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46.理解しても心は痛む①
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(ミリエーナ!)
アマーリエが様子を窺うと、蛆虫に全身を貪られたミリエーナは血みどろになり、涙と鼻水と唾液でグショグショの顔で放心していた。
正気を保っているのか心配になるが、悪神は生き餌をいたぶる際、発狂できないよう神威で術をかけるのだという。加えて、神格を得た以上、この程度の傷が致命傷になることもない。結果的に、彼女は心も体も壊れてはいないだろう――それが幸か不幸かはともかく。
「ありがとうございます」
さらに深く礼をするフルードに、ラミルファはウぅんと唸りながらしばらく考えていたが、やがて軽い音を立てて美しい少年の姿に戻った。
『うん、やっぱり人界では人間っぽい姿でいた方がいいだろう。ああ僕は親切だなぁ』
朗らかな笑みでうそぶき、目の前でひれ伏している大神官を見下ろす。
『君の懇願だから今回だけは応じたが、次はない。レフィーは僕の愛し子として天界に連れて行き、じっくり可愛がってあげよう。これは主神の正当な権利だ。邪魔立てはできない』
ふふふ、と愉快そうな嗤笑が響く。
『いつ天に連れて行こうかな。普通の神は愛し子の意思を尊重するんだろう。だが僕は悪神だ。今すぐに連れて行こうか。それとも期間を決めずにいて、その時が来るのを恐怖しながら地上で過ごすレフィーの可愛い様子を見守るのも愉しいな』
(悪趣味だわ……)
アマーリエは胸中で呻いた。独白に留めたつもりだったが、無意識に念話になっていたらしく、フレイムが律儀に返してくる。
『そりゃ悪神だからな、趣味も性格も悪いわな』
そこで、ラミルファがぐるりと首を巡らせた。
『ところで、レフィーの汚いお姉さん』
ミリエーナとディモスを案じ、交互に視線を送っていたアマーリエは、いきなりのことに肩を跳ねさせる。横でディモスに聖威を放ち、焼け石に水でもと治癒をしてくれていたフレイムがギッと眉をつり上げた。
「だーかーらー、アマーリエを腐すな!」
『僕にとっての真実を述べているまでだよ。……ずっと気になっているのだが。レフィーも、君も、君の両親も、本当に僕の正体を分かっていなかったのだな』
「……え……?」
アマーリエは大量の疑問符を浮かべた。急に何を当たり前のことを言い出すのか。彼がまさか悪神だと思わなかったからこそ、ミリエーナは愛し子の誓約を受けたし、自分たちは彼が運命神だと信じてしまった。
それ以前にラミルファ自身が、アマーリエたちが自分の正体を分かっていないという前提で、美しい姿で現れたり、嘘の神に自分はルファリオンだと言わせたりして遊んでいたはずだ。
なのに何故、答えが分かり切ったことを今更確認してくるのか。
「……は、はい。9年前は悪神様をお喚びする予定ではなかったのです。まさかサッカの葉が変異してリサッカになっていたとは思いもしませんでした。私の気でご不快な思いをさせてしまいましたことをお詫び申し、むぐっ」
だが、謝罪の途中でフレイムに口をふさがれた。
「お前は何も悪くない、ただ自然体にしていただけだ! 落ち度のない奴が謝るな! それでこいつが怒るなら俺が言い返してやる!」
(で、でも……)
そうだとしても、相手は高位神。こちらがへりくだるべきではないかと目を向けると、ラミルファは特に気にした様子もなく顎に手を当てていた。
『……うーん。予想が当たったのかな。あのさ。君たちはあの後、僕の言ったことを実行しなかったのか?』
「はい?」
アマーリエが様子を窺うと、蛆虫に全身を貪られたミリエーナは血みどろになり、涙と鼻水と唾液でグショグショの顔で放心していた。
正気を保っているのか心配になるが、悪神は生き餌をいたぶる際、発狂できないよう神威で術をかけるのだという。加えて、神格を得た以上、この程度の傷が致命傷になることもない。結果的に、彼女は心も体も壊れてはいないだろう――それが幸か不幸かはともかく。
「ありがとうございます」
さらに深く礼をするフルードに、ラミルファはウぅんと唸りながらしばらく考えていたが、やがて軽い音を立てて美しい少年の姿に戻った。
『うん、やっぱり人界では人間っぽい姿でいた方がいいだろう。ああ僕は親切だなぁ』
朗らかな笑みでうそぶき、目の前でひれ伏している大神官を見下ろす。
『君の懇願だから今回だけは応じたが、次はない。レフィーは僕の愛し子として天界に連れて行き、じっくり可愛がってあげよう。これは主神の正当な権利だ。邪魔立てはできない』
ふふふ、と愉快そうな嗤笑が響く。
『いつ天に連れて行こうかな。普通の神は愛し子の意思を尊重するんだろう。だが僕は悪神だ。今すぐに連れて行こうか。それとも期間を決めずにいて、その時が来るのを恐怖しながら地上で過ごすレフィーの可愛い様子を見守るのも愉しいな』
(悪趣味だわ……)
アマーリエは胸中で呻いた。独白に留めたつもりだったが、無意識に念話になっていたらしく、フレイムが律儀に返してくる。
『そりゃ悪神だからな、趣味も性格も悪いわな』
そこで、ラミルファがぐるりと首を巡らせた。
『ところで、レフィーの汚いお姉さん』
ミリエーナとディモスを案じ、交互に視線を送っていたアマーリエは、いきなりのことに肩を跳ねさせる。横でディモスに聖威を放ち、焼け石に水でもと治癒をしてくれていたフレイムがギッと眉をつり上げた。
「だーかーらー、アマーリエを腐すな!」
『僕にとっての真実を述べているまでだよ。……ずっと気になっているのだが。レフィーも、君も、君の両親も、本当に僕の正体を分かっていなかったのだな』
「……え……?」
アマーリエは大量の疑問符を浮かべた。急に何を当たり前のことを言い出すのか。彼がまさか悪神だと思わなかったからこそ、ミリエーナは愛し子の誓約を受けたし、自分たちは彼が運命神だと信じてしまった。
それ以前にラミルファ自身が、アマーリエたちが自分の正体を分かっていないという前提で、美しい姿で現れたり、嘘の神に自分はルファリオンだと言わせたりして遊んでいたはずだ。
なのに何故、答えが分かり切ったことを今更確認してくるのか。
「……は、はい。9年前は悪神様をお喚びする予定ではなかったのです。まさかサッカの葉が変異してリサッカになっていたとは思いもしませんでした。私の気でご不快な思いをさせてしまいましたことをお詫び申し、むぐっ」
だが、謝罪の途中でフレイムに口をふさがれた。
「お前は何も悪くない、ただ自然体にしていただけだ! 落ち度のない奴が謝るな! それでこいつが怒るなら俺が言い返してやる!」
(で、でも……)
そうだとしても、相手は高位神。こちらがへりくだるべきではないかと目を向けると、ラミルファは特に気にした様子もなく顎に手を当てていた。
『……うーん。予想が当たったのかな。あのさ。君たちはあの後、僕の言ったことを実行しなかったのか?』
「はい?」
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