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36.連れて行く②

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 横断幕の横にかけられたタペストリーには、家紋と思われる紋章が縫い込まれていた。写真の中にはアマーリエもいる。両親の横で、不安と緊張が入り混じった面持ちで前を見据えていた。ミリエーナの姿はない。

(これはもしかして……バカ母の家で神を勧請して拒絶された時の写真か)

 同じページにある写真には、サード邸とは違う邸の様子が写されていた。装飾品のところどころに、タペストリーと同じ家紋が刻まれている。

 それほど量は多くなく、数枚ほどしかなかったが、正面玄関と思わしき写真や、庭の写真もあった。
 アマーリエからすれば即座に破り捨てたい悪夢の記録だろうが、ミリエーナの部屋にあったものである以上、勝手に処分するわけにもいかないのだろう。

「――あ?」

 何とはなしに見ていたフレイムは、ある一枚を見た瞬間に眉を顰めた。

「何だこれ」

 アルバムからその写真を取り出し、至近距離でじっと見つめる。

(……うん、間違いない。何でがここにある?)

 そして、電流に撃たれたように目を見開いた。
 脳裏に稲妻の如く蘇る記憶。


『有色の神威をお持ちの高位神だったわよ』
『気は落ち着いた暗めの赤色で、黄土色か茶色も混じっていたわ』
『あの時はこの本に載っている勧請の方法を忠実に再現したわ』
『9年前に私が勧請して、不快にさせてしまった高位神よ』
『神様に叱られちゃった。私は間違いだらけだって。ミリエーナより優れているところなんか一つもない、正真正銘の出来損ないだって』


「ちょっと待て。まさか……じゃあ――ルファってのは……」

 夢の中の住人となっているアマーリエを振り返り、フレイムはたった今駆け巡った推測をもう一度反芻はんすうした。霊獣たちが耳をよそがせる。

『どうされました、フレイム様』
『何かあったのですか』
「あ、いや……」

 内心の動揺を隠し、フレイムは返事を濁した。

(落ち着け。まだそうと決まったわけじゃねえ。もしそうなら……もしなら、9年前は何で悪態を吐くだけで大人しく天に還ったんだ?)
「……なぁ、お前らも9年前の勧請の場にいたんだよな。当時のこととか降臨した神たちのことって、詳しく分かるか?」

 問いかけると、ラモスとディモスは顔を見合わせた。しばし考え込んだ後、しょんぼりと下を向く。

『――情けない話ですが、仔細をお伝えするのは難しいかと。確かに我らもあの場にいましたが、主の両親と不仲ですので……勧請の準備を始める時点で主から遠ざけられ、参加者の輪の外側から見ていることしかできませんでした』
『それなりに距離がありましたし、神々の前にはご主人様や両親、近親者がいたので……彼らが遮蔽しゃへいとなって細かい部分は見えませんでした。少年のお姿をした神がご主人様を拒むところは見えたのですが』

 万一にでも勧請の邪魔をされないようにと、強めの霊具を持ったダライに牽制されており、遠視でアマーリエの付近を見通すこともできなかったという。役に立てず申し訳ない、と項垂うなだれる二頭に、フレイムは明るく笑って頷いた。

「そうか。いや、良いんだ。そんなら仕方ねえよ。俺ももうちょっと考えてみるわ」
(やっぱ当事者のアマーリエに聞かないと駄目だな。辛い記憶を思い出させたくないが、ちゃんと確認しねえと。……だが、もし俺の予想が当たっていたなら――)

 立ち尽くしたまま、難しい顔になって胸中で唸る。

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