最後の魔導師

蓮生

文字の大きさ
上 下
39 / 93
第2章 旅立ち

サイドストーリー ウエン②

しおりを挟む
「残念ながら、君達はこの国に不要な存在なんだ。…まあ、私もだがね」

「はぁ!?」
 思いっきりまゆをしかめたマリウスは、自分のむなぐらをつかんで爪を食い込ませた。
「なにそれ!じゃあ、どうしろってんだ!!僕らにこの世から居なくなれってことかよ!?」
「それを望む者がいるということだ」
「だから、なんでなんだよ!!」
「…君の、お母さんが、」
「は!?お母さんがなに!?」
「それを残したのは君たちのお母さんだろう?」
 ウエンはマリウスの腕をつかんで、袖に半分かくれていた腕輪が見える様に白いシャツをめくった。
「サフィラスさんからそう聞いたけど、それが!?」
 マリウスは抵抗するようにその手をふりはらった。

「君たちのお母さんはとてもすばらしい人だったけれど、ある事情により、この国から守ってもらえなくなったんだ。そして、お母さんの存在が邪魔じゃまになって、執拗しつように追いかけて探し出そうとしていた。だから、君たちに危害が及ばないように、みんなをあの洞穴の家に隠していたんだ」
「なんでお母さんの事知ってるの?だいたい事情って、どんな事情だよ」
「それを話す事はできない。君たちを信頼しているけれど、万が一、誰かに知られたら大変だからだ。もちろん、うちの子供達にも知られたら危険な事なんだよ。私も身を隠している立場なのでね」

「ねぇ、おかあさん、わるいことをしたの?」

 アーラが涙目でウエンをみつめている。

「いいや、違う。んだよ。世の中は良い人ばかりじゃないって事さ。私や、サフィラス、みんなのお母さんを利用したいだけ利用して、今度は邪魔になったからと、消してしまいたい人が居るんだ。その人たちがお母さんや君たちを脅かしていたんだ」
「じゃあ、悪い奴がお母さんを狙っていたって事じゃん!」
「そうだな。我々から見ればそうとも言える。しかし、その人達からしたら、自分達こそ正しいと思っている事だろう」
「はぁ?なんだよそいつら?お母さんが帰って来なくなったのは、きっとそのせいなんだ!」
「それはわからない。しかし、関係は大いにあるだろう」
 ウエンはマリウスが少し落ち着いた事が分かり、両肩に置いていた手をゆっくり離した。
「お母さんが突然居なくなって、本当に大変だっただろうし、混乱しただろう。私も君たちの事を知っていれば、もっと早く手を差し伸べる事が出来たのに、お母さんは、サフィラスだけに君たちの事を話していたんだ」
「サフィラスさんって、お母さんのなんなのさ?」
「友人だ」
「ウエンさんは友人じゃないの?そもそもここに隠れてるなんて、なんでそいつらと戦わないんだよ!僕はそんなやつら、絶対許せないよ!」
「…私達はね、確かに、望んでしたわけではないが、知らなかったでは許されない事をした。けれどそれは、この国や子供達、家族を守れると信じてやった事で、誓って悪意があってやったことではない。やれと言われて、選択肢なんかなかったんだ。そして真実に気付くのが遅かった為に、こんな事になってしまった。…奴らと戦ったところで、皆殺しにされるだけだ。相手は国王だからな」
 ウエンはルシエの事を思い浮かべた。真面目な彼女はあれからどんな日々を子供たちと過ごしたのだろうか。

「そんな悪い奴が国王なのかよ!こんな国…出て行ってやる!」
「むだだ、やめなさい。君達は国境を越えられない。身分証明書みぶんしょうめいしょを出せないから」
「身分証明書?」
「そうだ。身分証明書をだせば、君がお母さんの子だと分かる。たちまちらえられるぞ」

「まじかよ…」
「だから、お母さんはサフィラスを頼ったんだよ。国から出られない君達を、ひみつごと、彼なら守ってくれるだろうと」

「けど……サフィラスさんとウエンさんは昔から仲良いわけ?あの人、本当にお母さんの思う通り信用できるの?」

「…まあ、そうだな…。サフィラスはウソをついたりはしない。いいヤツだよ。すくなくとも私は、彼に信頼しんらいはされているだろうし、君たちには彼や私のことは信頼してほしいと思っている。お母さんが唯一、信用した人物だから」

「ふうん」

「ねぇ、どうしておにいちゃんだけふしぎなちからがあるの?」
 アーラがそばにきてウエンの袖を引いた。

「…そうだな。不思議な事だね。しかしその力は一つの個性とも言える。生まれつき備わっているものは、ひとりひとり違うんだ。アーラちゃんにも、色々な個性があって、君にしかない魅力をそれが形作っている。お兄ちゃんは確かに誰にも真似できないような力があるかもしれないけど、マリウス君やアーラちゃんにも、同じくらいすごいものが備わっているはずだよ。自分が知らないだけでね。だからそれを、この家でみんなと暮らしながら探して、そして、気づいてほしい。皆それぞれ、誰にもない良いところがあるってね。そして、私達ともっと仲良くなって欲しい」

 マリウスはアーラと顔を見合わせて黙り込んだ。

「心配だろうが、サフィラスは、君たちとニゲルを無理矢理離したりはしない。ニゲルの考えを聞いているだけだ。そして、ニゲルが決めた事を尊重するだろう。君たちは、君たちのお兄ちゃんをもっと信頼するべきだ。そして、お兄ちゃんが決めた事も、尊重してあげないといけない。なぜなら、お兄ちゃんにはお兄ちゃんの進む道があるからだ。ひとりひとり、道は違う。もちろん、マリウス。君にも、そして、アーラちゃんにも、道はあるんだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...