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1章 出会い
割れた石
しおりを挟む「…どうしよう…!われちゃった…」
石を見下ろすニゲルは、呆然として青ざめていた。これは、ここの農場主のウエンさんがわざわざ部屋で大事に飾るほど大切な物だ。それを、なんたる事か、壊してしまった。どれほど叱られるのだろうか。きっと、自分たちの事はうちに置きたくないと、今すぐ出て行けと言われてしまうかもしれない。それに、直すためにお金を出せと言われたらどうしよう。色々なことが頭の中をよぎっていく。
「ごめんなさい…!僕、スマルさんに謝ってくる…!」
ニゲルはマーロンとマリウスを押しのけて、台所にいるであろうスマルさんの元へかけだした。
「お、おい!」
マーロンの声が聞こえてきたが、ニゲルは早く謝らなければという一心で、スマルさんを探しはじめる。しかし、台所にも居なければ、どの部屋にも居ない。あわてて外にでると、畑にエプロンをしたスマルさんの背中が見えた。
「あ、…あの!!」
近寄ってから、声を張ってしゃべりかける。
ふっと、かがんでいた身体をおこすと、ハサミを持ったまま、カブを手にするスマルさんがこちらを振り返った。
「あら、ニゲルくん。どうしたの?」
土まみれのカブの赤い肌から、土がポロリと落ちる。
ニゲルは何にも知らないスマルさんに、ものすごく申し訳ない気持ちになった。
「ごめんなさい…僕、石を、ほたる石を、割ってしまいました…」
ごめんなさい。もう一度、そう呟いた。
スマルさんはおどろいた顔をして、黙っている。
「あの…僕、マーロン達の部屋の、ほたるいしに触ってしまったんです…そしたら、割れてしまって…」
言い終わらないうちに、スマルさんはニゲルの方に畑の土をいきおいよく踏つけてズンズンと近づいてきた。怖くて、うつむいてしまう。
「…何ですって?触って石を割ったって本当?」
あまりの気迫にニゲルは後ろに下がった。動悸がして、手が冷えてくる。
「はい、乱暴にしたわけじゃないけど…。だけど、2つに割れてしまいました」
「触ったのは、あなただけ?」
「はい、アーラとマリウスは触ってません。僕だけが悪いんです…信じてください!」
スマルさんはそれを聞いて眉をしかめた。怒っているのだろう。もうニゲルにもどうして良いかわからない。
「ウエンさんが帰ってきたら、僕、もう一度あやまります!どうか、アーラやマリウスにひどいことはしないでください!」
なかば震える声でせいいっぱい気持ちを込める。
「…ニゲルくん。あなた、以前にもこんな事があった?」
突然、予想していなかった質問を投げられ、キョトンとする。
「え?」
「石を割ったり、突然体がおかしくなったり…」
スマルさんはニゲルを見下ろしてとても険しい顔をしていた。
「あ、えっと…。最近一回だけ…同じほたる石が触ったら割れてしまった事はあります…」
「そう」
そう言うと、スマルさんは建物の方を見つめ、何かを考えるかのように真剣な顔つきをしている。
「あの、ウエンさんはいつ帰ってくるんですか?…僕、謝らなきゃ…」
しかしその質問の答えは返ってくる事はなかった。
「いい?この事は、うちにいる人以外、誰にも言ってはダメよ」
「え?石を割ったこと?」
「そう。約束してくれたら、許してあげるわ」
ウエンさんは、ようやくほほえんだ。
「あ、はい…!約束します!」
ニゲルはこれほど大事にしている石ならば、きっと割れた事がばれたら、ウエンさんやスマルさんがだれかに叱られるのかと思った。例えば、ウエンさんのお父さんやお母さんとか、それをくれた人とかに。だから、割れたことをないしょにしてほしいのだと。
「…もう部屋の案内は終わったのかしら?今から鶏舎を見に行くの?」
「あ、多分…」
「じゃ、戻っていってらっしゃい」
「はい!」
ニゲルはペコリとおじぎをしてマリウス達のところまで再びかけだした。
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