠の眠り、その安息の時間を死んだ人からうばう事は人の道に反することではないのか。
サフィラスが助かって目の前にいる事は自分にとって幸せな事だと思う。けれど同時に、魔法の賢者がそれをやることはひどく悪い事であるような気がしてしまった。
はたしてそれはやっても良い事なのだろうか。
いや、考えてみれば出来ても、やってはいけないことは沢山ある。
人を殺したり、だましたり、盗みを働いたり、それだって、やろうとすれば出来ても、みんなやらないではないか。それは、人の世のルールがあるからだ。約束やルールを破れば罪になる。とすると、死人をよみがえらせるのは、やっぱり罪になるのだろうか。
もしかしたら、罪だから自分の命と引き換えなのだろうか。
頭がこんがらがってわけがわからなくなる。
考え込んで動かなくなったニゲルをみて、サフィラスはため息のような、重苦しいよどんだものをひねりだすかのように、はぁというか細い息を吐いた。
「普通は、たしかに無理だろう。並の魔法士では。しかし大魔導師は、全てを体得し究極の魔法が使える者。やるやらないは別としても、魔法で死者をよみがえらせることはできる」
「えぇっ!信じられないよ…まさか、まさかだけど、サフィラスもそれ使えるの?」
「……」
サフィラスは無言でうなずいた。
できる。
出来るのだ。
死者をよみがえらせることが!
驚愕と畏怖で、足元から震えが上がってくるようだ。
「それ、魔導師ならやって良い事なの…?」
サフィラスは首を横にふった。
否定だ。
やっぱり、だめなのだ。
「私の導師はね…私を助けるためにその大魔法を使ったんだ。つまらない…こんな私を助けるために…」
つまらない?
その意味がニゲルにはわからない。きっとサフィラスの導師は、助けるに値する才能を見出していたに違いない。だめだとわかっていても、使ってはいけない魔法でも、どうにかして救いたかったのだ。
「つまらないなんて言ったら、助けてくれた導師に悪いよ…」
それに、きっと、弟子としてとても大切に思っていたはず。
なぜなら、ニゲルにだって、サフィラスが優しくて強くて、心の底から信頼できる人物であり、輝く魔法の才能を持っていることが分かるのだから。
「だが実際に、導師がこんな私を助けたばかりに、魔法士達はアオガンから恨みを向けられたも同然だ」
「そんな事ない!アオガンは自分が悪い事をしてきたのを棚に上げて、人を羨んでるだけじゃないか。それで人を殺しちゃうなんて頭がおかしいんだよ。王様だって魔法士狩りを許してるなんて、人でなしだ!僕は導師は正しいと思う…使ってはいけない事なのかもしれないけど、サフィラスが好きだったから、どうしても助けたかったんだよ!僕だって自分が魔導師なら、その人と同じ事したかもしれない。目の前の大切な人を救えないんじゃ、どんなにすごい技をつかえようが意味がないもの…。それに、その人のおかげで僕はサフィラスに会えたんだ!すごいよ…僕も会ってみたい。ねぇ、いつか会わせて」
ニゲルはサフィラスの手を取り、お願いと見上げた。
きっと想像もできないくらいすごい人に違いない。この偉大な大魔導師サフィラスを育てた先生なのだから。もしもその人に会えたら、色々聞いてみたいし魔導師についての勉強もしてみたい。
しかし期待に満ちた瞳を向けているニゲルから、まるで見たくもないものを見たかのように、苦しげにサフィラスは目をそらしたのだった。
「…導師には私ももう会えないんだ」
「え、なんで…」
期待を裏切られた落胆と、どうして、という疑問が浮かんでくる。ひょっとすると、使ってはダメな魔法を弟子に使ってしまったから、魔導師を辞めてしまったのだろうか。それともそのせいで力を無くしたのか。
あるいは…。
「もしかして、前言ってたの本当だったの?サフィラスを置いて、本当に会えないくらい遠くの国にいっちゃったの?魔導師じゃなくなったとか?」
「ああ…。そうだよ」
それはあまりにも小さなつぶやきだった。
「死者を蘇らせる大魔法《蘇生》は、自分の命と引き換えなのだ…」
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