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1章 出会い
恐怖の朝
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ニゲルは洞穴に戻るとすぐにカギをかけた。
さらに玄関の前に机を引きずって移動させて、椅子も全部引きずって持って来る事にした。
その下には鍋も積み重ねるつもりだ。カギが壊されても扉があかないように、バリケードを作るのだ。
「ちょっと!ニゲル兄ちゃん何してるんだよ!」
ギーギーと背もたれのついた椅子を引きずりながら玄関に向かうニゲルに、マリウスがうろうろと周りをついて来ながらそれを掴んで止めさせようとしてくる。しかし、それに構っている場合ではない。
とにもかくにも、せっせと作業を進める。
そうして、さらに鍋を机の下に入るだけ押し込んでようやく2人を振り返った。
「いい?今日は絶対外に出ないで」
「けど畑の見回りは?今日は草抜きの日じゃん」
マリウスが不安げな声で尋ねてくる。
「今日はなし。そとでうろうろ行動したりするのは危ない気がするから。それより、これからどうするかみんなで考えなきゃ。もうこの家は危ないかも」
「はぁ!?僕、全っ然わからないんだけど、一体なにがどうなってんの?しかも玄関にこんなことしてさ!」
「…おにいちゃん…アーラ、おなか空いたよ…」
アーラが、引きずってきた椅子の側でお腹を押さえている。そうだ、朝のごはんの事をすっかり忘れていた。
説明はあとだ。
「まずは急いで朝ごはんにしなきゃ…」
仕方ない、今日は野菜かごに入った芋だけになりそうだけれど、魚や野菜の為に外に出かけるのは恐ろしかった。
家に戻ると、頬が思い出したかのように次第に痛くなった。ぐっとこらえて泣かないようにしたけれど、やっぱり目が熱くなってきて、ぽろりと涙が手に落ちる。
芋をむくのも何だか嫌になって、手に持っていた芋を半分に小刀で割る。もう、茹でて食べればいいや。ニゲルはそう思った。
そうしてゆでた芋の皮を手でむき、3人で塩を振ったりして食べる。アーラはいつもの様にニゲルの作った甘辛いソースをかけて食べていた。それも、もうそろそろ作らないと、無くなる。
「ねぇ、ていうか僕、そのケガどうしたのか聞いてないんだけど。それに朝からどこに行ってたの?」
「……」
マリウスは、芋のかけらを口に放り込むと、バリケードの一部となった椅子から立ち上がって、甕の中の水をお椀についで一気飲みした。
「誰かにやられたの?」
「…うん。」
「誰に?僕の知ってる人?」
「おにいちゃん、あぶないひとがうちに来たって、さっきいってたよ…そのひと?」
アーラがマリウスを見て、それからニゲルを見た。
「うん」
「まじで?この家、どこよりも安全だってお母さん言ってたじゃん!」
マリウスは唖然として頭を抱えた。
「今まではそうだったけど、これからはもう住めないかもしれない。その人にここがばれちゃったから、また来るかもしれないし…。そのひと、剣を持ってたんだ!大きな剣だぞ!それをもってうちの家に入ろうとしていたんだ!」
「なんで?泥棒?けどこんな貧乏な家に来ないでしょ?それに僕たち捕まえられるような悪いことなんて何にもしてないじゃん!何で突然そんな人が来るんだよ!」
「でも僕をみつけて殺そうとしたんだ!!」
そう叫んだとたん、マリウスは驚きと恐怖で目を見開いた。
「僕は昨日お兄さんを、…サフィラスを沢の小屋に泊めたんだ…宿がないって言ったから!それで、気になって朝早く家を出て、沢に行って、その帰りの道の途中で、その剣を背負った男の人がこの家に入ろうとしているのを見たんだ!それで、止めなきゃって思って、叫んだら、追いかけられて、刺されそうになったんだ!」
「なんでだよ!」
「僕が知るわけないだろ!?いきなり追い掛け回されたんだ!サフィラスが助けに来てくれなきゃ、僕は死んでたかもしれないんだよ!!それなのに、この家に住み続けるの!?僕は嫌だ!無理だよ!」
「でも、この家を出てどこに行くのさ!?僕たちお金なんてないじゃん!引っ越せないよ!どこか別の洞穴でも探さなきゃ無理だ!」
