【完結】ざまぁされた王子がうちに婿入りするそうなのでバカ妹を呪ってもらいます

土広真丘

文字の大きさ
上 下
3 / 4

しおりを挟む
 ◆◆◆

「で、その……これは一体どういうことでしょうか」

 とりあえず食堂に場所を移し、テーブルに腰を落ち着けた私たちは、しばらく互いの出方を見るように沈黙していた。恐る恐る口火を切ったのは父だ。

「あなたはカインツ様だと? じゃなくて?」
「あ、はい……カの方です。ごほっ」

 ハインツの双子の弟、第三王子カインツ殿下。小さな頃から病弱で、ほとんど表に出てこない王子様だった。私も会ったことないのよ。体が弱いから学園にも入学していなくて、王宮に家庭教師を呼んでいたそうだし。さっきからやたらと咳込んでるのはやっぱり体調が悪いのかしら。

「私は兄の身代わりに立てられたのです。ハインツとしてローゼ男爵家に行けと。本物の兄上は私に成り代わり、王宮の奥に匿われています。数年後、ほとぼりが冷めたら病が快癒したとでも言って、私の名で表に出るでしょう」
「な、何故そんなことに……」
「ごほごほ……王家は王太子たる第一王子ジュード兄上を除いて腐り切っています。国庫の金をバレない程度に着服し、王家に伝わる宝を売りさばいているのは王と王妃も同様。第二王子であるハインツ兄上が目立つ行動をしたために隠しきれなくなり、やむを得ず全ての罪をハインツ兄上に被せた上で私を身代わりにしたのです。あの三人は一蓮托生いちれんたくしょうで、互いが互いの不正の証拠を握り合っていますから、誰かを切り捨てることができないのです」

 はあぁ、うそでしょ!? 王家ボロボロじゃない!

「数年前、王たちを諌めたジュード兄上は監視付きで国外留学に行かされ、未だ戻ってこられずにいます。それから横領が本格的になりました。僕は幼い頃から病弱で、ベッドから長時間起きていることができず、抗議しても聞き入れてもらえませんでした。それどころか部屋に軟禁状態にされてしまって」
「か、替え玉にされたことも含めて、全てを司法院に訴え出ればいかがですかな? というか王家は、あなたから私たちに真相を話されてバレるとは考えなかったのでしょうか」

 確かに。事実、こうして即バレして全部白状ゲロってるわけだし。

「司法と捜査を司る機関の上層部は、既に王に買収されています。ごほ、僕たちが声を上げたところでもみ消されるだけでしょう。それに僕はこの体なのでろくに動けませんし。なんせ10メートル走っただけで倒れてしまう有り様なんです。おそらくこの邸の周囲には監視が付けられていますから、おかしな動きをすれば病死ということで暗殺されるかも……」
「な、何と……」

 それ以上は言葉もない父に代わりに、ぐいっと身を乗り出した私は力強く宣言した。

「やっぱり呪いしかないわ! 邸内でこっそり呪うのならバレないわよ! カインツ殿……いえ、カインツ様。あいつら全員呪ってやりましょう! あなたの力が必要なんです!」
「の、呪い!? 何ですかやぶからぼうに!?」

 のけぞるカインツ様をよそに、私は呪いの本を引っ張り出して超高速でめくり、やり方を再確認したのだった。

 ◆◆◆

「……ということで、準備しました!」

 食堂のテーブルには、魔法陣を刺繍したテーブルクロスと、皿に乗ったローストチキン、すっぽんの活き血のジュース、庭で取ってきた草を茹でた温野菜サラダが並んでいる。
『ワー、ナンダカオイシソウダナァ』と現実逃避気味に呟くお父様を無視して、私は金紙を貼り付けて黄金に輝かせた万能包丁をカインツ様に差し出した。剣なんかとっくに売っちゃったわよ、賠償金を払うのにお金がいるんだから!

「後はこの包丁を持って呪文を唱え、テーブルの食事を食べて、ゆっくりでいいのでステップを踏んで下さい。呪文とステップはこの本に書いてある通りです」
「ちょっ、何かおかしいと思う! 何か違うよコレ!? 落ち着いて一回考え直そう!」

 全力のノーサンキューで包丁を拒みながら、いつの間にか丁寧語を消したカインツ様が必死で訴えるけど、ギロッと睨んで押し通す。

「いいから協力して下さい! 何でもいいからあのバカ妹に一泡吹かせてやりたいの! ついでに王家にもね!」
「ひ、ひぇぇ……」

 私の勢いに圧倒されたカインツ様が、おずおずと金ピカ包丁を受け取った。一瞬だけ触れ合った指と指の感触に、何故か胸の奥が僅かに跳ねたような気がした。
 カインツ様は本を見ながらたどたどしく呪文を唱え始める。

「ええと、ア……アローム、ベルサレム……ごほごほ……」

 さあ、呪われてしまえ!
 弱々しい声を聞きながら、私は内心で妹と本物のバカ王子への怨嗟えんさをぶちまけていた。

 ――それを毎日続け、1カ月ほどが経った。当たり前だけど妹とバカ王子がひどい目に遭ったという報は入って来ない。やっぱり呪いなんてインチキだったらしい。はぁ、まあ分かってたけどさ……。

 底を突きかけていた資金も本当になくなってしまったし、後は一家でのたれ死ぬだけね。せめてカインツ様だけは逃してあげたいけど、ずっと寝たきりに近い生活をしていたというから無理だろう。

 と、思っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~

たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。 彼女には人に言えない過去があった。 淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。 実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。 彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。 やがて絶望し命を自ら断つ彼女。 しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。 そして出会う盲目の皇子アレリッド。 心を通わせ二人は恋に落ちていく。

“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!

みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。 結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。 妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。 …初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

悪役令嬢(濡れ衣)は怒ったお兄ちゃんが一番怖い

下菊みこと
恋愛
お兄ちゃん大暴走。 小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚の崩壊 ―裏切りの果てに見た真実―

ゆる
恋愛
華やかな社交界、羨望の的となる理想の結婚——しかし、その裏には欺瞞と裏切りが潜んでいた。 ジェシカは、一流の家柄を持つ夫・暁斗と「白い結婚」を果たし、世間から完璧な夫婦として称賛されていた。しかし、それは虚飾に彩られた幻想に過ぎなかった。暁斗の不倫、家族の隠蔽、そして社会的な圧力——すべてがジェシカを傷つけ、彼女の心を孤立させていく。 しかし、ただ泣き寝入りする彼女ではなかった。裏切りの証拠を一つずつ集め、緻密に復讐の計画を練り上げたジェシカは、遂にすべての偽りを暴き出す。報道機関へのリーク、法的措置、世間の逆襲——彼女の冷静で計算された復讐は、暁斗とその共謀者たちを社会的に破滅へと追い込んでいく。

婚約破棄されたので、その場から逃げたら時間が巻き戻ったので聖女はもう間違えない

aihara
恋愛
私は聖女だった…聖女だったはずだった。   「偽聖女マリア!  貴様との婚約を破棄する!!」  目の前の婚約者である第二王子からそう宣言される  あまりの急な出来事にその場から逃げた私、マリア・フリージアだったが…  なぜかいつの間にか懐かしい実家の子爵家にいた…。    婚約破棄された、聖女の力を持つ子爵令嬢はもう間違えない…

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

処理中です...