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第2章 旅立ち
サイドストーリー ウエン②
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「残念ながら、君達はこの国に不要な存在なんだ。…まあ、私もだがね」
「はぁ!?」
思いっきり眉をしかめたマリウスは、自分の胸ぐらをつかんで爪を食い込ませた。
「なにそれ!じゃあ、どうしろってんだ!!僕らにこの世から居なくなれってことかよ!?」
「それを望む者がいるということだ」
「だから、なんでなんだよ!!」
「…君の、お母さんが、」
「は!?お母さんがなに!?」
「それを残したのは君たちのお母さんだろう?」
ウエンはマリウスの腕をつかんで、袖に半分かくれていた腕輪が見える様に白いシャツをめくった。
「サフィラスさんからそう聞いたけど、それが!?」
マリウスは抵抗するようにその手をふりはらった。
「君たちのお母さんはとてもすばらしい人だったけれど、ある事情により、この国から守ってもらえなくなったんだ。そして、お母さんの存在が邪魔になって、執拗に追いかけて探し出そうとしていた。だから、君たちに危害が及ばないように、みんなをあの洞穴の家に隠していたんだ」
「なんでお母さんの事知ってるの?だいたい事情って、どんな事情だよ」
「それを話す事はできない。君たちを信頼しているけれど、万が一、誰かに知られたら大変だからだ。もちろん、うちの子供達にも知られたら危険な事なんだよ。私も身を隠している立場なのでね」
「ねぇ、おかあさん、わるいことをしたの?」
アーラが涙目でウエンをみつめている。
「いいや、違う。させられていたんだよ。世の中は良い人ばかりじゃないって事さ。私や、サフィラス、みんなのお母さんを利用したいだけ利用して、今度は邪魔になったからと、消してしまいたい人が居るんだ。その人たちがお母さんや君たちを脅かしていたんだ」
「じゃあ、悪い奴がお母さんを狙っていたって事じゃん!」
「そうだな。我々から見ればそうとも言える。しかし、その人達からしたら、自分達こそ正しいと思っている事だろう」
「はぁ?なんだよそいつら?お母さんが帰って来なくなったのは、きっとそのせいなんだ!」
「それはわからない。しかし、関係は大いにあるだろう」
ウエンはマリウスが少し落ち着いた事が分かり、両肩に置いていた手をゆっくり離した。
「お母さんが突然居なくなって、本当に大変だっただろうし、混乱しただろう。私も君たちの事を知っていれば、もっと早く手を差し伸べる事が出来たのに、お母さんは、サフィラスだけに君たちの事を話していたんだ」
「サフィラスさんって、お母さんのなんなのさ?」
「友人だ」
「ウエンさんは友人じゃないの?そもそもここに隠れてるなんて、なんでそいつらと戦わないんだよ!僕はそんなやつら、絶対許せないよ!」
「…私達はね、確かに、望んでしたわけではないが、知らなかったでは許されない事をした。けれどそれは、この国や子供達、家族を守れると信じてやった事で、誓って悪意があってやったことではない。やれと言われて、選択肢なんかなかったんだ。そして真実に気付くのが遅かった為に、こんな事になってしまった。…奴らと戦ったところで、皆殺しにされるだけだ。相手は国王だからな」
ウエンはルシエの事を思い浮かべた。真面目な彼女はあれからどんな日々を子供たちと過ごしたのだろうか。
「そんな悪い奴が国王なのかよ!こんな国…出て行ってやる!」
「むだだ、やめなさい。君達は国境を越えられない。身分証明書を出せないから」
「身分証明書?」
「そうだ。身分証明書をだせば、君がお母さんの子だと分かる。たちまち捕らえられるぞ」
「まじかよ…」
「だから、お母さんはサフィラスを頼ったんだよ。国から出られない君達を、ひみつごと、彼なら守ってくれるだろうと」
「けど……サフィラスさんとウエンさんは昔から仲良いわけ?あの人、本当にお母さんの思う通り信用できるの?」
「…まあ、そうだな…。サフィラスはウソをついたりはしない。いいヤツだよ。すくなくとも私は、彼に信頼はされているだろうし、君たちには彼や私のことは信頼してほしいと思っている。お母さんが唯一、信用した人物だから」
「ふうん」
「ねぇ、どうしておにいちゃんだけふしぎなちからがあるの?」
アーラがそばにきてウエンの袖を引いた。
「…そうだな。不思議な事だね。しかしその力は一つの個性とも言える。生まれつき備わっているものは、ひとりひとり違うんだ。アーラちゃんにも、色々な個性があって、君にしかない魅力をそれが形作っている。お兄ちゃんは確かに誰にも真似できないような力があるかもしれないけど、マリウス君やアーラちゃんにも、同じくらいすごいものが備わっているはずだよ。自分が知らないだけでね。だからそれを、この家でみんなと暮らしながら探して、そして、気づいてほしい。皆それぞれ、誰にもない良いところがあるってね。そして、私達ともっと仲良くなって欲しい」
マリウスはアーラと顔を見合わせて黙り込んだ。
「心配だろうが、サフィラスは、君たちとニゲルを無理矢理離したりはしない。ニゲルの考えを聞いているだけだ。そして、ニゲルが決めた事を尊重するだろう。君たちは、君たちのお兄ちゃんをもっと信頼するべきだ。そして、お兄ちゃんが決めた事も、尊重してあげないといけない。なぜなら、お兄ちゃんにはお兄ちゃんの進む道があるからだ。ひとりひとり、道は違う。もちろん、マリウス。君にも、そして、アーラちゃんにも、道はあるんだ」
