神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
上 下
85 / 160
第1章

85.これからもっと幸せになる②

しおりを挟む
 デンと置かれたのは、やや厚めの冊子と、分厚い辞典のような書物だった。

『聖威師必読・神からの溺愛に対応するための完全マニュアル~事例・演習問題付き~』

 と書かれている。

「……これは?」

 嫌な予感しかしないアマーリエが青ざめながら聞くと、端的な返答が返る。

「説明が要りますか? 読んで字のごとく、です。多くの下賜品への対応なども含め、聖威師が知っておくべきあらゆる事柄が載っています。ひとまず第1巻と、現時点までの全巻の目次が載っている冊子をお持ちしました」
「はぁ……」
「これは聖威師に伝わる秘伝の書。私も初めて見せられた時はふざけんなと思いましたが……あ、いえ何でもありません。とにかくこれは、歴代の聖威師たちが改訂しながら脈々と受け継がれて来た最大の宝なのです」
「絶対もっと大事な宝があると思いますけれど!? というか大神官もちょろっと本音が出て」
「アマーリエ。あなたも聖威師の列に連なった以上、この書を継承し、加筆修正し、次代に伝える義務があるのです。大神官として指示を出します。明日までに第1巻を読めるところまで読んでおきなさい」
「あ、明日までですか!?」

 それではこれからの打ち合わせに参加する時間がほとんど取れなくなる。

「もちろん、できる範囲で、流し読み程度で構いません。焔神様の用事がある場合はそちらを優先すること。また、読書した時間はきちんと時間外労働として申請するように」

(でも、この話し合いには参加したいし……)

 アマーリエが躊躇していると、再び念話が響いた。

『大丈夫です。この場は私に任せて下さい。あなたの意向に反する処分にはさせません』

 静かな中に確かな意思を秘めた声に、ハッと前をみると、透き通った青い瞳が揺らがずこちらに向けられていた。

(大神官……)

 聖威師になって以降、フルードとは順調に親交を深めていた。陰に日向に力になってくれる大神官は、今やアマーリエの大きな味方になっている。

『それよりも目次を確認して下さい』
『は、はい』

 恐る恐る目次の冊子を開いたアマーリエは、ペラペラとページをめくって内容を眺めた。

「食事会に主神が乱入して来てアーンで食べさせようとした時の対処方法……小さな段差を上るたびにお姫様抱っこで運ぼうとする主神を断る方法……天に還らずひたすら側に居座る主神を還るよう説得する方法……何ですかこれは!?」
(神は滅多に地上に降りて来ないのではないの!? いえ、愛し子が関わる場合は別だと言うけれど、ここまでだなんて)
「お、大げさに書いているだけですよね?」

 だが、横から本を覗き込んだフレイムがキョトンとした顔で言った。

「何言ってんだ。これくらい普通にやるだろ」
「やるの!?」

 フルードが優しい微笑みを絶やさずに補足した。

「ここに書かれていることは全て、一人前の聖威師になる過程で先人たちが体験して来た貴重な事例。しっかりと読み込み、先達の経験を吸収しなさい。あなたは今から真の意味で、聖威師としての第一歩を踏み出すのです」
「どんな踏み出し方ですか!?」
「問答している暇はありません。時間は有限です。今すぐ部屋に戻り書を読むように。この場は私たちに任せ、自分のやるべきことをやりなさい」
「は、はい!」

 言われたことは支離滅裂だったが、フルードが放つ訳の分からない迫力に押されたアマーリエは、勢い良く立ち上がる。そのまま一礼すると、書物を抱えて慌ただしく応接室を出て行った。

 だが――引きつった顔を浮かべながらもその唇は嬉しそうに持ち上がり、瞳の奥には幸福とこれからへの期待が輝いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。 ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。 そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。 始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め… ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。 誤字脱字お許しください。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました 2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました ※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です! 殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。 前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。 ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。 兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。 幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。 今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。 甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。 基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。 【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】 ※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

処理中です...