最後の魔導師

蓮生

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1章 出会い

うちに帰らなきゃ

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 ニゲルは山から降りると、火を起こそうと思った。

 沢にいっぱい転がっている石を上手に使って囲いを作った。   
 そして、小屋に拾って集めておいた枯れ枝を沢山もちだして、その中に積み重ねる。

 火打ち石はないけれど、小屋にはよく町場で使われている、火をつける粉の入った小袋がある。その粉を綿わたでこすっていつも火を起こしているのだ。

いそいでそれを取りに戻ろうとしたら、お兄さんに腕をつかんで止められる。

「火かい?」

「あ、うん。火を起こさないと、もう暗いから…」

 じつはこの時ニゲルは、ウサギはどうするのだろう?と思っていた。
 魚はいつも釣ったらそのまま火で焼いている。
 簡単だ。
 けど、動物をさばくなんて、猟師のおじさんがやっているのを見たことがあるけど、ちょっと自分で出来ない気がした。
 

 考えたら怖くなったから、さっきから、そわそわして、チラチラとお兄さんの方を見ていた。
 
 ニゲルのそんな不安を知っているのか、お兄さんは手に持っていたウサギをとても大切そうに丸い大きな石の上にそっと置いた。


「あぁ、ウサギの事は心配ないよ。今日は私1人でなんとかしよう。もう暗いから、一度ニゲル君の家まで送ろう。…きょうだいが心配して待っているんじゃないかい?」

 そう言われて急に2人を思い出した。

「…そうだ…!ぼく、帰らなきゃ!こんな遅く帰ることなんてないからみんなが心配してるかも…」
 すっかり時間を忘れて狩りに夢中になっていた。

「わかった、じゃあ、私が料理して持っていくから、君は先に帰っているといい」

「え…でも…」

 ちらりと石の上のウサギを見る。

「なんだ、心配しなくても、ちゃんと持っていく。そのかわり、鍋がないから、焼くくらいしかできないけどね。あとは、直ぐ煮られるようにしていこう」

「…本当に?」

「なに、わたしが嘘をつくとでも?」

「…」

 ニゲルは悩みに悩んだ。

 だけど、たしかに早く帰らないといけない。
 お兄さんが全部食べちゃうとは思わないけど、今帰れば、もしかしたら、お肉をちゃんと分けてくれない可能性はあるかなと思った。

 こんなに帰るのが遅くなったのに、小さな魚一匹だけでは、妹も弟も、きっとがっかりするだろう。
 ニゲルのお腹もひっこんで、さっきからぐうぐうと鳴っている。
 もう、お腹いっぱい食べたかった。食べないと力が出ないくらいお腹がへっている。
 我慢のげんかいだ。

 「約束するよ。必ず届けよう」

 お兄さんは眉をゆがめて悩むニゲルに微笑んだ。

 「わかった…。じゃあ…うちに来たら一緒に食べよう?だから、絶対持ってきてね!」
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