「はぁ!?」
思いっきり眉をしかめたマリウスは、自分の胸ぐらをつかんで爪を食い込ませた。
「なにそれ!じゃあ、どうしろってんだ!!僕らにこの世から居なくなれってことかよ!?」
「それを望む者がいるということだ」
「だから、なんでなんだよ!!」
「…君の、お母さんが、」
「は!?お母さんがなに!?」
「それを残したのは君たちのお母さんだろう?」
ウエンはマリウスの腕をつかんで、袖に半分かくれていた腕輪が見える様に白いシャツをめくった。
「サフィラスさんからそう聞いたけど、それが!?」
マリウスは抵抗するようにその手をふりはらった。
「君たちのお母さんはとてもすばらしい人だったけれど、ある事情により、この国から守ってもらえなくなったんだ。そして、お母さんの存在が邪魔になって、執拗に追いかけて探し出そうとしていた。だから、君たちに危害が及ばないように、みんなをあの洞穴の家に隠していたんだ」
「なんでお母さんの事知ってるの?だいたい事情って、どんな事情だよ」
「それを話す事はできない。君たちを信頼しているけれど、万が一、誰かに知られたら大変だからだ。もちろん、うちの子供達にも知られたら危険な事なんだよ。私も身を隠している立場なのでね」
「ねぇ、おかあさん、わるいことをしたの?」
アーラが涙目でウエンをみつめている。
「いいや、違う。させられていたんだよ。世の中は良い人ばかりじゃないって事さ。私や、サフィラス、みんなのお母さんを利用したいだけ利用して、今度は邪魔になったからと、消してしまいたい人が居るんだ。その人たちがお母さんや君たちを脅かしていたんだ」
「じゃあ、悪い奴がお母さんを狙っていたって事じゃん!」
「そうだな。我々から見ればそうとも言える。しかし、その人達からしたら、自分達こそ正しいと思っている事だろう」
「はぁ?なんだよそいつら?お母さんが帰って来なくなったのは、きっとそのせいなんだ!」
「それはわからない。しかし、関係は大いにあるだろう」
ウエンはマリウスが少し落ち着いた事が分かり、両肩に置いていた手をゆっくり離した。
「お母さんが突然居なくなって、本当に大変だっただろうし、混乱しただろう。私も君たちの事を知っていれば、もっと早く手を差し伸べる事が出来たのに、お母さんは、サフィラスだけに君たちの事を話していたんだ」
「サフィラスさんって、お母さんのなんなのさ?」
「友人だ」
「ウエンさんは友人じゃないの?そもそもここに隠れてるなんて、なんでそいつらと戦わないんだよ!僕はそんなやつら、絶対許せないよ!」
「…私達はね、確かに、望んでしたわけではないが、知らなかったでは許されない事をした。けれどそれは、この国や子供達、家族を守れると信じてやった事で、誓って悪意があってやったことではない。やれと言われて、選択肢なんかなかったんだ。そして真実に気付くのが遅かった為に、こんな事になってしまった。…奴らと戦ったところで、皆殺しにされるだけだ。相手は国王だからな」
ウエンはルシエの事を思い浮かべた。真面目な彼女はあれからどんな日々を子供たちと過ごしたのだろうか。
「そんな悪い奴が国王なのかよ!こんな国…出て行ってやる!」
「むだだ、やめなさい。君達は国境を越えられない。身分証明書を出せないから」
「身分証明書?」
「そうだ。身分証明書をだせば、君がお母さんの子だと分かる。たちまち捕らえられるぞ」
「まじかよ…」
「だから、お母さんはサフィラスを頼ったんだよ。国から出られない君達を、ひみつごと、彼なら守ってくれるだろうと」
「けど……サフィラスさんとウエンさんは昔から仲良いわけ?あの人、本当にお母さんの思う通り信用できるの?」
「…まあ、そうだな…。サフィラスはウソをついたりはしない。いいヤツだよ。すくなくとも私は、彼に信頼はされているだろうし、君たちには彼や私のことは信頼してほしいと思っている。お母さんが唯一、信用した人物だから」
「ふうん」
「ねぇ、どうしておにいちゃんだけふしぎなちからがあるの?」
アーラがそばにきてウエンの袖を引いた。
「…そうだな。不思議な事だね。しかしその力は一つの個性とも言える。生まれつき備わっているものは、ひとりひとり違うんだ。アーラちゃんにも、色々な個性があって、君にしかない魅力をそれが形作っている。お兄ちゃんは確かに誰にも真似できないような力があるかもしれないけど、マリウス君やアーラちゃんにも、同じくらいすごいものが備わっているはずだよ。自分が知らないだけでね。だからそれを、この家でみんなと暮らしながら探して、そして、気づいてほしい。皆それぞれ、誰にもない良いところがあるってね。そして、私達ともっと仲良くなって欲しい」
マリウスはアーラと顔を見合わせて黙り込んだ。
「心配だろうが、サフィラスは、君たちとニゲルを無理矢理離したりはしない。ニゲルの考えを聞いているだけだ。そして、ニゲルが決めた事を尊重するだろう。君たちは、君たちのお兄ちゃんをもっと信頼するべきだ。そして、お兄ちゃんが決めた事も、尊重してあげないといけない。なぜなら、お兄ちゃんにはお兄ちゃんの進む道があるからだ。ひとりひとり、道は違う。もちろん、マリウス。君にも、そして、アーラちゃんにも、道はあるんだ」
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