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68.聖威師の務め②

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「ええっ!?」

 思いもよらない言葉に、アマーリエは及び腰になった。

「わ、私がですか!? ……も、もちろん神官として尽力はいたしますが、私にはとても……」

 この場にはまだ気の揺らぎが残っているため、複雑な能力はしばらく使えないという話だったはずだ。フルードのような熟練神官であれば話は違うのだろうが、アマーリエはまだ未熟。神器を対象とした最高難度の正常化などできる自信が無かった。

「細かい制御はできずとも、的に向かって正常化の力を打ち出せれば十分です。一緒にやってみましょう。いきなりのことで戸惑うとは思いますが、これは聖威師の役目の一つです」
「聖威師の?」
「はい。……転送完了までにもう少し猶予がありそうですから、簡単に説明します」

 転送の光を一瞥して状況を確認したフルードは、すぐにアマーリエに視線を戻した。

「例えばですが、今回のように神器が暴走し、なおかつ霊威師では鎮火できない場合。また、神器が妖魔や悪霊など神以外のモノに取り込まれ、神ではない存在が神の力を得てしまった場合。あるいは、甚大な天変地異が起こり地上に大損害が出る場合。今のは一例ですが、こういった事態には、主に聖威師が対処します」
(そうなの!?)

 慌てて神官府で習った内容を思い出すが、所詮は属国で受けた講義。天威師や聖威師の領分については詳細を習わなかった。

「神が関わっていないところで勝手に暴走した神器や、神ではない魔物などの騒動、神罰ではない自然発生的な天変地異などに対しては、天威師は動きませんし動けません。神が直接関与していないからです。ですから、聖威師が担当します」

 天威師、聖威師、霊威師にはそれぞれの役目と領分、そして制約などの決まり事があるのだと、フルードは述べた。それらは範囲の一部が被っていることもあれば、厳重に線引きされた専任業務もある。

「聖威師は、人間が後天的に神になった存在。だからこそ、本来は人間として生きるはずだった時間を地上に留まって過ごすこと、その期間は人間のように生きることを許されています……非常に多くの制限と条件付きではありますが」

 最後はほろ苦さを滲ませた声だった。課せられている膨大な制約のせいで、実力的には可能なことが行えず、涙を呑む場合も多いという。今もきっとそうだ。制限なしで聖威を使えれば、通信霊具の不調だろうが神器の転送や暴走だろうが、力技ちからわざで即解決できている。

「私は大神官として神官府のいただきにいますが、これは天威師が国の皇帝として立っているようなものです。皇帝とは別に、国政を行う国王がいるように、神官府にも国王に相当する主任神官がいます」

 霊威師の最高位が主任神官である。聖威師は就任できず、必ず人間がその役に就く。神である聖威師が関与できない部分は、主任神官が統括することになっているからだ。

「それでも、聖威師は天威師に比べれば、人の世に干渉できる範囲が広いのです。神が関わっていないことにもある程度は対応できますから」

 とはいえ、十重とえ二十重はたえの制約と決められた範囲は厳然とあり、規定線を越えれば容赦なく天に強制送還だ。その点は天威師と同じである。

「なお、ご存知と思いますが、時間操作や空間操作は周囲に与える影響が大きいため、使用可能な範囲が国法で制限されています。ですから今回の神器も、現段階では時間を止めたり隔離空間を作って対応することはしません」

 天威師と聖威師は超法的な存在なので、緊急時は国の法規を超えた行動が認められる。しかし、それでも可能な限りは法の範囲を遵守する決まりになっているのだという。

 そこまで話し、フルードは斎場の一点を見た。転送されつつある神器が、光の中でうっすらとその全容を現しつつあった。

「もうすぐ神器が転送されます。今はここまでにしましょう。他の説明は時期を見てしていきます。……それで、神器への対処ですが。先ほども言いましたが、あなたが最後の仕上げをしてくれますか、アマーリエ」
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