「ねえ…、おにぃちゃん…助けてくれたサフィラスって人とそのあぶない人、どうなったの?」
アーラにそう言われて、はっとした。
そうだ。
サフィラスとあのまま別れてしまった。
「…どうしよう…沢に戻らないと…!」
でも今日はもう来るんじゃないと、怖い顔をして言われた。だけどやっぱりあのままにしておけない。助けにいかないとだめだ。
「はぁ!?なに考えてるのさ!ニゲル兄ちゃんだけ外に出るって言うの!?そんなのだめに決まってる!兄ちゃんがもしその剣を持ってる人にまた追いかけられて、そのままいなくなったら、僕たちどうすればいいんだよ!!」
マリウスは必死にわめきだした。
「そもそも、にいちゃんがそのなんとかって人を沢に泊めたのがよくなかったんじゃないの!?知らない人を家にあげたらだめって、お母さんいつも言ってたじゃん!!」
「わかってるよ!だから沢の小屋に泊めたんじゃないか!それに、マリウスだってウサギ肉食べたでしょ!?あれを僕たちのために捕まえてくれたのはサフィラスなんだよ!?悪くいうのはやめてよ!!」
ニゲルがそう言うと、マリウスは頭にきたのか、肩まで伸びた茶色っぽいような金色の髪をぐしゃぐしゃと両手で掴んで、イライラとした口調で声を上げた。
「…僕はにいちゃんの事を心配して言ってるのに!大人をすぐに信用しちゃダメって言われたの、もう忘れたの!?兄ちゃんのバカ!!僕はもう知らない!2人で考えれば!?」
マリウスは一方的に怒って、くるっと後ろを向くと、ダンダン!と足音が響くんじゃないかという勢いで、寝床のある部屋に消えていった。
こうなるといつも意固地になって口を聞いてくれない。
「…はぁ…」
ふと、アーラの方を振り返ると、しくしく泣いている。
「…けん、か…しないで…っ、うっ…うぇぇぇん!」
それを見ると、思わずニゲルも膝を抱えて泣きたくなった。
しかし、お母さんとの約束が心の片隅でニゲルに叫んでいた。
ーーーアーラとマリウスを守るのよ。
そしてニゲルの中でその気持ちが、今までにないくらい大きく膨らみ始めた。
「僕が明日からなんとかしなきゃ…!」
さらに玄関の前に机を引きずって移動させて、椅子も全部引きずって持って来る事にした。
その下には鍋も積み重ねるつもりだ。カギが壊されても扉があかないように、バリケードを作るのだ。
「ちょっと!ニゲル兄ちゃん何してるんだよ!」
ギーギーと背もたれのついた椅子を引きずりながら玄関に向かうニゲルに、マリウスがうろうろと周りをついて来ながらそれを掴んで止めさせようとしてくる。しかし、それに構っている場合ではない。
とにもかくにも、せっせと作業を進める。
そうして、さらに鍋を机の下に入るだけ押し込んでようやく2人を振り返った。
「いい?今日は絶対外に出ないで」
「けど畑の見回りは?今日は草抜きの日じゃん」
マリウスが不安げな声で尋ねてくる。
「今日はなし。そとでうろうろ行動したりするのは危ない気がするから。それより、これからどうするかみんなで考えなきゃ。もうこの家は危ないかも」
「はぁ!?僕、全っ然わからないんだけど、一体なにがどうなってんの?しかも玄関にこんなことしてさ!」
「…おにいちゃん…アーラ、おなか空いたよ…」
アーラが、引きずってきた椅子の側でお腹を押さえている。そうだ、朝のごはんの事をすっかり忘れていた。
説明はあとだ。
「まずは急いで朝ごはんにしなきゃ…」
仕方ない、今日は野菜かごに入った芋だけになりそうだけれど、魚や野菜の為に外に出かけるのは恐ろしかった。
家に戻ると、頬が思い出したかのように次第に痛くなった。ぐっとこらえて泣かないようにしたけれど、やっぱり目が熱くなってきて、ぽろりと涙が手に落ちる。
芋をむくのも何だか嫌になって、手に持っていた芋を半分に小刀で割る。もう、茹でて食べればいいや。ニゲルはそう思った。
そうしてゆでた芋の皮を手でむき、3人で塩を振ったりして食べる。アーラはいつもの様にニゲルの作った甘辛いソースをかけて食べていた。それも、もうそろそろ作らないと、無くなる。
