神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第1章

40.9年前の真相

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禍神かしん!?」

 禍神。四大高位神に匹敵する神格を持つ、悪神たちの長だ。影の最高神とも称される。ただし、表舞台に出ることは多くない。至高神を除けば、四大高位神を制止できる唯一の神が禍神である。その御子ということは――

(ルファ様は火神様の御子のフレイムと同格ということ?)

 呆気に取られるアマーリエと少年神を交互に見遣り、フレイムが頷いた。

「ああ。ラミルファはたまにだが、ルファという愛称で呼ばれることがある。つっても、ルファリオンの呼び名とかぶるから、滅多にねえんだけどな」

 そして、アマーリエだけに聞こえるよう念話で語りかけて来る。

『俺以外の使役がこの場にいないのも納得だ。昨日の主祭で悪神の聖威師が誕生した。それを見た神々が、これは面倒なことが起きそうだと思って、一時的に自分の使役を退かせたんだよ』
『フレイムは火神様から帰れと連絡されなかったの?』
『俺はいざとなれば、神に戻ってラミルファと対等にやり合えるからな。心配ないと思われてるんだろう。今のところ、四大高位神の中で使役を下ろしてるのは母神だけっぽいから、結果的にこの場にいるのも俺だけだ』

 そう告げたフレイムは、今度は声に出して、「ピースが繋がったな」と呟いた。

「悪神は汚穢おわいに満ちた醜悪なものを好む。だから、善悪や美醜の価値観っつーか判断基準が、一般的な神とは真逆なんだ。濁った気を持つ者を美しいと愛で、澄んだ気を持つ者を醜いと蔑む」

 そして、一呼吸置いて続ける。

「サッカの葉。9年前、お前は属国で親族との会合に参加して、催しの一環で神を勧請した。そして、降臨した神々……今ここにいるこいつらに、醜いおぞましい気だと罵られて拒絶されたんだったな。その勧請の時、補助具としてサッカを使ったろ」

 説明口調なのは、9年前のことを知らない聖威師や神官たちにも概要が分かるようにするためだろう。
 当のアマーリエは、フレイムはいきなり何を言い出すのかと疑問符を飛ばしながらも答えた。

「え……ええ。サッカは使用したわ。勧請の手順書に書いてあったし、神官府でもそう習ったもの」
「その葉は、バカ母の生家の庭に植えてあったものを使ったんじゃねえか? お前の部屋にあったアルバムを見たが、庭を写した写真にそれらしきものがあった」
「そうだけれど……」
「本当にサッカなのか、神官府の担当者に確認しなかったんだろうな」
「……どういう意味? 葉の表面に、サッカ特有の白い波模様があったから間違いないはずよ」

 当時の忌まわしい記憶を掘り起こしながら返すと、フレイムは肩を竦めた。

「違うな。あれはだ」

 一瞬、場が静まり返った。アマーリエが凍り付き、神官たちに動揺が広がった。

「リサッカ? サッカの後天的な変異種よね」
「悪神が好むという……」
「けど、滅多に誕生しないんだろう。サッカにいくつも特殊な条件が加わらないと変異しないから」
「現存するものはほとんど神官府が管理してるはずよ」


 ――サッカを使って勧請すれば神が降りる。だが、リサッカを使えば悪神が降りる。注意しろ


 古代より地上に伝わる伝承だ。少年神と従神たちは、クスクスと口角を上げている。アシュトンが静かに口を開いた。

「低い可能性であってもゼロではない。時には条件が揃うこともあるだろう。だが、サッカとリサッカを見分けるのは、高位の神官でなければ難しい。属国の領地でサッカを植えているところは、定期的に帝国の神官府にサンプルを送り、変異していないか確認を受けることになっているはずだ」

 変異は数年かけて少しずつ促進するもので、複数の前兆がある。一定期間ごとに確認を受けていれば、兆候が見えた時点で手を打てるはずだった。
 オーネリアが鋭い視線で捕捉した。

「けれど、どうせ変異などしないだろうとたかをくくり、面倒だからと全てのサンプルを提出しないところもあるのです。例えば、四か所に植えているのに二か所のサンプルしか出さない、広大な範囲に植えていても一部の場所のサンプルしか出さない、など」

 アマーリエは小さく息を呑んだ。

「生家の邸にあったサッカは、領内の山に広く自生しているものを一部移植したと聞いております。まさか……」

 フレイムが頷く。

「ちょうどその一角が変異していたんだろう。しかも、サンプルとしてまんべんなく全域のサッカを送らず、横着してたんじゃねえか。だから変異が見逃された。変異してるって言っても見た目はそっくりだからな、専任者じゃないと見分けにくいんだ」
(嘘でしょう!?)

 だが、思い返してみれば母の実家はあらゆることに関して無頓着だった。法規にルーズであるばかりか、約束の刻限や納期にも遅れ、資金管理なども適当であった。
 予算も家計状況も気にしないネイーシャとミリエーナの浪費癖は、きっと実家の血筋だろうと強く思ったものだ。

 アマーリエは急いで視線を動かし、ネイーシャを探した。すぐに見つかった彼女は、蒼白な顔で立ち尽くしていた。隣に立つダライも、血の気が失せた面持ちで呆然としている。

「俺が今朝聞こうとしていたのはこのことだ。――アマーリエ、お前が9年前に勧請したのは悪神だったんだよ。まさかリサッカを使っていたとは思わなかったからな……そもそも降臨したのが真っ当な神じゃなかったっていう発想が出なくて、今まで気付けなかった。ごめんな」

 そして、繋いでいたアマーリエの手をそっと解き、少しかがみ込む体勢になって視線を合わせて来た。

「何度も何度も言って来たが、お前の気は、心は美しい。とても綺麗だ。贔屓も欲目も無しで、俺にはそう見える」
「……で、でも……」
「いいから聞け。お前のことを、悪神の中では最高位に近いラミルファが汚いと叫んで全力で避け、嘘しか言わねえ偽言の神が迷わず間違いだと断じた。それも逆説的に答えになってるんだ。もう分かるだろう。自分がどれだけ真っ直ぐな魂と正しい知見を持っているのか。悪神が強く疎み否定する奴は、それほど純真で綺麗だってことなんだ」
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