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44.夢の終焉②

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 深呼吸し、ゆっくりと少年神に向かって足を踏み出す。

「待てアマーリエ、俺も……」
「いいえ、大丈夫」

 フレイムが案じる表情で付いて来ようとするのを断り、一人で神の前まで進み出た。裾をさばいて神に対する礼を取り、叩頭する。

「畏れながら、我が妹ミリエーナは御身の御神威に感じ入り、言葉を失っているようです。不肖の妹に代わり、姉たる私が神官としてここに問います。貴き大神ラミルファ様。――あなた様は邪神であらせられるのですか?」
『ああそうだよ』

 ケロリと答えた少年神――ラミルファの白皙はくせきの美貌が、次の瞬間ヘドロのような色に染まり、ボコリと盛り上がった。腐った汚泥が波打つように蠢く表皮を突き破り、大量の蛆虫うじむしがゾロゾロ這い出す。
 ドブ色になった皮膚は全身に渡ってドロリと溶け落ち、内部から溢れた臓物や眼球がゴロゴロと転がり、血潮が飛び散り、内部の白骨が露わになる。
 真っ黒な炎が激しい音を立てて噴き出した。

「うわあああっ!」
「い、いやー!」
「きゃああ!」

 神官たちの悲鳴が弾け、ラミルファの近くにいたミリエーナが一目散に逃げ出した。
 だが――そのミリエーナよりもさらに至近距離にいたのは、眼前まで歩み寄っていたアマーリエだった。黒い炎が、あぎとを開いた生き物のように襲いかかる。

『主、危ない!』
『お下がりを!』

 緊急事態を察知したのだろうラモスとディモスが、アマーリエと黒炎の間に出現し、盾になる形で立ちはだかった。

「アマーリエッ!」

 ほぼ同時にフレイムが一足飛びに駆け付け、アマーリエを抱いて後方に跳躍する。

退きなさい!」

 地を蹴ったフルードが黒炎の前に体を滑り込ませ、霊獣たちを背後に押しのけた。ラミルファとフレイムが小さく息を呑む。黒き炎が揺れ、フルードを避けるように熱風ごと軌道を変えた。

 アシュトンを始めとする他の聖威師たちは、パニックになりかかっている神官や王族、官僚を抑えている。

(この炎は、シュードンを焼いたあの――!)
「これはあなたの炎だったのですか!?」

 思わず叫ぶと、ラミルファがカクカクと骨を揺らして首肯した。

「アあ、そういエば君はさっキもボクの炎を見たナ。愛し子の様子ヲ見ていタら、ボクたチをおとしめル無礼ナ神官がいタから、少シお仕置キしたのだヨ。ついデに帝都一体モ燃やしテやろうト思ったガ、天威師が仲裁にいらシたから仕方なイ、やめタよ」

 最後は、神官たちの中にいるシュードンをギロリと見遣っての言葉だった。

(そうか……シュードンに怒って黒炎をけしかけたのね。ラミルファ様たちの基準では最悪の部類に入る私を、悪神の神使に推すようなことを言ったから。被害が拡大しそうになって天威師が動いた……)

 納得したアマーリエはふと周囲に目を向け、とんでもない光景を見て愕然とした。

「――ディ、ディモス!」

 視界に映ったのは、自分の危機を察して来てくれた霊獣たち。黒炎の熱気に触れてしまったのだろうディモスの右前脚と右脇腹が、大きくえぐれている。傷口は腐食し、大量の血を流していた。

 ディモスは庇うように寄り添うラモスの補助を得てどうにか後退し、燻る煙の中を抜けて来たが、力尽きたように地面に崩れ落ちる。駆け寄って確認すると、骨が見えるほどの深手を負っている。

「ち、治療を!」

 うずくまるディモスの前にしゃがみ込み、手当をしようとするアマーリエに、フレイムが静かに言った。

「無理だ。高位神の神威で負った傷は同格以上の神の力でないと治せねえ」
「そんな」

 唇を震わせ、それでも放置はできないと、無駄を承知で治癒の霊威を放つ。と、金属を擦れさせるような哄笑が弾けた。

『どうシて逃げル。そんナに怖がらなイでよ、ぼクのレフぃー。みてミて、これがボクのイつもの姿ナのだヨ、ほらホらすてキだろおおォォぉ?』
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