84 / 160
第1章
84.これからもっと幸せになる①
しおりを挟む
◆◆◆
「焔神様にご挨拶申し上げます」
応接室で立ったまま待っていたフルードは、まずフレイムに礼をした。繊細な雪がそっと舞い落ちるような、美しく優美な所作だ。
「おー。まぁ座れ座れ」
気さくな調子で頷いたフレイムが上座に腰掛け、アマーリエが隣に座る。この邸はアマーリエのものだが、最も位が高いのはフレイムだからだ。後ろにはラモスとディモスが控えた。壁に並んだ使用人たちが、テキパキと茶菓を配っていく。
「配膳を終えたら下がってちょうだい。――ようこそお越し下さいました」
使用人たちを退室させて人払いをし、客人用の席に座ったフルードに目礼すると、優しい瞳がふわりと細められる。
「こちらこそ慌ただしくてすみません。もう少しゆっくり来るべきでしたね」
着替えていないアマーリエの装いを見て申し訳なさそうに肩をすぼめるフルードに、急いで手を振る。
「いいえ、帰るなり話が弾んでしまっただけですので」
「そうですか。ところで、出迎えの使用人に何か不自由な点はないか確認したところ、収納霊具について聞かれましたよ。なるべく容量が大きくて、良いものはあるかと」
使用人たちが、さっそく情報収集を始めてくれたらしい。
(チャンスだわ)
「ええ、実は服飾品や宝飾品の保管場所で悩んでいるのです。何しろ、短期間で一気に数が増えたものですから。とても嬉しいのですが、貴族用の収納霊具を複数使っても追い付かないほどで」
さり気なくフレイムを見ながら言う。
(申し訳ないけれど、これ以上の贈り物は入らないら困るって、伝わったかしら?)
だが、フルードはいつも通り穏和に微笑みながら頷いた。
「ならば、保管専用の別棟を増築させましょう」
「……え? 別棟?」
「もしくは、特別な収納霊具を支給しましょうか。業務用でしたら、舞踏会の大ホール数十室分に相当する収納空間を内包していますから、少しは余裕ができるかと」
「ぎょ、業務用ですか……」
「あるいは、大規模な災害が起きた時などに使う特級霊具を用いる方法もあります。特級であれば、異次元の収納量を設定できます。例えば水でいえば、川や湖を満たせるほどの容量を収めることも可能でしょう」
「いえ、あの」
(そうではなくて……そもそも収納できても使い切れないのだし)
口を開こうとするアマーリエの脳裏に、フルードからの念話が反響した。
『寵を下さった神からの下賜品は、ありがたく受け取っておくのです。あなたとて、自分の大事な者に誕生日プレゼントを贈った時、置く場所がないから要らないと言われたら悲しいでしょう?』
『それは……ですが、余りに量が多すぎて。増えていくばかりで使い切れないのはもったいないです』
『聖威師は皆、同じような悩みを抱えていますが、各自で工夫して使い所を見出しています。私は狼神様の毛で作られたコートをドアマットにしました。アシュトン様は神玉で作られた壺をゴミ箱にしていましたし、当真様は孔雀神様の羽を集めて作った扇をハタキの代わりにしていました。恵奈様は、着用し切れないドレスをザクザク裁断し、雑巾にしていましたよ』
『聖威師って結構失礼ですね!?』
『どんな形であろうと、使うだけで神は喜んで下さるのです。自身が敬愛する神にお喜びいただくためならば、知恵を絞り試行錯誤するくらい容易いことです』
アマーリエはハッとした。神が愛し子を愛するように、聖威師の方も己に寵を与えてくれた神を慕っている。何としてでも喜んで欲しいと思うほどに。それはアマーリエも同じだ。
『贈り物をそのままの用途で使わなければならないという固定観念を捨てて下さい。極論を言えば、愛し子が笑顔で贈り物を受け取ってくれるだけで、神にとって最大の癒しになるのです』
そう告げたフルードは、今度は声に出して言葉を放った。
「今日は渡したいものがあります。あなたに必要だと思い、持って来ました」
「焔神様にご挨拶申し上げます」
応接室で立ったまま待っていたフルードは、まずフレイムに礼をした。繊細な雪がそっと舞い落ちるような、美しく優美な所作だ。
「おー。まぁ座れ座れ」
気さくな調子で頷いたフレイムが上座に腰掛け、アマーリエが隣に座る。この邸はアマーリエのものだが、最も位が高いのはフレイムだからだ。後ろにはラモスとディモスが控えた。壁に並んだ使用人たちが、テキパキと茶菓を配っていく。
「配膳を終えたら下がってちょうだい。――ようこそお越し下さいました」
使用人たちを退室させて人払いをし、客人用の席に座ったフルードに目礼すると、優しい瞳がふわりと細められる。
「こちらこそ慌ただしくてすみません。もう少しゆっくり来るべきでしたね」
着替えていないアマーリエの装いを見て申し訳なさそうに肩をすぼめるフルードに、急いで手を振る。
「いいえ、帰るなり話が弾んでしまっただけですので」
「そうですか。ところで、出迎えの使用人に何か不自由な点はないか確認したところ、収納霊具について聞かれましたよ。なるべく容量が大きくて、良いものはあるかと」
使用人たちが、さっそく情報収集を始めてくれたらしい。
(チャンスだわ)
「ええ、実は服飾品や宝飾品の保管場所で悩んでいるのです。何しろ、短期間で一気に数が増えたものですから。とても嬉しいのですが、貴族用の収納霊具を複数使っても追い付かないほどで」
