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第1章
20.フレイムとティータイム
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◆◆◆
「ふぅ……ただいま」
バケツと雑巾を倉庫に戻したアマーリエは、自室の扉を開けた。無事に戻れた安堵で声が弾む。
「お? 今夜は早いじゃねーか。バカ共にバカな雑用を押し付けられなかったんだな」
ソファにいたフレイムが振り返る。深みのある赤い髪がさらりと揺れた。
「ラモスとディモスは運動するって出てったぜ。じきに帰って来るだろ」
「そう……」
包み込むように笑いかけて来る姿を見た途端に緊張が解け、キュゥと腹の虫が鳴いてしまった。赤みを帯びた山吹の眼が細まる。
「――お前、飯を食べて来たところだろ。何で腹が鳴ってるんだ」
(しまった……)
内心で頭を抱えながら、アマーリエは言い訳を考える。
「き、きっと夕食を消化しているのよ」
だが、それを否定するように、またキュルルルと音が鳴る。
「空腹の音に聞こえるんだが」
真っ直ぐに視線を合わせて言われ、ごまかせないと悟った。
「その……今夜はあまり食べられなかったの。うちはお金がないから、食費も節約しているし」
元から少量の食事すら抜かれたと話せば、焔神の怒りに文字通り火がつくため、どうにか理由を考える。
「節約だぁ? お前の家族は良いモン食ってんじゃねーか。お前に作らせてるんだろ。なのに肝心のお前は食べられないのかよ」
咄嗟に反論できず、アマーリエは目をさ迷わせた。フレイムの機嫌が急降下していく様に焦りながらも、喜びを感じる自分がいる。
(駄目よ、私。無能の癖に、身のほど知らずなことを考えては駄目。……フレイムが私のために怒ってくれて嬉しいなんて)
懸命に自制しつつ、ひとまずフレイムを宥めるためにも話題を逸らすことにした。
「大丈夫よ、食事なら神官府の食堂でテイクアウトして来たから。ほら、前にフレイムが気に入っていたサンドウィッチもあるのよ。一緒に食べない?」
ラモスとディモスの干し肉は別に調達してある。ビュッフェではスモークジャーキーなどの肉料理も販売されているのだ。共に食べられれば良かったが、あの二匹は運動に出ると戻りが遅いので仕方ない。
「サンドウィッチ……ああ、あのカツサンドか」
目を瞬かせたフレイムが乗って来た。
「そう。あと、タマゴサンドと野菜サンド、ハムチーズサンドも。一口サンドウィッチの詰め合わせだから、他にも色々入っているわよ」
話の切り替えに成功したアマーリエは、いそいそと部屋の奥に行き、デスクの引き出しに隠しておいた包みをいくつか取り出した。
サンドウィッチの包みにはシール型の保冷霊具が貼付されており、常温の部屋に置いていても具材が傷まないようになっている。
「後はクッキーと、それから飲み物もあるの。カフェオレとココアよ」
飲み物の容器に貼られているのは、保温の霊具だ。容器の蓋を開ければ、淹れたてのごとく湯気が立ち上る。
「砂糖をもっと取ってくれば良かった。今日は何だか甘いものが恋しいわ」
砂糖はカフェオレ用に一つ取っただけだ。少し悔やんでいると、フレイムが笑った。
「俺の力でうんと甘くしてやるよ。クリームも入れてやろうか」
「ええ、そんなこともできるの?」
「チョロいもんだぜ」
ピッと人差し指を立てたフレイムが、くるくると指先を動かす。すると、カフェオレの上に生クリームが出現し、渦を巻いて盛り上がった。
「きゃあ、すごい!」
目を輝かせるアマーリエに気を良くしたか、次はココアにも高々と盛り付ける。
「喜べ、特別にクリーム増し増しに――」
得意げに言いかけた言葉が途切れ、山吹色の双眸が見開かれた。
「フレイム?」
彼の視線の先を追って首を巡らせたアマーリエは、あら、と瞬きした。
