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第1章
74.皇帝と小鳥①
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淡い黄色味を帯びた白の燐光が無数に舞い踊り、一点に収束すると人の形を取る。フルードが僅かに安堵の表情を浮かべ、ラミルファが美しく会釈した。
『これは黇死皇』
燐光の中から出現したのは、少女のごとき容貌の皇帝だった。シュードンを黒炎から救ってくれた、あの皇帝だ。
「禍神の御子神及び火神の御子神にご挨拶申し上げます」
皇帝は優美な動作で外套をさばくと、胸に手を当てて深く礼をする。無駄という概念を一切削ぎ落とした、完璧な所作だった。
『天威師にお会いできましたことを嬉しく思います』
『あなた様方はいつでも常に美しい』
フレイムとラミルファが口を揃え、これまた非の打ち所がない礼を返した。
(あら?)
畏まったまま様子を窺っていたアマーリエは、皇帝の肩にあの小鳥がとまっていることに気が付いた。
(どうしてあの子が。佳良様の鳥ではなかったの?)
一つ頷いた皇帝が、フルードを一瞥した。
「帝国の大神官よ、星降の儀本祭では大儀であった。我が身は諸事により参加が叶わなかった。許せ」
「もったいなきお言葉でございます」
アマーリエの脳裏に、虹色の電撃に撃たれて正体を失くしていた皇帝の姿が蘇る。きっとこの皇帝も、ミリエーナが悪神に魅入られていることに気が付いた。そこで規則を破ってミリエーナに深入りし忠告まで下したため、天の至高神たちから注意を受け、強制的に気絶させられたのではないか。それで儀式に出られなかったのかもしれない。
「皇帝様……助けて皇帝様……俺をたすげでぐださああぁい……」
うわ言のように呟いているシュードンを、皇帝は無視した。
「若き神官よ」
最後に声をかけられたのはアマーリエだった。
「は――はい」
「ようこそ、神の領域へ。新たな聖威師の誕生を歓迎する」
そして、ラミルファに向き直ると再度頭を下げた。
「先日は私の浅慮により、御身の愛し子を奪いかねないことを口にいたしました。神の正当なる権利を侵害したこと、心よりお詫び申し上げます」
(ミリエーナに対して個別に忠告された件ね)
あの時、皇帝は明らかに、ミリエーナがこのまま邪神の寵を受けることを阻止しようとしていた。だが、ラミルファに不快感は見られない。
『お気になさらず。確かに際どいところではありましたが、あのお言葉のみであれば明確な違反にまでは達しておりませんでした。完全に一線を越えていれば、祖神様方はご警告止まりではなく、あなた様を天へと強制送還されていたはず』
あのままさらに一歩踏み込むか、遠回しな忠告を繰り返していればアウトになっただろうが、あの一度だけであれば辛うじてセーフと見なされたようだ。
「しかしながら、私の行為が御身の権利を揺るがしかねないものであったことは事実。後ほど自省し、悔やんでおりました」
皇帝の双眸が、申し訳なさそうに伏せられた。
「折しも現在、様々な事象が重なり御身のご機嫌はよろしからぬご様子。ゆえに、先日の非礼への詫びも込め、しばしお相手を仕りたく。こちらの不手際に対する謝意という理由あらば、今ここで動くことを祖神もお許し下さるでしょう」
『これは黇死皇』
燐光の中から出現したのは、少女のごとき容貌の皇帝だった。シュードンを黒炎から救ってくれた、あの皇帝だ。
「禍神の御子神及び火神の御子神にご挨拶申し上げます」
皇帝は優美な動作で外套をさばくと、胸に手を当てて深く礼をする。無駄という概念を一切削ぎ落とした、完璧な所作だった。
『天威師にお会いできましたことを嬉しく思います』
『あなた様方はいつでも常に美しい』
フレイムとラミルファが口を揃え、これまた非の打ち所がない礼を返した。
(あら?)
畏まったまま様子を窺っていたアマーリエは、皇帝の肩にあの小鳥がとまっていることに気が付いた。
(どうしてあの子が。佳良様の鳥ではなかったの?)
一つ頷いた皇帝が、フルードを一瞥した。
「帝国の大神官よ、星降の儀本祭では大儀であった。我が身は諸事により参加が叶わなかった。許せ」
「もったいなきお言葉でございます」
アマーリエの脳裏に、虹色の電撃に撃たれて正体を失くしていた皇帝の姿が蘇る。きっとこの皇帝も、ミリエーナが悪神に魅入られていることに気が付いた。そこで規則を破ってミリエーナに深入りし忠告まで下したため、天の至高神たちから注意を受け、強制的に気絶させられたのではないか。それで儀式に出られなかったのかもしれない。
「皇帝様……助けて皇帝様……俺をたすげでぐださああぁい……」
うわ言のように呟いているシュードンを、皇帝は無視した。
「若き神官よ」
最後に声をかけられたのはアマーリエだった。
「は――はい」
「ようこそ、神の領域へ。新たな聖威師の誕生を歓迎する」
そして、ラミルファに向き直ると再度頭を下げた。
「先日は私の浅慮により、御身の愛し子を奪いかねないことを口にいたしました。神の正当なる権利を侵害したこと、心よりお詫び申し上げます」
(ミリエーナに対して個別に忠告された件ね)
あの時、皇帝は明らかに、ミリエーナがこのまま邪神の寵を受けることを阻止しようとしていた。だが、ラミルファに不快感は見られない。
『お気になさらず。確かに際どいところではありましたが、あのお言葉のみであれば明確な違反にまでは達しておりませんでした。完全に一線を越えていれば、祖神様方はご警告止まりではなく、あなた様を天へと強制送還されていたはず』
あのままさらに一歩踏み込むか、遠回しな忠告を繰り返していればアウトになっただろうが、あの一度だけであれば辛うじてセーフと見なされたようだ。
「しかしながら、私の行為が御身の権利を揺るがしかねないものであったことは事実。後ほど自省し、悔やんでおりました」
皇帝の双眸が、申し訳なさそうに伏せられた。
「折しも現在、様々な事象が重なり御身のご機嫌はよろしからぬご様子。ゆえに、先日の非礼への詫びも込め、しばしお相手を仕りたく。こちらの不手際に対する謝意という理由あらば、今ここで動くことを祖神もお許し下さるでしょう」
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