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第1章
3.帝国ミレニアム
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◆◆◆
ここは三千年の歴史を誇るミレニアム帝国。世界の西を制する大国で、都にそびえる堅牢な帝城内には金髪碧眼の官吏たちが行き交っている。
白に近い淡翠色の神官衣に着替えたアマーリエが帝城の一角にある神官府に出仕すると、今日も今日とて空気がピリついていた。
《はぁー、今日も絶好調だな。摩擦でよく燃えそうなくらいビリビリだぜ》
《燃えたら困るけれどね。火事じゃない。……でも、本当に空気がギスギスしているわ》
一か月前に下された『神託』により、皆が浮き足立っている。神官たちは一様に顔を強張らせており、すれ違うたびに伝わって来る緊張感は肌を刺すようだ。
(心臓に悪いわ。人が少ないところで時間を潰そうかしら)
《おい、どこに行くんだよ。神官の勤務室はそっちじゃないだろ》
《その……少し気分転換よ。今日は手が空いているし、下っ端神官の私に急用なんて出ないもの。何かあれば念話が来るでしょう》
《おぉ、つまりサボりか! やるなお前!》
《人聞きの悪いことを言わないで。……これは気分転換なのよ》
自分と『声』に言い訳し、神官たちが日常的に使う区画から遠ざかる。一転してシンとした廊下を歩いていると、先にある部屋から声が聞こえてきた。
「――この世界では、神の声を聴き様々な奇跡を起こす力を持つ者が生まれます。その力は『霊威』と呼ばれ、霊威を持つ者は『霊威師』と称されます」
(あの部屋は確か教導室よね。授業をしているのかしら?)
張りのある女性の声は、外の廊下まで響いていた。瞬きしたアマーリエはこっそりと部屋に近付いていく。それに従い、聞こえて来る声も大きさを増した。
「霊威は世界の森羅万象に宿っており、全ての動植物が多少なりとも有している力です。しかし、神と交信し奇跡を起こせるほどの強さを持つ者は限られます」
かつて自分も教わったことのある内容だ。無意識に続きを頭の中で諳んじる。
(神と対話できるレベルの力を持つ者は、興奮すると瞳が光る。それは『徴』と呼ばれる。徴を発現した者だけが霊威師と称することを許され、霊威を持つ者と認識される)
徴を発現した者は神官として登録され、多くの特権と尊崇を得る。そして、強力な霊威を以って神の言葉を聞き託宣を下ろし、超自然的な奇跡をも起こす。例えば、火や水、風を召喚する、超人的な頭脳や身体能力を発揮する、治癒、念話、遠視、転移の力を駆使する、など様々だ。
(どれどれ?)
窓越しにそっと教導室を覗くと、並べられた机の前に金髪碧眼の少年少女たちが座っている。まだ10歳に満たない年の子どもたちだ。徴は貴族を中心とした家系の者に、一桁の年齢で顕れることが多い。ゆえに、貴族の血を引く子どもは幼少期から専門の教育を受ける。
(ああ、かわいい! 未来の神官候補だわ! この子たちの何人が力に覚醒するのかしらねぇ)
ワクワクと部屋の中に見入っていると、教壇に立っていた黒髪の女性がこちらを向いた。切れ長の瞳を持つ美女だ。
(み、見付かっちゃった!)
アマーリエは青い瞳をおろおろとさ迷わせ、愛想笑いと共に軽く会釈をする。そして素早く身を翻し、さささとその場から逃げ去った。
《やーいおっちょこちょい、見付かってやんのー!》
げらげらと笑う『声』には、後で報復すると誓いながら。
ここは三千年の歴史を誇るミレニアム帝国。世界の西を制する大国で、都にそびえる堅牢な帝城内には金髪碧眼の官吏たちが行き交っている。
白に近い淡翠色の神官衣に着替えたアマーリエが帝城の一角にある神官府に出仕すると、今日も今日とて空気がピリついていた。
《はぁー、今日も絶好調だな。摩擦でよく燃えそうなくらいビリビリだぜ》
《燃えたら困るけれどね。火事じゃない。……でも、本当に空気がギスギスしているわ》
一か月前に下された『神託』により、皆が浮き足立っている。神官たちは一様に顔を強張らせており、すれ違うたびに伝わって来る緊張感は肌を刺すようだ。
(心臓に悪いわ。人が少ないところで時間を潰そうかしら)
《おい、どこに行くんだよ。神官の勤務室はそっちじゃないだろ》
《その……少し気分転換よ。今日は手が空いているし、下っ端神官の私に急用なんて出ないもの。何かあれば念話が来るでしょう》
《おぉ、つまりサボりか! やるなお前!》
《人聞きの悪いことを言わないで。……これは気分転換なのよ》
自分と『声』に言い訳し、神官たちが日常的に使う区画から遠ざかる。一転してシンとした廊下を歩いていると、先にある部屋から声が聞こえてきた。
「――この世界では、神の声を聴き様々な奇跡を起こす力を持つ者が生まれます。その力は『霊威』と呼ばれ、霊威を持つ者は『霊威師』と称されます」
(あの部屋は確か教導室よね。授業をしているのかしら?)
張りのある女性の声は、外の廊下まで響いていた。瞬きしたアマーリエはこっそりと部屋に近付いていく。それに従い、聞こえて来る声も大きさを増した。
「霊威は世界の森羅万象に宿っており、全ての動植物が多少なりとも有している力です。しかし、神と交信し奇跡を起こせるほどの強さを持つ者は限られます」
かつて自分も教わったことのある内容だ。無意識に続きを頭の中で諳んじる。
(神と対話できるレベルの力を持つ者は、興奮すると瞳が光る。それは『徴』と呼ばれる。徴を発現した者だけが霊威師と称することを許され、霊威を持つ者と認識される)
徴を発現した者は神官として登録され、多くの特権と尊崇を得る。そして、強力な霊威を以って神の言葉を聞き託宣を下ろし、超自然的な奇跡をも起こす。例えば、火や水、風を召喚する、超人的な頭脳や身体能力を発揮する、治癒、念話、遠視、転移の力を駆使する、など様々だ。
(どれどれ?)
窓越しにそっと教導室を覗くと、並べられた机の前に金髪碧眼の少年少女たちが座っている。まだ10歳に満たない年の子どもたちだ。徴は貴族を中心とした家系の者に、一桁の年齢で顕れることが多い。ゆえに、貴族の血を引く子どもは幼少期から専門の教育を受ける。
(ああ、かわいい! 未来の神官候補だわ! この子たちの何人が力に覚醒するのかしらねぇ)
ワクワクと部屋の中に見入っていると、教壇に立っていた黒髪の女性がこちらを向いた。切れ長の瞳を持つ美女だ。
(み、見付かっちゃった!)
アマーリエは青い瞳をおろおろとさ迷わせ、愛想笑いと共に軽く会釈をする。そして素早く身を翻し、さささとその場から逃げ去った。
《やーいおっちょこちょい、見付かってやんのー!》
げらげらと笑う『声』には、後で報復すると誓いながら。
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