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1章 出会い
もう家には住めない
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「アーラ!アーラ―ぁ!!」
ニゲルはひたすらに叫んだ。
もうさっきから走り通しで、息は切れ切れ、足はふらふらだったけれど、アーラの名前だけは聞こえる様に全力で叫んでいた。
お母さんと約束したのだ。
一番大きい僕が、皆を、お母さんがいない時は2人を守ると。
しかし真っすぐに風穴の小屋を目指していた足は、アーラがいつも髪につけている、お母さんが作った桃色のリボンが落ち葉の上に落ちているのを見つけて、急停止した。
急いで拾い上げる。
そのリボンは、ニゲルの不安を大いにあおった。
再び足を動かして風穴小屋まで走ると、薄く開いたその扉を一気にギイっと引いた。
「アーラ!」
小さな保管部屋は、芋、残りわずかな押し麦、そしてお母さんが居なくなるまで毎日作っていた、干して乾燥させたニンジンや大根といった野菜や果物、キノコなどの入った瓶がわずかにあるだけで、アーラの姿はない。
(いない…!うそだ…なんでいないの!?)
小屋はまるで誰も来た様子はなく、ただ、おかしなことにカギはついたまま、開いていた。
きっとアーラがあけたのだ。
でもどうしていないのか。
「アーラ!!」
辺りを見回して叫ぶ。
畑だろうか。
ふとそう思うと、自然と畑に足が向いていた。
畑はここから少し下がった場所で、洞穴からは歩いて5分くらいの、少し開けたよく日の当たる、民家が遠めにぽつぽつ見えるようなところにある。お母さんが引っ越してきたときにお金で買った土地に、芋やベリー、ハーブやニラといった、毎年収穫が出来る簡単な野菜や芋などの根菜を植えていたのだ。それを3人で見にいったり雑草を抜いたりして、たまに収穫して大事に食いつないでいた。
斜面を下り、必死に小さな畑を目指す。
その時、女の子の笑い声のような、小さな囁き声が右の木々の中から聞こえた。
「アーラ!?アーラどこ??」
ニゲルはすぐに右側の木々の中に足を踏み入れた。
よくキノコ狩りをお母さんとしていた場所だが、最近は足を踏み入れていなかった。
雑木林で、ナラやクヌギがたくさん生えており、迷いやすくて怖いのだ。
ガザガザと落ち葉を踏みながら、右に左に幹や枝をつかんで、奥に進む。
すると、地面にしゃがんでうつむくちいさな背中が見えた。
「アーラ!!」
声が聞こえたのか、その姿はぱっとこちらを振り向いた。
「お兄ちゃん!!…あッ!」
すると、ダダッと、山ネズミが一匹、アーラのしゃがみ込んでいた場所から出てきて、脱兎のごとく林の中に消えていく。
「お兄ちゃんが来ちゃったから逃げたじゃない!」
ニゲルは無事な姿を見てほっとしたが、同時にその言葉にカチンときて、つい怒鳴った。
「こんなところで何してるんだよ!!心配したじゃん!!」
自分がこんなに心配しているのに、それをちっとも分かっていない。
すると、みるみる眼のふちに今にもこぼれそうなほど水が浮かんできて、顔が歪んでいく。
「お…お兄ちゃんが朝おきたらいなかったから、アーラが倉庫までおやさいを取りに来たんだよ…」
そう言うや否や、わんわん泣き始めた。
「そしたら、ぐすっ…ネズミがいて…うっ…ううッ…麦を勝手に食べてたから、追いかけてきたの!」
激しさを増す喚き声にニゲルは頭を抱える。
「ああ…もう!わかった!それはごめん!」
そうして頭をよしよしして謝ると、急に我に返った。
「そうだ、アーラ!こうしてる場合じゃない!危ないんだ。はやく家に帰らなきゃ!」
「…ふえ?」
ぐずぐずと鼻をすすって目をこすっているアーラの手をつかむ。
「もうあの家には住めないかも…」
「え?」
「危ない人が今朝うちに入ろうとしていたんだ。マリウスを一人で置いてきちゃったから、すぐ戻らないと!行くよ!」
しかし不安そうに早歩きするニゲルを時々見上げては、アーラは何度も尋ねる。
「ねえ、お兄ちゃん、ケガしてるよ、ほっぺた…。なんで?」
「……」
「またおひっこしするの?」
「…わかんない」
「いつひっこすの?」
「……」
アーラに尋ねられても、実際ニゲルにもどうしていいか分からなかった。
頭の中が不安でいっぱいで、何も考えられないのだ。
とにかく、この2人を守らないと。その思いだけで、頭がいっぱいなまま歩いていた。
「…とにかく、3人で考えよう。今日はうちから一歩も出ない。わかった?」
ニゲルはひたすらに叫んだ。
もうさっきから走り通しで、息は切れ切れ、足はふらふらだったけれど、アーラの名前だけは聞こえる様に全力で叫んでいた。
お母さんと約束したのだ。
一番大きい僕が、皆を、お母さんがいない時は2人を守ると。
しかし真っすぐに風穴の小屋を目指していた足は、アーラがいつも髪につけている、お母さんが作った桃色のリボンが落ち葉の上に落ちているのを見つけて、急停止した。
急いで拾い上げる。
そのリボンは、ニゲルの不安を大いにあおった。
再び足を動かして風穴小屋まで走ると、薄く開いたその扉を一気にギイっと引いた。
「アーラ!」
小さな保管部屋は、芋、残りわずかな押し麦、そしてお母さんが居なくなるまで毎日作っていた、干して乾燥させたニンジンや大根といった野菜や果物、キノコなどの入った瓶がわずかにあるだけで、アーラの姿はない。
(いない…!うそだ…なんでいないの!?)
