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第1章
84.これからもっと幸せになる①
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◆◆◆
「焔神様にご挨拶申し上げます」
応接室で立ったまま待っていたフルードは、まずフレイムに礼をした。繊細な雪がそっと舞い落ちるような、美しく優美な所作だ。
「おー。まぁ座れ座れ」
気さくな調子で頷いたフレイムが上座に腰掛け、アマーリエが隣に座る。この邸はアマーリエのものだが、最も位が高いのはフレイムだからだ。後ろにはラモスとディモスが控えた。壁に並んだ使用人たちが、テキパキと茶菓を配っていく。
「配膳を終えたら下がってちょうだい。――ようこそお越し下さいました」
使用人たちを退室させて人払いをし、客人用の席に座ったフルードに目礼すると、優しい瞳がふわりと細められる。
「こちらこそ慌ただしくてすみません。もう少しゆっくり来るべきでしたね」
着替えていないアマーリエの装いを見て申し訳なさそうに肩をすぼめるフルードに、急いで手を振る。
「いいえ、帰るなり話が弾んでしまっただけですので」
「そうですか。ところで、出迎えの使用人に何か不自由な点はないか確認したところ、収納霊具について聞かれましたよ。なるべく容量が大きくて、良いものはあるかと」
使用人たちが、さっそく情報収集を始めてくれたらしい。
(チャンスだわ)
「ええ、実は服飾品や宝飾品の保管場所で悩んでいるのです。何しろ、短期間で一気に数が増えたものですから。とても嬉しいのですが、貴族用の収納霊具を複数使っても追い付かないほどで」
さり気なくフレイムを見ながら言う。
(申し訳ないけれど、これ以上の贈り物は入らないら困るって、伝わったかしら?)
だが、フルードはいつも通り穏和に微笑みながら頷いた。
「ならば、保管専用の別棟を増築させましょう」
「……え? 別棟?」
「もしくは、特別な収納霊具を支給しましょうか。業務用でしたら、舞踏会の大ホール数十室分に相当する収納空間を内包していますから、少しは余裕ができるかと」
「ぎょ、業務用ですか……」
「あるいは、大規模な災害が起きた時などに使う特級霊具を用いる方法もあります。特級であれば、異次元の収納量を設定できます。例えば水でいえば、川や湖を満たせるほどの容量を収めることも可能でしょう」
「いえ、あの」
(そうではなくて……そもそも収納できても使い切れないのだし)
口を開こうとするアマーリエの脳裏に、フルードからの念話が反響した。
『寵を下さった神からの下賜品は、ありがたく受け取っておくのです。あなたとて、自分の大事な者に誕生日プレゼントを贈った時、置く場所がないから要らないと言われたら悲しいでしょう?』
『それは……ですが、余りに量が多すぎて。増えていくばかりで使い切れないのはもったいないです』
『聖威師は皆、同じような悩みを抱えていますが、各自で工夫して使い所を見出しています。私は狼神様の毛で作られたコートをドアマットにしました。アシュトン様は神玉で作られた壺をゴミ箱にしていましたし、当真様は孔雀神様の羽を集めて作った扇をハタキの代わりにしていました。恵奈様は、着用し切れないドレスをザクザク裁断し、雑巾にしていましたよ』
『聖威師って結構失礼ですね!?』
『どんな形であろうと、使うだけで神は喜んで下さるのです。自身が敬愛する神にお喜びいただくためならば、知恵を絞り試行錯誤するくらい容易いことです』
アマーリエはハッとした。神が愛し子を愛するように、聖威師の方も己に寵を与えてくれた神を慕っている。何としてでも喜んで欲しいと思うほどに。それはアマーリエも同じだ。
『贈り物をそのままの用途で使わなければならないという固定観念を捨てて下さい。極論を言えば、愛し子が笑顔で贈り物を受け取ってくれるだけで、神にとって最大の癒しになるのです』
そう告げたフルードは、今度は声に出して言葉を放った。