桃色の小鳥が、アマーリエの背後から顔を覗かせていた。
「ふぅ……ただいま」
バケツと雑巾を倉庫に戻したアマーリエは、自室の扉を開けた。無事に戻れた安堵で声が弾む。
「お? 今夜は早いじゃねーか。バカ共にバカな雑用を押し付けられなかったんだな」
ソファにいたフレイムが振り返る。深みのある赤い髪がさらりと揺れた。
「ラモスとディモスは運動するって出てったぜ。じきに帰って来るだろ」
「そう……」
包み込むように笑いかけて来る姿を見た途端に緊張が解け、キュゥと腹の虫が鳴いてしまった。赤みを帯びた山吹の眼が細まる。
「――お前、飯を食べて来たところだろ。何で腹が鳴ってるんだ」
(しまった……)
内心で頭を抱えながら、アマーリエは言い訳を考える。
「き、きっと夕食を消化しているのよ」
だが、それを否定するように、またキュルルルと音が鳴る。
「空腹の音に聞こえるんだが」
真っ直ぐに視線を合わせて言われ、ごまかせないと悟った。
「その……今夜はあまり食べられなかったの。うちはお金がないから、食費も節約しているし」
元から少量の食事すら抜かれたと話せば、焔神の怒りに文字通り火がつくため、どうにか理由を考える。
「節約だぁ? お前の家族は良いモン食ってんじゃねーか。お前に作らせてるんだろ。なのに肝心のお前は食べられないのかよ」
咄嗟に反論できず、アマーリエは目をさ迷わせた。フレイムの機嫌が急降下していく様に焦りながらも、喜びを感じる自分がいる。
(駄目よ、私。無能の癖に、身のほど知らずなことを考えては駄目。……フレイムが私のために怒ってくれて嬉しいなんて)
懸命に自制しつつ、ひとまずフレイムを宥めるためにも話題を逸らすことにした。
「大丈夫よ、食事なら神官府の食堂でテイクアウトして来たから。ほら、前にフレイムが気に入っていたサンドウィッチもあるのよ。一緒に食べない?」
ラモスとディモスの干し肉は別に調達してある。ビュッフェではスモークジャーキーなどの肉料理も販売されているのだ。共に食べられれば良かったが、あの二匹は運動に出ると戻りが遅いので仕方ない。
「サンドウィッチ……ああ、あのカツサンドか」
目を瞬かせたフレイムが乗って来た。
「そう。あと、タマゴサンドと野菜サンド、ハムチーズサンドも。一口サンドウィッチの詰め合わせだから、他にも色々入っているわよ」
話の切り替えに成功したアマーリエは、いそいそと部屋の奥に行き、デスクの引き出しに隠しておいた包みをいくつか取り出した。
サンドウィッチの包みにはシール型の保冷霊具が貼付されており、常温の部屋に置いていても具材が傷まないようになっている。
「後はクッキーと、それから飲み物もあるの。カフェオレとココアよ」
飲み物の容器に貼られているのは、保温の霊具だ。容器の蓋を開ければ、淹れたてのごとく湯気が立ち上る。
「砂糖をもっと取ってくれば良かった。今日は何だか甘いものが恋しいわ」
砂糖はカフェオレ用に一つ取っただけだ。少し悔やんでいると、フレイムが笑った。
「俺の力でうんと甘くしてやるよ。クリームも入れてやろうか」
「ええ、そんなこともできるの?」
「チョロいもんだぜ」
ピッと人差し指を立てたフレイムが、くるくると指先を動かす。すると、カフェオレの上に生クリームが出現し、渦を巻いて盛り上がった。
「きゃあ、すごい!」
目を輝かせるアマーリエに気を良くしたか、次はココアにも高々と盛り付ける。
「喜べ、特別にクリーム増し増しに――」
得意げに言いかけた言葉が途切れ、山吹色の双眸が見開かれた。
「フレイム?」
彼の視線の先を追って首を巡らせたアマーリエは、あら、と瞬きした。
桃色の小鳥が、アマーリエの背後から顔を覗かせていた。
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