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77.前を見て進め①

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『ぅえっ!?』

 思わず本心がまろび出てしまった台詞に、フレイムがる。

(あ、しまった)

 数瞬後、皇后が噴き出し、口元を押さえもせずに腹を抱えて笑い出した。

『……ふふ、あはははっ! あなた面白~い! 最高峰の神を手懐てなずけるつもりなんだ! 焔神ってほんとはものすごーく偉いし強いんだよ。火神に取って代われる権限と力があるんだもん。その焔神を……ぷぷっ』

 あっははは~と大口を開けて笑う皇后に、フルードが冷静に指摘した。

「皇后様、猫が取れております」
『――あっ、やっちゃった』
「あなたが公の場以外で皇后然としている方が無理があるのです」
『ふふ、やっぱり? 自分でもそう思う~』
「佳良様から色々と聞いておりますよ。寝所では寝ぼけて藍闇皇様をどつき倒し、運動がてら神器を振り回して朱月しゅげつ皇后様の宮を破壊し、皇宮の物陰にいた黇死皇様を不審者と勘違いして飛び蹴りしたそうですね」

 朱月皇后とは、紅日皇后の双子の姉にして黇死皇の后である。フルードの言葉に、紅日皇后がぎゃーっと頭を抱えた。

『いや~フルード君、言わないで! 思い出しちゃうから! この小鳥もさぁ、〝そなたはきっとボロを出すゆえ人前では話させるな〟って義兄様に言われてね、ずっと普通の鳥のフリしてピィピィ言わせてるだけだったの』
「そうですか。ちなみに、飛び蹴りの件では黇死皇様にかなり叱られたとお聞きしましたが?」

 途端に、紅日皇后はスンと表情を消した。

『うん……ひたすら笑顔でブチ切れる義兄様……死ぬほど怖かった……とってもとってもこわかった……』

 一方、アマーリエとフレイムたちも互いの話に夢中になっていた。

『おいユフィー、手綱って何だ、手綱って。お前、俺を馬か何かだと思ってねえか?』
「ち、違うのよ、初めて会った時に犬の姿だったでしょう? それが印象に残っていて、ちょっとリードを引っ張った方が御しやすいのかしら、と思って……」
『そうか、手綱を取るっつーより首輪を付けるってことだな!』

 ラモスとディモスが慌てた様子でフレイムに声をかけた。

『焔神様、負けてはなりません!』
『主導権を握られれば、サード家の面々の処分が甘くなってしまうやも!』
「ラ、ラモス? ディモス? あなたたちは私の味方よね!?」

 思わず聖獣たちに確認するアマーリエを見ながら、フレイムが軽く咳払いした。

『けど、まあ……お前に首輪を付けられるならそれも悪くないかもな、ユフィー』
「え……」

 視線を向けると、照れを宿した山吹色の双眸とかち合った。端整な容貌が僅かに赤くなっている。

『俺はお前を離さねえ。だから、お前も俺を離すな。首根っこ抑えてでも、側にいてくれればそれでいい』
「……うん、分かった。ずっと側にいるわ」

 甘い視線を絡め合うアマーリエとフレイムを、ラモスとディモスが感激の瞳で見つめている。フルードと会話しながら聞いていた皇后が呟いた。

『いいね、青春だ~。懐かしいわぁ。焔神はとっても世話焼きだし、料理もできるし、きっと良い旦那さんになるよ』
「確かに世話焼きで料理上手ではありますね」
『そうでしょ。あのね、焔神が出した生クリーム美味しかったのよ~。絶妙なコクと甘さが最っ高でね、思わずお代わり頼んじゃったくらい――って、そうじゃなくて』

 そして、軽く咳払いして天威師の威厳を纏った。

『コホン……焔神フレイム、眷属神アマーリエ』

 ハッと我に返ったアマーリエとフレイムが、即座に姿勢を正して向き直る。

『大変失礼いたしました。ユフィーが余りにも可愛かったもので』
「も、申し訳ありません……フレイムをずっと見ていたくて」

 惚気のろける二人に鷹揚な笑みを返し、皇后は言った。

『先ほども述べた通り、眷属神に対する権利は主神にあります。焔神は愛し子の意思を尊重しながら、サード家への対応を検討願えますでしょうか。大神官は外部の支援者として、アマーリエの相談に乗ってあげて』

 フレイムとフルードが了承の意を示して礼をする。

『そして――次代を担う聖威師よ』

 漆黒の双眸が、一直線にアマーリエに据えられた。
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