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第4章 旅の終わり
夜桜の下で
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「おーい、聞こえますかー?花びら入ったぞー」
目の前、何なら顔に当たりそうな位置で手を振るサクラの呼びかけで、ハッと我に返る。
「私、一応これでも誕生日だから早く帰りたいんだけどー」
誕生日……?
「ああッ!!」
その瞬間、俺は思い出した。初めて二人と会った時の会話を。
『お姉さんって、おまん歳十五なんじゃろ?同い年じゃねえか』
『え?二人とも、十五?』
『おお!おまんもか!?』
『まあ、一応」
『ばーか。私はね、四月一日生まれだからキミらより一つ上のJKなわけ。お姉さんと呼びな中坊の諸君。あ、というか零時過ぎてたから私もう十六歳だわ!』
零時過ぎてたから——。
そうか!つまりそういうことか!
「何よ急にびっくりする——」
「分かったぞ、どういう理屈なのか……!」
サクラは、俺が寝ている三月三十一日の二十四時が過ぎた直後、つまり四月一日の零時になってこの桜の公園に来たんだ。そこで、寝ている俺を見つけた。
そして、手元にあった酒を見て俺がその酒で寝落ちしたんだと悟り、日誌の中身を読んでその仕組みを知ったんだろう。だから、序盤妙に勘が鋭かったんだ。
「ほう、それは良かったじゃない」
サクラは少しだけ口角を上げて、俺に満杯の徳利を差し出す。
「待て、まだ幾つか訊きたいことが残ってる。さっきのトシの話とか」
「ばーか。残りは帰ってから考えろ。私からすれば一応アンタは過去の人間なんだからね?リスクってもんがあるでしょうが」
「んな高々数時間の話……ちょっと待て。飲んだ量同じならサクラが先に飲めよ。一杯分は流石に残ってるだろそれ——」
その瞬間。言い終わる前に起こった一瞬の出来事に、俺は反応できなかった。いや、ある意味反応せざるを得なかった、と表現するべきか。
サクラは、目線を一度外した俺の隙を突くように、差し出していた酒をそのままに近づき、俺の口元まで一気に運んだ。
「中坊がカッコつけてんじゃないわよ、まったく」
こうなると、反射的にそれは拒否できなかった。飲まなければ、それこそ一人は帰れなくなるかもしれない。まさかここに来て、こんな強引なやり方をしてくるとは——。
「ゴホッ、ゴホッ!オェエ……」
飲んだ直後に俺を襲ったのは、現実で味わったあのフルーティながら鼻を刺す酒特有の芳香。そして、喉を駆け抜ける熱い感覚。
「サクラ……なんで……」
「高校生活早々友達ゼロなんて、あんまりだからね。人柱はお姉さんの私が引き受けるわ」
その台詞が、またしても俺を混乱させる。
「どういうことだ!?お前もすぐ後に帰ってくるんだろ!?」
「んー……まあそうね。でも、万が一があるから」
突如として、俺の周囲を無数の花びらが覆う。
さっきの、トシが飲んだ後と同じ現象だ。それと同時に、視界からサクラが消えていく。サクラは、口角を少し上げたまま、雰囲気は変わらず穏やかだった。
でも、その中に一瞬、安心したような、寂しいような、そんなよく分からない表情を見せた気もした。
「大丈夫。私嘘は付かないから。また、あっちで会おう」
その言葉の後。桃色の吹雪の中から、サクラの右手が……力強く握られた拳が、目の前に現れる。
サクラのこの言葉は、もしかしたら、トシに言ったそれと同義なのかもしれない。確証の無い願望なのかもしれない。それでも、俺はもうその言葉を信じて答えるしかなかった。
強い想いを右手に乗せて、俺も力強く拳を合わせる。
「……絶対、だからな」
一瞬だけ、訪れる沈黙。
「それよりあっちで名前忘れてたら、ぶっ飛ばすからね」
「当たり前だ。一生涯忘れることはねえさ」
「ふふっ。それ聞いて安心した。……また、この場所で」
程なくして拳は離れ、完全に俺の視界は桜一色となった。
最後に見えたのは、あの桜の木。
やっと、爺ちゃんの言っていたことが理解できた気がする。その目に映る桜は、満開という表現ではとても足らないくらい花開いていた。木の根元から枝葉の先まで輝くその壮大な姿は、どの瞬間をも上回る美しさで、まさに今この瞬間だけが『桜の見頃』なんだと思えた。
そして……その感動的な景色は本当にあっという間で、すぐさま俺は強い睡魔に襲われた。全身がまた深い谷に落ちていくように、あの時と同じように、一瞬にして俺は、深い深い眠りに落ちた。
目の前、何なら顔に当たりそうな位置で手を振るサクラの呼びかけで、ハッと我に返る。
「私、一応これでも誕生日だから早く帰りたいんだけどー」
誕生日……?
