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88.フレイムとフルード①

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 内心でボヤきつつ、紅茶を一口飲んでから話を続ける。

「バカ家族は神官府の肉体労働で一生を終えさせる。バカ母は未だに属国の神官府に籍があるようだが、こっちに所有権を移させればいい。死んだ後のことは、本人たちの更生度合いで四大高位神が決める」

 ミリエーナに関しては、悪神に踊らされていただけという見方もできる。しかし彼女は、弁明の書簡で、『アマーリエが邪神をたぶらかし、焔神を騙して運命を入れ替えた。焔神の真の愛し子は自分の方である』という内容を書いてしまった。
 この書簡がしたためられた時点で、アマーリエは神格を得てフレイムの愛し子になっていた。つまり、ただの姉ではなく神を貶めてしまったのだ。十分すぎるほどに罰の対象となる。

「とはいえ、ただ放り出して反省しろ努力しろ更生しろってわめくだけなのもアレだからな。大サービスで手を打ってやろうと思ってる。そういうのが得意な神に協力してもらうんだ」
「調教神オーア様ですか」
「大当たり!」

 打てば響くように返したフルードに、フレイムはパチンと指を鳴らした。

「神官府で労働させながら、並行してオーアの厳しい指導を受けさせる。ビッシバシしごきまくって再教育してくれるぜ。そうすりゃ浄化の火が消える10年後までにはワンチャンあるだろ。ついでだし、バカ婚約者の分も頼んどいてやろうか?」
「ぜひお願いいたします。実は私も調教神様にシュードンの再教育を依頼しようと思っていたのです。調教神様の指導は壮絶の一言に尽きますから、当人には相当な罰になるでしょうし、扱きに扱かれている姿を見れば邪神様を始め悪神様方も少しは溜飲りゅういんを下げられるでしょう。彼らがそれでも変われなければ、そこまでです」
「じゃあ俺から頼んどくな。……ラモスとディモスはどう思う」

 大人しくやり取りを聞いていた聖獣たちは、口々に答えた。

『お考えの内容でよろしいかと思います』
『そこまでなさったのであれば、結果がどうなろうと主も納得されるでしょう』
(俺としては物足りねえけどなー)

 本当は、神の炎で焼いて人間用の地獄に墜としてやりたかった。もう少し甘い処分にするとしても、神の権限で人権を剥奪した上、昔は奴隷用に使われていたとされる地下の重労働場に放り込んで拷問に等しい苦役に従事させるくらいはやろうと思っていた。
 だがそれをせず、何やかやで手を回してやったのは、アマーリエの厚意とフレイムのなけなしの慈悲だ。

 霊威の強弱が物を言う世界に生まれ、否応無く政略結婚せざるを得なかった夫婦と、高い霊威だけを期待されていた娘。本当に自分を愛してくれる人はおらず、虚構の家族愛を塗り固めて一人ぼっちで生きて来た――そしてこれからもずっと惨めに孤独に生きていくであろう彼らへの、最後の情けだった。

(精々後悔してキツイ労働してボッッッコボコに矯正されて――根っこからやり直してみるんだな)

 サード家もシュードンも、ついでにネイーシャの実家の面々も。最後の最後に踏ん張って持ち直し、根本から生まれ変わることができれば。いつか天に上がった時、四大高位神はもう一度だけ慈悲を見せてくれるかもしれない。

「彼らが今後、アマーリエと会うことがないよう労働内容を調整させます」
「ん、そうだな。あー、これで概要が決まりそうだな」
「ええ。詳細はこれから固めていくとして……先が見えましたね。ちなみにテスオラ王国のミハロ・デーグは、神器の管理を怠り暴走させた罪により、属国で裁かれています。処分がどうなろうと、二度とアマーリエの前に現れることはないよう手を回してあります」

 デーグ家は今でこそ完全に落ちぶれ、しがない酒屋を経営している。だが、大昔は高名な神官を輩出した家系だったそうで、王国は騒ぎになっているようだ。

「ダライに関しては、神器暴走の解決を安請け合いした件でも詰められるでしょう」

 無関係な家族を巻き込み、勝手にサード家として解決を約束したのだから、当然である。フレイムが頷いて同意を示した。

「よし、ユフィーの件はひとまず今ので行こう。不完全燃焼ではあるがな」
「ご不満ですか?」
「もっとキツイ内容にしたかった。お前も知っての通り、俺が直接バカ家族に神罰を与えてやろうとしたことも何度かある。けど、そのたびにユフィーに止められちまった」

『私はもうあの人たちのことは踏ん切りが付いたから。フレイムがわざわざ手を下す必要なんかないわ。そんなことに労力と時間を使うくらいなら、私と一緒に少しでもたくさん過ごして欲しいのよ』
『天界の話を聞きたいし、私の話も聞いて欲しいし、食事したいし、遊びにも行きたいわ。して欲しいこともやりたいこともいっぱいあるの。フレイム、私をめいっぱい甘やかしてくれるのでしょう?』

 上目遣いでじっとこちらを見上げ、少しだけ眉を下げた極上の笑顔で言われれば、フレイムの完敗だった。
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