「今日は渡したいものがあります。あなたに必要だと思い、持って来ました」
「焔神様にご挨拶申し上げます」
応接室で立ったまま待っていたフルードは、まずフレイムに礼をした。繊細な雪がそっと舞い落ちるような、美しく優美な所作だ。
「おー。まぁ座れ座れ」
気さくな調子で頷いたフレイムが上座に腰掛け、アマーリエが隣に座る。この邸はアマーリエのものだが、最も位が高いのはフレイムだからだ。後ろにはラモスとディモスが控えた。壁に並んだ使用人たちが、テキパキと茶菓を配っていく。
「配膳を終えたら下がってちょうだい。――ようこそお越し下さいました」
使用人たちを退室させて人払いをし、客人用の席に座ったフルードに目礼すると、優しい瞳がふわりと細められる。
「こちらこそ慌ただしくてすみません。もう少しゆっくり来るべきでしたね」
着替えていないアマーリエの装いを見て申し訳なさそうに肩をすぼめるフルードに、急いで手を振る。
「いいえ、帰るなり話が弾んでしまっただけですので」
「そうですか。ところで、出迎えの使用人に何か不自由な点はないか確認したところ、収納霊具について聞かれましたよ。なるべく容量が大きくて、良いものはあるかと」
使用人たちが、さっそく情報収集を始めてくれたらしい。
(チャンスだわ)
「ええ、実は服飾品や宝飾品の保管場所で悩んでいるのです。何しろ、短期間で一気に数が増えたものですから。とても嬉しいのですが、貴族用の収納霊具を複数使っても追い付かないほどで」
さり気なくフレイムを見ながら言う。
(申し訳ないけれど、これ以上の贈り物は入らないら困るって、伝わったかしら?)
だが、フルードはいつも通り穏和に微笑みながら頷いた。
「ならば、保管専用の別棟を増築させましょう」
「……え? 別棟?」
「もしくは、特別な収納霊具を支給しましょうか。業務用でしたら、舞踏会の大ホール数十室分に相当する収納空間を内包していますから、少しは余裕ができるかと」
「ぎょ、業務用ですか……」
「あるいは、大規模な災害が起きた時などに使う特級霊具を用いる方法もあります。特級であれば、異次元の収納量を設定できます。例えば水でいえば、川や湖を満たせるほどの容量を収めることも可能でしょう」
「いえ、あの」
(そうではなくて……そもそも収納できても使い切れないのだし)
口を開こうとするアマーリエの脳裏に、フルードからの念話が反響した。
『寵を下さった神からの下賜品は、ありがたく受け取っておくのです。あなたとて、自分の大事な者に誕生日プレゼントを贈った時、置く場所がないから要らないと言われたら悲しいでしょう?』
『それは……ですが、余りに量が多すぎて。増えていくばかりで使い切れないのはもったいないです』
『聖威師は皆、同じような悩みを抱えていますが、各自で工夫して使い所を見出しています。私は狼神様の毛で作られたコートをドアマットにしました。アシュトン様は神玉で作られた壺をゴミ箱にしていましたし、当真様は孔雀神様の羽を集めて作った扇をハタキの代わりにしていました。恵奈様は、着用し切れないドレスをザクザク裁断し、雑巾にしていましたよ』
『聖威師って結構失礼ですね!?』
『どんな形であろうと、使うだけで神は喜んで下さるのです。自身が敬愛する神にお喜びいただくためならば、知恵を絞り試行錯誤するくらい容易いことです』
アマーリエはハッとした。神が愛し子を愛するように、聖威師の方も己に寵を与えてくれた神を慕っている。何としてでも喜んで欲しいと思うほどに。それはアマーリエも同じだ。
『贈り物をそのままの用途で使わなければならないという固定観念を捨てて下さい。極論を言えば、愛し子が笑顔で贈り物を受け取ってくれるだけで、神にとって最大の癒しになるのです』
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「今日は渡したいものがあります。あなたに必要だと思い、持って来ました」
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