「ああッ!!」
その瞬間、俺は思い出した。初めて二人と会った時の会話を。
『お姉さんって、おまん歳十五なんじゃろ?同い年じゃねえか』
『え?二人とも、十五?』
『おお!おまんもか!?』
『まあ、一応」
『ばーか。私はね、四月一日生まれだからキミらより一つ上のJKなわけ。お姉さんと呼びな中坊の諸君。あ、というか零時過ぎてたから私もう十六歳だわ!』
零時過ぎてたから——。
そうか!つまりそういうことか!
「何よ急にびっくりする——」
「分かったぞ、どういう理屈なのか……!」
サクラは、俺が寝ている三月三十一日の二十四時が過ぎた直後、つまり四月一日の零時になってこの桜の公園に来たんだ。そこで、寝ている俺を見つけた。
そして、手元にあった酒を見て俺がその酒で寝落ちしたんだと悟り、日誌の中身を読んでその仕組みを知ったんだろう。だから、序盤妙に勘が鋭かったんだ。
「ほう、それは良かったじゃない」
サクラは少しだけ口角を上げて、俺に満杯の徳利を差し出す。
「待て、まだ幾つか訊きたいことが残ってる。さっきのトシの話とか」
「ばーか。残りは帰ってから考えろ。私からすれば一応アンタは過去の人間なんだからね?リスクってもんがあるでしょうが」
「んな高々数時間の話……ちょっと待て。飲んだ量同じならサクラが先に飲めよ。一杯分は流石に残ってるだろそれ——」
その瞬間。言い終わる前に起こった一瞬の出来事に、俺は反応できなかった。いや、ある意味反応せざるを得なかった、と表現するべきか。
サクラは、目線を一度外した俺の隙を突くように、差し出していた酒をそのままに近づき、俺の口元まで一気に運んだ。
「中坊がカッコつけてんじゃないわよ、まったく」
こうなると、反射的にそれは拒否できなかった。飲まなければ、それこそ一人は帰れなくなるかもしれない。まさかここに来て、こんな強引なやり方をしてくるとは——。
「ゴホッ、ゴホッ!オェエ……」
飲んだ直後に俺を襲ったのは、現実で味わったあのフルーティながら鼻を刺す酒特有の芳香。そして、喉を駆け抜ける熱い感覚。
「サクラ……なんで……」
「高校生活早々友達ゼロなんて、あんまりだからね。人柱はお姉さんの私が引き受けるわ」
その台詞が、またしても俺を混乱させる。
「どういうことだ!?お前もすぐ後に帰ってくるんだろ!?」
「んー……まあそうね。でも、万が一があるから」
突如として、俺の周囲を無数の花びらが覆う。
さっきの、トシが飲んだ後と同じ現象だ。それと同時に、視界からサクラが消えていく。サクラは、口角を少し上げたまま、雰囲気は変わらず穏やかだった。
でも、その中に一瞬、安心したような、寂しいような、そんなよく分からない表情を見せた気もした。
「大丈夫。私嘘は付かないから。また、あっちで会おう」
その言葉の後。桃色の吹雪の中から、サクラの右手が……力強く握られた拳が、目の前に現れる。
サクラのこの言葉は、もしかしたら、トシに言ったそれと同義なのかもしれない。確証の無い願望なのかもしれない。それでも、俺はもうその言葉を信じて答えるしかなかった。
強い想いを右手に乗せて、俺も力強く拳を合わせる。
「……絶対、だからな」
一瞬だけ、訪れる沈黙。
「それよりあっちで名前忘れてたら、ぶっ飛ばすからね」
「当たり前だ。一生涯忘れることはねえさ」
「ふふっ。それ聞いて安心した。……また、この場所で」
程なくして拳は離れ、完全に俺の視界は桜一色となった。
最後に見えたのは、あの桜の木。
やっと、爺ちゃんの言っていたことが理解できた気がする。その目に映る桜は、満開という表現ではとても足らないくらい花開いていた。木の根元から枝葉の先まで輝くその壮大な姿は、どの瞬間をも上回る美しさで、まさに今この瞬間だけが『桜の見頃』なんだと思えた。
そして……その感動的な景色は本当にあっという間で、すぐさま俺は強い睡魔に襲われた。全身がまた深い谷に落ちていくように、あの時と同じように、一瞬にして俺は、深い深い眠りに落ちた。
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