座敷童、嫁に行く。

法花鳥屋銭丸

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座敷童、嫁に行く。

※5、座敷童はくるみになる。

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 下唇をやわやわと優しく食まれ、座敷童は心地よさにうっとりする。
 長くひとのそばにいて、接吻する様子も見たことがあったが、これほど幸せな気持ちになるものだとは知らなかった。
 ちゅっ、ちゅっ、とたりは何度も座敷童の唇を甘く吸い、舐め、組み敷いた体を手のひらでたどる。彼が相手を安心させ、ゆったりとした快楽を与えようと腐心している、とまでは、座敷童にはわからない。

 商家の三男坊とはいえ、仕事上山歩きをするたりの体はそれなりに締まっていた。青年らしいその体に、座敷童の小さな体は簡単に包み込まれる。時折戸が鳴るほど強く風が吹き荒れ冷える夜だが、小さな座敷童は男にすっぽりと抱えられて暖かい。

 もっと、欲しい。
 ずっとくちづけていたい。
 なのに人の体は息が切れ、すぐに音をあげるのだ。
 くちづけの合間に大きく息をつくと、彼は小さく笑った。

「くるみ、苦しいかい。接吻の時は、鼻で息をするんだよ」

 鼻にちょんと鼻を付けて優しく言われ、座敷童は瞬きをした。意識して鼻から息を吸ったことなどなかった。虚を突かれた表情を楽しむように、たりはくつくつ笑う。

「ん……っ」

 今度のくちづけは深いものだった。差し込まれた舌が、歯を、舌を、口蓋をくすぐる。ねろりと舌を絡ませた彼に戸惑いながらも同じ動きで応じると、褒めるように頭をなでてくる。胸がドキドキして体が熱くなっていくのを、不思議に思う暇もない。ふー、ふー、と体の熱そのままの熱い息を吐くだけだ。
 どうしてこんなことが気持ちよくて幸せなのかわからない。舌先に上の口蓋をなぜられると、体中がちりちりとあわだって、触ってくれとわめきはじめる。
 それを知っているだろう大きな手が、頬をなで首を降りていく。

「ふ……んん」

 愛おしい、そう言葉でなく仕草で伝えてくるような触れ方にぞくぞくすると同時、自分の口から甘える猫のような声が出た。
 驚いて唇を離せば耳をくすぐられ「ひゃん!」と今度は子犬みたいに叫んでしまう。

 ひとのそばで生まれひとの質を持っているとはいえ、座敷童も本来は山の精気から生まれたモノである。普段ひととして体を使うことはほとんどない。今まで深呼吸さえしたことがなかったのだ。
 そんな座敷童へ、彼の手が、舌が、唇が、ひとつひとつ、ひとの体を知らせ教えるように優しく触れていく。

「ああ、くるみ、きれいだねえ」

 男のとろけた声が耳から入ってきて、全身の力を奪う。

「とっても、とっても、きれいだよ。小さくて、白く柔らかな体も、すべすべの肌も……」

 鼻に、額に、頬にくちづけが降る。

「可愛い声も、たくさん聞かせておくれ」
「んっ、ふ、ふぅっ、あっ」

 両の手のひらが、体をなで降りていく。手のひらから、唇から、焦げつきそうなたりの思いが流れ込んでくる。

 欲しい。この娘が誰より欲しい。
 罰も当たるだろう。本当に座敷童であるならば、お山に憎まれ恨まれ身を滅ぼすかもしれない。
 それでも欲しい、このまなざしが、俺が何者なのかわからないのも構わずに、まっすぐ見つめるこのまなざしが。
 ひとが絶えたのが寂しいと、唇をかみしめて泣くこの娘のそばにいてやりたい――。

 優しく触れてくる彼とは裏腹な、強い思考に翻弄される。ここまではっきりと求められて、嬉しいと同時に、未知のものへの恐怖も覚える。
 でも彼は、座敷童の寂しさに気付き慰めをくれたひと、くるみと名前をくれたひとだ。おびえる理由がない。
 木霊の質を持ち、立ち枯れようとしているけれど。

 天を目指して伸びゆくが木霊の質であるものを、よってたかって枝を落とされ芽を摘まれ、合わぬ水を与えられてきたのだろう。
 自分の苦しみにまかせ、当たり散らしても許される立場のようなのに、怪我をしてなお回りの男たちばかり気遣っていた。
 男たちもまた、そんなたりの性根を知るがゆえ、かいがいしく世話をしていたに違いない。

 伸びゆく木であるはずのこの男を、押さえつけ苦しめるものから守ってやりたい。
 抱きしめたいと腕を伸ばしても座敷童の小さな手では、存外たくましい肩に触れるだけになった。それでも、男の肌の熱さがいとしい。

「んっ、ふ、うう、んっ」

 やわやわと胸をもまれ、先がじんじんしびれる。触ってほしい、この熱をなんとかしてほしいと願うのに、男の指は周囲にしか触れない。焦らされ、焦らされ、わけもわからなくなった頃に、ぴんと赤い先をはじかれる。

「あああああっ」

 魚のように体が跳ねた。

「男を知らぬ体でこんなに啼くなんて、可愛いくるみは、しとねの上でもいい女だねえ」
「あっ、ああっ、んんっ、うっ、ああああん」
「たくさん濡れて、素直でいい体だ。あまぁいにおいで男を狂わせる」
「うっ、ううん、あ、ひ、ひぃんっ」
「もっともっと聞かせておくれよ。可愛くて、いやらしくて、はしたない声……」

 触れるか触れないかの強さで両の胸の先をくすぐられ、いやらしいと言われた声も、ぴくぴく跳ね回る体も押さえられない。指に摘ままれ、こねられ、潰されて、より強くなる快楽に、気付ば尻のあたりまで濡れてしまっている。何を漏らしているのかわからない、それを考える余裕は座敷童にない。
 可愛い、可愛い、可愛いくるみ。
 そう呼ばれる度に、自分が作り変えられていくようだ。

「あううっ」

 これ以上の気持ちよさなどないと思ったのに、散々責められ腫れた胸の先を口に含まれ叫ぶ。いたわるように舐められてしゃぶられて、啼かされて息つく暇もありはしない。
 手のひらに内ももをなでられる。体の奥から熱いものがあふれて流れる。気持ちいいのにせつなくて、わけもわからず体を縮めようとするのに、組み敷かれていてそれもできない。
 胸から唇が離れた。舌が、唇が、愛撫しながら降りていく。両脚を開かされ、ぐしょぐしょのそこをあらわにされる。

「ああ……可愛いねえ。あかんぼみたいにつるつるだ。なのにぽってり肉が付いて、年頃の娘の体をして……」

 下腹にくちづけられて、体を言葉であらわされて、羞恥が襲う。さらには指でそおっと秘裂を開かれて、腹の奥が熱くなる。そんな場所、自分の体でも確かめた事などない。そもそも自分の体がどんなものか知らない。

「ひッ!」

 舐めあげられた。舌が割れ目をなぞって動く。

「ひ、ひぃん、あひ、ひうっ」

 こんなの知らない。山の生きものたちが交わっているときも、こんなことはしていなかった。なのに柔らかな舌に探られ、ほじられ、時に吸われて、胸とは比べものにならない快楽に悶える。

 外からの荒れた風の音に、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音と、女の甘く悩ましい嬌声、男の荒い息が混じる。

「ひ、あっ、あっ、あっ、ひいっ」
「ああ……ここもぷっくり膨らんでるよ」

 赤く腫れた小さな突起、秘裂に隠れていたその場所を舌先で押しつぶされたその瞬間、視界が真っ白になった。

 絶叫をしたらしい。

 気がつけば、あまりに強い快楽にぽろぽろ涙をこぼしながら、虚空を見つめて浅い息を繰り返していた。

「果ててしまったかい、本当に、くるみは可愛いねえ」

 つぷり。

 初めての絶頂の余韻も収まらない中、長く太い男の指が中へ入ってきた。力の入らない体がぴくん、と反応する。

「あ……ん」
「ああ、やっぱり狭いねえ……。くるみにはできるだけ、痛い思いをさせたくないよ」

 ゆるゆるとかき回され、腹側の壁をくすぐられてすすり啼く。次第に指は増え、動きは大きくなり、嬌声も大きなものに変わっていく。

「ああっ、ひ、い、んんっ、ああああっ、あっ、ああんっ」

 体の奥から熱いものがこぼれては、男の指にかき回される。男は指で中を責め続けながら、じっとこちらの顔を見つめてくる。
 嫌だ、恥ずかしい。
 涎と汗と涙できっとひどいことになっているだろうに。
 隠したいのに腕が上がらない。

「可愛い、くるみ。そんなにとろけた顔をして、気持ちいいかい」

 知っているくせに。わかっているくせに。

「ふぁ……」

 ゆっくりと指を引き抜かれ、体が震える。寂しいと、思うのはなぜなのか。戸惑う座敷童を熱のこもったまなざしで見つめながら、たりは熱く硬いおのれ自身を濡れそぼった場所に押しつけた。

「可愛い、可愛い、可愛いくるみ。俺のものになっておくれ」

 座敷童は組み敷かれきゅんきゅん啼く雌犬を、交わりながら甘ったるく粘りつくような声をあげる雌猫を思い出した。
 あんな風に、この男とひととき、つがいになるのだ。
 うん、と頷くと、たりは幸せそうな顔をした。
 汗みずくの顔に浮かんだとろけるような笑顔に、腹の奥が震えてたりを呼ぶ。

「あ、あ、あ、あああッ! あっひ、ひうっ」

 熱い固まりが体の中を押し広げていく。少し入っては戻り、ほぐすようにゆるゆるとかき回すと、また奧へ奧へと入っていく。引き抜かれるその時に何もかも引きずり出されそうだ。
 重く息苦しいが痛みはあまりなかった。繋がると同時に、男の心が一気に座敷童へ押し寄せてきたせいだ。

 熱い、狭い、絡みついてくる。
 なんて気持ちがいいんだろう。
 でも足りない、奥まで入れたい、この娘を全て俺のものにしたい。
 ああ可愛い、とろけた顔して、素直な体で、可愛い、可愛い、くるみはなんて可愛いんだ――。

「あっあっ、あう、うううっ」
「くるみ、くるみ、可愛いッ」

 小さな体を抱き込まれ、頭に、頬に何度もくちづけされながら、くるみ、くるみと絶えず呼ばれる。伝わる想いも声も中身は変わらず、ひたすら男に求められる。繋がった浅い場所も深い場所も触れ合う肌もすべて気持ちよくて、気付けば自分も腰を揺らしていた。ねちっこく奧をこね回されては叫ぶ。

 ぱちゅん。

「ひいんっ」

 こね回されてほぐれた奧へ叩きつけられ、快楽にぴんと脚の爪先が伸びた。気遣いながらゆっくりと中をほぐしていたたりの腰の動きが早まって、激しくなっていく。

「あっ、あっ、あああああッ!」
「くるみ、くるみ、ああ、可愛い! やらない、誰にもやるもんか、ああ、くるみ、くるみッ!」

 おかしくなる。
 気持ちよすぎておかしくなる。
 目の前が何度もチカチカしてどうにかなりそうだ。
 激しく責められ小さな体を揺さぶられたその中で、一番奥へぐっと押しつけられたものが、びくびくと跳ねた。

「く、う、くるみ、くる、みッ――!」
「――――――ッ!!!」

 熱いものが注ぎ込まれた瞬間、小さな体にぎゅうとしがみつかれ名前を呼ばれ、『くるみ』は声にならない悲鳴とともに絶頂して果てた。


 その一夜、座敷童は何度となく男に抱かれ、くるみ、くるみと名を呼ばれ、男の腕の中、ただのひとりの娘になった。

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