小屋はまるで誰も来た様子はなく、ただ、おかしなことにカギはついたまま、開いていた。
きっとアーラがあけたのだ。
でもどうしていないのか。
「アーラ!!」
辺りを見回して叫ぶ。
畑だろうか。
ふとそう思うと、自然と畑に足が向いていた。
畑はここから少し下がった場所で、洞穴からは歩いて5分くらいの、少し開けたよく日の当たる、民家が遠めにぽつぽつ見えるようなところにある。お母さんが引っ越してきたときにお金で買った土地に、芋やベリー、ハーブやニラといった、毎年収穫が出来る簡単な野菜や芋などの根菜を植えていたのだ。それを3人で見にいったり雑草を抜いたりして、たまに収穫して大事に食いつないでいた。
斜面を下り、必死に小さな畑を目指す。
その時、女の子の笑い声のような、小さな囁き声が右の木々の中から聞こえた。
「アーラ!?アーラどこ??」
ニゲルはすぐに右側の木々の中に足を踏み入れた。
よくキノコ狩りをお母さんとしていた場所だが、最近は足を踏み入れていなかった。
雑木林で、ナラやクヌギがたくさん生えており、迷いやすくて怖いのだ。
ガザガザと落ち葉を踏みながら、右に左に幹や枝をつかんで、奥に進む。
すると、地面にしゃがんでうつむくちいさな背中が見えた。
「アーラ!!」
声が聞こえたのか、その姿はぱっとこちらを振り向いた。
「お兄ちゃん!!…あッ!」
すると、ダダッと、山ネズミが一匹、アーラのしゃがみ込んでいた場所から出てきて、脱兎のごとく林の中に消えていく。
「お兄ちゃんが来ちゃったから逃げたじゃない!」
ニゲルは無事な姿を見てほっとしたが、同時にその言葉にカチンときて、つい怒鳴った。
「こんなところで何してるんだよ!!心配したじゃん!!」
自分がこんなに心配しているのに、それをちっとも分かっていない。
すると、みるみる眼のふちに今にもこぼれそうなほど水が浮かんできて、顔が歪んでいく。
「お…お兄ちゃんが朝おきたらいなかったから、アーラが倉庫までおやさいを取りに来たんだよ…」
そう言うや否や、わんわん泣き始めた。
「そしたら、ぐすっ…ネズミがいて…うっ…ううッ…麦を勝手に食べてたから、追いかけてきたの!」
激しさを増す喚き声にニゲルは頭を抱える。
「ああ…もう!わかった!それはごめん!」
そうして頭をよしよしして謝ると、急に我に返った。
「そうだ、アーラ!こうしてる場合じゃない!危ないんだ。はやく家に帰らなきゃ!」
「…ふえ?」
ぐずぐずと鼻をすすって目をこすっているアーラの手をつかむ。
「もうあの家には住めないかも…」
「え?」
「危ない人が今朝うちに入ろうとしていたんだ。マリウスを一人で置いてきちゃったから、すぐ戻らないと!行くよ!」
しかし不安そうに早歩きするニゲルを時々見上げては、アーラは何度も尋ねる。
「ねえ、お兄ちゃん、ケガしてるよ、ほっぺた…。なんで?」
「……」
「またおひっこしするの?」
「…わかんない」
「いつひっこすの?」
「……」
アーラに尋ねられても、実際ニゲルにもどうしていいか分からなかった。
頭の中が不安でいっぱいで、何も考えられないのだ。
とにかく、この2人を守らないと。その思いだけで、頭がいっぱいなまま歩いていた。
「…とにかく、3人で考えよう。今日はうちから一歩も出ない。わかった?」
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