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第1章
85.これからもっと幸せになる②
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デンと置かれたのは、やや厚めの冊子と、分厚い辞典のような書物だった。
『聖威師必読・神からの溺愛に対応するための完全マニュアル~事例・演習問題付き~』
と書かれている。
「……これは?」
嫌な予感しかしないアマーリエが青ざめながら聞くと、端的な返答が返る。
「説明が要りますか? 読んで字のごとく、です。多くの下賜品への対応なども含め、聖威師が知っておくべきあらゆる事柄が載っています。ひとまず第1巻と、現時点までの全巻の目次が載っている冊子をお持ちしました」
「はぁ……」
「これは聖威師に伝わる秘伝の書。私も初めて見せられた時はふざけんなと思いましたが……あ、いえ何でもありません。とにかくこれは、歴代の聖威師たちが改訂しながら脈々と受け継がれて来た最大の宝なのです」
「絶対もっと大事な宝があると思いますけれど!? というか大神官もちょろっと本音が出て」
「アマーリエ。あなたも聖威師の列に連なった以上、この書を継承し、加筆修正し、次代に伝える義務があるのです。大神官として指示を出します。明日までに第1巻を読めるところまで読んでおきなさい」
「あ、明日までですか!?」
それではこれからの打ち合わせに参加する時間がほとんど取れなくなる。
「もちろん、できる範囲で、流し読み程度で構いません。焔神様の用事がある場合はそちらを優先すること。また、読書した時間はきちんと時間外労働として申請するように」
(でも、この話し合いには参加したいし……)
アマーリエが躊躇していると、再び念話が響いた。
『大丈夫です。この場は私に任せて下さい。あなたの意向に反する処分にはさせません』
静かな中に確かな意思を秘めた声に、ハッと前をみると、透き通った青い瞳が揺らがずこちらに向けられていた。
(大神官……)
聖威師になって以降、フルードとは順調に親交を深めていた。陰に日向に力になってくれる大神官は、今やアマーリエの大きな味方になっている。
『それよりも目次を確認して下さい』
『は、はい』
恐る恐る目次の冊子を開いたアマーリエは、ペラペラとページをめくって内容を眺めた。
「食事会に主神が乱入して来てアーンで食べさせようとした時の対処方法……小さな段差を上るたびにお姫様抱っこで運ぼうとする主神を断る方法……天に還らずひたすら側に居座る主神を還るよう説得する方法……何ですかこれは!?」
(神は滅多に地上に降りて来ないのではないの!? いえ、愛し子が関わる場合は別だと言うけれど、ここまでだなんて)
「お、大げさに書いているだけですよね?」
だが、横から本を覗き込んだフレイムがキョトンとした顔で言った。
「何言ってんだ。これくらい普通にやるだろ」
「やるの!?」
フルードが優しい微笑みを絶やさずに補足した。
「ここに書かれていることは全て、一人前の聖威師になる過程で先人たちが体験して来た貴重な事例。しっかりと読み込み、先達の経験を吸収しなさい。あなたは今から真の意味で、聖威師としての第一歩を踏み出すのです」
「どんな踏み出し方ですか!?」
「問答している暇はありません。時間は有限です。今すぐ部屋に戻り書を読むように。この場は私たちに任せ、自分のやるべきことをやりなさい」
「は、はい!」
言われたことは支離滅裂だったが、フルードが放つ訳の分からない迫力に押されたアマーリエは、勢い良く立ち上がる。そのまま一礼すると、書物を抱えて慌ただしく応接室を出て行った。
だが――引きつった顔を浮かべながらもその唇は嬉しそうに持ち上がり、瞳の奥には幸福とこれからへの期待が輝いていた。
『聖威師必読・神からの溺愛に対応するための完全マニュアル~事例・演習問題付き~』
と書かれている。
「……これは?」
嫌な予感しかしないアマーリエが青ざめながら聞くと、端的な返答が返る。
「説明が要りますか? 読んで字のごとく、です。多くの下賜品への対応なども含め、聖威師が知っておくべきあらゆる事柄が載っています。ひとまず第1巻と、現時点までの全巻の目次が載っている冊子をお持ちしました」
「はぁ……」
「これは聖威師に伝わる秘伝の書。私も初めて見せられた時はふざけんなと思いましたが……あ、いえ何でもありません。とにかくこれは、歴代の聖威師たちが改訂しながら脈々と受け継がれて来た最大の宝なのです」
「絶対もっと大事な宝があると思いますけれど!? というか大神官もちょろっと本音が出て」
「アマーリエ。あなたも聖威師の列に連なった以上、この書を継承し、加筆修正し、次代に伝える義務があるのです。大神官として指示を出します。明日までに第1巻を読めるところまで読んでおきなさい」
「あ、明日までですか!?」
それではこれからの打ち合わせに参加する時間がほとんど取れなくなる。
「もちろん、できる範囲で、流し読み程度で構いません。焔神様の用事がある場合はそちらを優先すること。また、読書した時間はきちんと時間外労働として申請するように」
(でも、この話し合いには参加したいし……)
アマーリエが躊躇していると、再び念話が響いた。
『大丈夫です。この場は私に任せて下さい。あなたの意向に反する処分にはさせません』
静かな中に確かな意思を秘めた声に、ハッと前をみると、透き通った青い瞳が揺らがずこちらに向けられていた。
(大神官……)
聖威師になって以降、フルードとは順調に親交を深めていた。陰に日向に力になってくれる大神官は、今やアマーリエの大きな味方になっている。
『それよりも目次を確認して下さい』
『は、はい』
恐る恐る目次の冊子を開いたアマーリエは、ペラペラとページをめくって内容を眺めた。
「食事会に主神が乱入して来てアーンで食べさせようとした時の対処方法……小さな段差を上るたびにお姫様抱っこで運ぼうとする主神を断る方法……天に還らずひたすら側に居座る主神を還るよう説得する方法……何ですかこれは!?」
(神は滅多に地上に降りて来ないのではないの!? いえ、愛し子が関わる場合は別だと言うけれど、ここまでだなんて)
「お、大げさに書いているだけですよね?」
だが、横から本を覗き込んだフレイムがキョトンとした顔で言った。
「何言ってんだ。これくらい普通にやるだろ」
「やるの!?」
フルードが優しい微笑みを絶やさずに補足した。
「ここに書かれていることは全て、一人前の聖威師になる過程で先人たちが体験して来た貴重な事例。しっかりと読み込み、先達の経験を吸収しなさい。あなたは今から真の意味で、聖威師としての第一歩を踏み出すのです」
「どんな踏み出し方ですか!?」
「問答している暇はありません。時間は有限です。今すぐ部屋に戻り書を読むように。この場は私たちに任せ、自分のやるべきことをやりなさい」
「は、はい!」
言われたことは支離滅裂だったが、フルードが放つ訳の分からない迫力に押されたアマーリエは、勢い良く立ち上がる。そのまま一礼すると、書物を抱えて慌ただしく応接室を出て行った。
だが――引きつった顔を浮かべながらもその唇は嬉しそうに持ち上がり、瞳の奥には幸福とこれからへの期待が輝いていた。
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