「ねぇ、ていうか僕、そのケガどうしたのか聞いてないんだけど。それに朝からどこに行ってたの?」
「……」
マリウスは、芋のかけらを口に放り込むと、バリケードの一部となった椅子から立ち上がって、甕の中の水をお椀についで一気飲みした。
「誰かにやられたの?」
「…うん。」
「誰に?僕の知ってる人?」
「おにいちゃん、あぶないひとがうちに来たって、さっきいってたよ…そのひと?」
アーラがマリウスを見て、それからニゲルを見た。
「うん」
「まじで?この家、どこよりも安全だってお母さん言ってたじゃん!」
マリウスは唖然として頭を抱えた。
「今まではそうだったけど、これからはもう住めないかもしれない。その人にここがばれちゃったから、また来るかもしれないし…。そのひと、剣を持ってたんだ!大きな剣だぞ!それをもってうちの家に入ろうとしていたんだ!」
「なんで?泥棒?けどこんな貧乏な家に来ないでしょ?それに僕たち捕まえられるような悪いことなんて何にもしてないじゃん!何で突然そんな人が来るんだよ!」
「でも僕をみつけて殺そうとしたんだ!!」
そう叫んだとたん、マリウスは驚きと恐怖で目を見開いた。
「僕は昨日お兄さんを、…サフィラスを沢の小屋に泊めたんだ…宿がないって言ったから!それで、気になって朝早く家を出て、沢に行って、その帰りの道の途中で、その剣を背負った男の人がこの家に入ろうとしているのを見たんだ!それで、止めなきゃって思って、叫んだら、追いかけられて、刺されそうになったんだ!」
「なんでだよ!」
「僕が知るわけないだろ!?いきなり追い掛け回されたんだ!サフィラスが助けに来てくれなきゃ、僕は死んでたかもしれないんだよ!!それなのに、この家に住み続けるの!?僕は嫌だ!無理だよ!」
「でも、この家を出てどこに行くのさ!?僕たちお金なんてないじゃん!引っ越せないよ!どこか別の洞穴でも探さなきゃ無理だ!」
「ねえ…、おにぃちゃん…助けてくれたサフィラスって人とそのあぶない人、どうなったの?」
アーラにそう言われて、はっとした。
そうだ。
サフィラスとあのまま別れてしまった。
「…どうしよう…沢に戻らないと…!」
でも今日はもう来るんじゃないと、怖い顔をして言われた。だけどやっぱりあのままにしておけない。助けにいかないとだめだ。
「はぁ!?なに考えてるのさ!ニゲル兄ちゃんだけ外に出るって言うの!?そんなのだめに決まってる!兄ちゃんがもしその剣を持ってる人にまた追いかけられて、そのままいなくなったら、僕たちどうすればいいんだよ!!」
マリウスは必死にわめきだした。
「そもそも、にいちゃんがそのなんとかって人を沢に泊めたのがよくなかったんじゃないの!?知らない人を家にあげたらだめって、お母さんいつも言ってたじゃん!!」
「わかってるよ!だから沢の小屋に泊めたんじゃないか!それに、マリウスだってウサギ肉食べたでしょ!?あれを僕たちのために捕まえてくれたのはサフィラスなんだよ!?悪くいうのはやめてよ!!」
ニゲルがそう言うと、マリウスは頭にきたのか、肩まで伸びた茶色っぽいような金色の髪をぐしゃぐしゃと両手で掴んで、イライラとした口調で声を上げた。
「…僕はにいちゃんの事を心配して言ってるのに!大人をすぐに信用しちゃダメって言われたの、もう忘れたの!?兄ちゃんのバカ!!僕はもう知らない!2人で考えれば!?」
マリウスは一方的に怒って、くるっと後ろを向くと、ダンダン!と足音が響くんじゃないかという勢いで、寝床のある部屋に消えていった。
こうなるといつも意固地になって口を聞いてくれない。
「…はぁ…」
ふと、アーラの方を振り返ると、しくしく泣いている。
「…けん、か…しないで…っ、うっ…うぇぇぇん!」
それを見ると、思わずニゲルも膝を抱えて泣きたくなった。
しかし、お母さんとの約束が心の片隅でニゲルに叫んでいた。
ーーーアーラとマリウスを守るのよ。
そしてニゲルの中でその気持ちが、今までにないくらい大きく膨らみ始めた。
「僕が明日からなんとかしなきゃ…!」
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