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第1章
21.フレイムと小鳥
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「あ……ごめんなさい、せっかく来てもらったのに」
急いで小鳥に謝る。忘れていたわけではないのだが、夕食の件をごまかすことに意識を割いてしまっていた。
「ここが私の部屋よ。今夜はゆっくりしていって」
「ピィ……」
生返事をする小鳥は、クリームたっぷりのココアを凝視していた。どうしたのだろうかと思いつつ、再度フレイムの方に目を向ける。
「フレイム、この鳥は皇国の聖威師が連れている鳥よ。神官府で霊具が爆発した時も助けてくれたの。何故かは分からないけれど、うちの邸に来てしまったみたいで……明日、神官府に連れていくつもり」
「あ……ああ……」
心ここにあらずと言った様子で、フレイムが頷く。小鳥は相変わらずココアを見つめていた。
「もしかして、欲しいの? 私はカフェオレをいただくから、あなたはココアを飲む?」
「ピーキュ!」
威勢の良い返事が来た。
「良かったらクッキーもどうぞ。ジャム入りの甘いものよ」
「ピッピィィ~!」
小鳥は何故か喜びのダンスを踊り始めた。
「フレイムは紅茶をどうかしら。この前サンプルでもらった、少し良い茶葉があるの。お湯はあるから、良ければ飲まない?」
部屋には、古びた保温霊具が取り付けられたポットがある。フレイムは以前、辛いものの方が好みだと呟いていたから、甘いカフェオレを分け合うよりもストレートの濃い紅茶の方がいいだろう。
「カツサンドにも合うわよ」
重ねて言うと、ようやく気を取り直したらしいフレイムが頭をかいた。
「分かった分かった。それよりお前、食べる前に着替えて来いよ。エプロン着けたままじゃねえか」
「え? あ……」
(そうだわ、床掃除と皿洗いがあるから、倉庫に行く時に着たんだった)
ダライたちに見つからないように急いで食堂を出たため、そのままの格好で部屋に帰ってしまった。いつもならば、皿洗いと片付けの後、更衣室で身なりを整えてから戻っている。
(更衣室に……いいえ、今日はもう部屋を出たくないわ)
「続き部屋で着替えて来るから、先に食べていて」
「ピュイー!」
元気良く返事をした小鳥が、さっそくココアに突撃する。それを視界の端に収めながら、部屋着を取ったアマーリエは、そそくさと続き部屋の扉へ向かった。
◆◆◆
パタンと軽い音を立てて扉が閉まる。アマーリエの姿が消えると、フレイムは即座に口調を変えた。
『おいでとは存じませず、失礼いたしました』
すぐ隣の部屋にいるアマーリエには聞こえないよう、人間の耳では認識できない音を用いて話す。
「ピュイ」
クリームに顔を突っ込んでいる小鳥がフレイムを見た。そして、短く鳴く。
『なにぶん今は神格を抑えております身。常のように察することが叶いませんでした』
「もぐもぐ……ピィ、はむはむ、キュピ~」
『気にしておらぬと――寛大なご配慮に感謝申し上げます』
恐ろしい勢いでクリームを食べ終わった小鳥が、顔を上げた。凛とした眼差しでフレイムを見据える。顔中を真っ白にしているにも関わらず、その姿には不可侵の神々しさがあった。小さな嘴が開く。
『一ついいですか?』
『はい』
突如として話し始めた小鳥に、しかし、フレイムは些かの動揺も見せずに即応した。山吹色の瞳と漆黒の双眸が絡み合う。
『如何なさいましたか?』
礼儀正しく問いかけるフレイムに、小鳥は言った。
『クリーム増し増し、お代わりで』
急いで小鳥に謝る。忘れていたわけではないのだが、夕食の件をごまかすことに意識を割いてしまっていた。
「ここが私の部屋よ。今夜はゆっくりしていって」
「ピィ……」
生返事をする小鳥は、クリームたっぷりのココアを凝視していた。どうしたのだろうかと思いつつ、再度フレイムの方に目を向ける。
「フレイム、この鳥は皇国の聖威師が連れている鳥よ。神官府で霊具が爆発した時も助けてくれたの。何故かは分からないけれど、うちの邸に来てしまったみたいで……明日、神官府に連れていくつもり」
「あ……ああ……」
心ここにあらずと言った様子で、フレイムが頷く。小鳥は相変わらずココアを見つめていた。
「もしかして、欲しいの? 私はカフェオレをいただくから、あなたはココアを飲む?」
「ピーキュ!」
威勢の良い返事が来た。
「良かったらクッキーもどうぞ。ジャム入りの甘いものよ」
「ピッピィィ~!」
小鳥は何故か喜びのダンスを踊り始めた。
「フレイムは紅茶をどうかしら。この前サンプルでもらった、少し良い茶葉があるの。お湯はあるから、良ければ飲まない?」
部屋には、古びた保温霊具が取り付けられたポットがある。フレイムは以前、辛いものの方が好みだと呟いていたから、甘いカフェオレを分け合うよりもストレートの濃い紅茶の方がいいだろう。
「カツサンドにも合うわよ」
重ねて言うと、ようやく気を取り直したらしいフレイムが頭をかいた。
「分かった分かった。それよりお前、食べる前に着替えて来いよ。エプロン着けたままじゃねえか」
「え? あ……」
(そうだわ、床掃除と皿洗いがあるから、倉庫に行く時に着たんだった)
ダライたちに見つからないように急いで食堂を出たため、そのままの格好で部屋に帰ってしまった。いつもならば、皿洗いと片付けの後、更衣室で身なりを整えてから戻っている。
(更衣室に……いいえ、今日はもう部屋を出たくないわ)
「続き部屋で着替えて来るから、先に食べていて」
「ピュイー!」
元気良く返事をした小鳥が、さっそくココアに突撃する。それを視界の端に収めながら、部屋着を取ったアマーリエは、そそくさと続き部屋の扉へ向かった。
◆◆◆
パタンと軽い音を立てて扉が閉まる。アマーリエの姿が消えると、フレイムは即座に口調を変えた。
『おいでとは存じませず、失礼いたしました』
すぐ隣の部屋にいるアマーリエには聞こえないよう、人間の耳では認識できない音を用いて話す。
「ピュイ」
クリームに顔を突っ込んでいる小鳥がフレイムを見た。そして、短く鳴く。
『なにぶん今は神格を抑えております身。常のように察することが叶いませんでした』
「もぐもぐ……ピィ、はむはむ、キュピ~」
『気にしておらぬと――寛大なご配慮に感謝申し上げます』
恐ろしい勢いでクリームを食べ終わった小鳥が、顔を上げた。凛とした眼差しでフレイムを見据える。顔中を真っ白にしているにも関わらず、その姿には不可侵の神々しさがあった。小さな嘴が開く。
『一ついいですか?』
『はい』
突如として話し始めた小鳥に、しかし、フレイムは些かの動揺も見せずに即応した。山吹色の瞳と漆黒の双眸が絡み合う。
『如何なさいましたか?』
礼儀正しく問いかけるフレイムに、小鳥は言った。
『クリーム増し増し、お代わりで』
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