さり気なくフレイムを見ながら言う。
(申し訳ないけれど、これ以上の贈り物は入らないら困るって、伝わったかしら?)
だが、フルードはいつも通り穏和に微笑みながら頷いた。
「ならば、保管専用の別棟を増築させましょう」
「……え? 別棟?」
「もしくは、特別な収納霊具を支給しましょうか。業務用でしたら、舞踏会の大ホール数十室分に相当する収納空間を内包していますから、少しは余裕ができるかと」
「ぎょ、業務用ですか……」
「あるいは、大規模な災害が起きた時などに使う特級霊具を用いる方法もあります。特級であれば、異次元の収納量を設定できます。例えば水でいえば、川や湖を満たせるほどの容量を収めることも可能でしょう」
「いえ、あの」
(そうではなくて……そもそも収納できても使い切れないのだし)
口を開こうとするアマーリエの脳裏に、フルードからの念話が反響した。
『寵を下さった神からの下賜品は、ありがたく受け取っておくのです。あなたとて、自分の大事な者に誕生日プレゼントを贈った時、置く場所がないから要らないと言われたら悲しいでしょう?』
『それは……ですが、余りに量が多すぎて。増えていくばかりで使い切れないのはもったいないです』
『聖威師は皆、同じような悩みを抱えていますが、各自で工夫して使い所を見出しています。私は狼神様の毛で作られたコートをドアマットにしました。アシュトン様は神玉で作られた壺をゴミ箱にしていましたし、当真様は孔雀神様の羽を集めて作った扇をハタキの代わりにしていました。恵奈様は、着用し切れないドレスをザクザク裁断し、雑巾にしていましたよ』
『聖威師って結構失礼ですね!?』
『どんな形であろうと、使うだけで神は喜んで下さるのです。自身が敬愛する神にお喜びいただくためならば、知恵を絞り試行錯誤するくらい容易いことです』
アマーリエはハッとした。神が愛し子を愛するように、聖威師の方も己に寵を与えてくれた神を慕っている。何としてでも喜んで欲しいと思うほどに。それはアマーリエも同じだ。
『贈り物をそのままの用途で使わなければならないという固定観念を捨てて下さい。極論を言えば、愛し子が笑顔で贈り物を受け取ってくれるだけで、神にとって最大の癒しになるのです』
そう告げたフルードは、今度は声に出して言葉を放った。
「今日は渡したいものがあります。あなたに必要だと思い、持って来ました」
28
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

黒豚辺境伯令息の婚約者
ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。
ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。
そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。
始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め…
ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。
誤字脱字お許しください。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない
猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました
2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました
※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です!
殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。
前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。
ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。
兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。
幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。
今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。
甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。
基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。
【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】
※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる