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第3章 過去と未来
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「1999、年……」
そう、過去というのは察しが付いていた。
けれどここは……俺がいる現世から、二十五年も前の世界。まだ、俺は生まれてすらいない時代だ。
「いやあ、道理でおかしいわけじゃ。なんか色々古くさいと思ったが、そりゃ十年以上も経ってりゃあそう感じるわい」
「……あんた腰抜かすほど驚いた割には随分冷静ね」
カレンダーを見ての第一声がそれかよ、と俺はツッコミたかったが、よくよく考えてみるとそのツッコミを入れるサクラが一番冷静すぎる。まさか予想できてたわけではないだろうし、何年前かなんて特に興味は無かったのだろうか。
「色々引っかかっとったからのう。で、おまんらは何か収穫はあったんか?」
サクラは真顔のまま俺に目を向け、アイコンタクトの代わりなのか片側の口角を一瞬動かす。これは察するに、『何も喋るな』ってことだろう。
「あったわよ。あそこにある倉庫、一つだけ鍵掛かってるの」
「何、そんなもんあったのか!?」
トシは一目散に倉庫の前まで行き、その鍵を確認する。初手の反応を見るに期待はできなかったけど、やはり「こんなもん初めて見たぞ。見えんが」というのが答えだった。
こうなると本格的に壊す以外選択肢が無くなってくる。あのお爺さんの口調から察するに、恐らくこの鍵の『答え』はこの家に存在していないだろうから、これを探すのは流石に現実的とは言えない。
「こっちの二つには何も無かったのか?」
「まあ、見ての通りかな」
「つーかおまんら……調べるのはいいが散らかしすぎじゃ。さっきわいコケるか思ったぞ」
「あーいやそれはサクラが……ってサクラ何してんの?」
俺ら二人そっちのけで、真後ろから金属音がガチャガチャと聞こえてくる。
「何って、適当に合わせてみてんのよ」
「アネキそりゃ無茶じゃ。何通りあると思っとんねん」
「ああ、全部試す前に現実の俺らが死んじまうぞ」
何だかんだこれじゃ、工具を探すという目的のまま前進していないのと同じだ。あれ、でも現状工具があるのもここになるんだっけ?
「トシ、工具類は家の中には無いのか?」
「んー……小さなドライバー程度なら靴箱にあった気がせんでもないが——」
「開いたわ」
「…………は?」
「……え?」
そのたった一言の意味が理解出来ず、それはトシも同じだったようで一瞬謎の沈黙が場を包んだ。
何の喜びも驚きもないサクラの声が余計に俺たちを混乱させたのは間違いない。けれど、この場の空気を壊すように、私嘘吐いてないですよとばかりに、「ドスッ」という鈍重な音が地面で鳴った。
それは紛れもなく、金属製の何かが地面の土に着地した音だ。
「ちょちょっと待てよ。そんな馬鹿なことあるか?鍵番号は何にしたんじゃ?」
「さあ?適当に弄ったから」
いやいやいや、それにしてはあまりにも冷静すぎる。それで本当に開いたのなら、俺ならびっくりして大声の一つでも上げるところ。流石にそれはサクラも変わらないと思うんだが。
「アネキもしかして、わいの婆ちゃんだったりせんよな?」
「アホ言うな。あんたの婆ちゃんがこんな可愛い制服着てるわけないだろ」
「んなこたあ写真見てみんと分からんじゃろうがい」
問答をしている二人は放っておいて、俺は落ちた鍵を拾い指先でそれをなぞった。掘られた数字までは分からないものの、上から一番目と三番目には丸い突起が確認できる。これは多分触覚マークだから『0』。初期の並びをちゃんと確認してないけど、『0000』だったのであればワンチャン当てずっぽうでも可能性はあるか。
「私自転車の鍵は二箇所を一つずつズラしたら開くようにしてるから、これも同じノリじゃないかなーっと思っただけよ」
「わい自転車に鍵なんぞしたことないわ」
「私は可愛いからね、厳重にしないとすぐ変態オヤジにパクられるの」
「おまんどんな世紀末で生とんな」
厳重じゃねえじゃんそれ……というツッコミはさておき、そう言われると妙に説得力がある。昔の人が同様にリスク管理よりも効率化を優先していたのかは定かではないけども。深く考えるだけ無駄だったか……?
「そもそも喜ぶのはまだ早いよ。こっからまた変なの出てくるかもしんないから」
「確かに、ここでぬか喜びさせといてってのもあり得る。隠し方が変態じゃけえのう」
「いやあんたの祖先でしょうが」
錠が外れた扉は、他二つとは違い抵抗無く滑らかにスライドした。特に何かが倒れかかってくることもない。左手でその見えない空間に手を伸ばすと、どうやら物はそんなに置かれていないようで、仕切り板には当たれどその隙間はほとんど空気。道具箱のような大きい物は一つもない。
「どう?怪しいのある?」
「んー……なんか目ぼしい物はなさそう……」
「おいおい勘弁してくれ。まだ鍵付きの箱が出てくる方がマシやぞ」
小物一つひとつを取ってみても、提灯やら蝋燭やら団扇といった全く関係ないものばかり。一番下に桶と柄杓があるから、関連性があるとすればお墓参り辺りだろうか。
「マッチがあったけど、どうやら火は着かないわね」
「湿気とんか?」
「いや、そんな感じじゃない。手応えがないわ」
「……益々怪しいじゃねえか。明るく出来ないってことは隠す側が有利じゃろ?それで鍵まで掛けて大事なものが無いことあるか?」
そうだ、考えろ。わざわざ鍵までして、出てくるのがお盆のセットだけ……なわけがない。提灯の中に隠すとか、ガムテープで鍵だけくっ付けてるとか——。
ガムテープ…………?
そう、過去というのは察しが付いていた。
けれどここは……俺がいる現世から、二十五年も前の世界。まだ、俺は生まれてすらいない時代だ。
「いやあ、道理でおかしいわけじゃ。なんか色々古くさいと思ったが、そりゃ十年以上も経ってりゃあそう感じるわい」
「……あんた腰抜かすほど驚いた割には随分冷静ね」
カレンダーを見ての第一声がそれかよ、と俺はツッコミたかったが、よくよく考えてみるとそのツッコミを入れるサクラが一番冷静すぎる。まさか予想できてたわけではないだろうし、何年前かなんて特に興味は無かったのだろうか。
「色々引っかかっとったからのう。で、おまんらは何か収穫はあったんか?」
サクラは真顔のまま俺に目を向け、アイコンタクトの代わりなのか片側の口角を一瞬動かす。これは察するに、『何も喋るな』ってことだろう。
「あったわよ。あそこにある倉庫、一つだけ鍵掛かってるの」
「何、そんなもんあったのか!?」
トシは一目散に倉庫の前まで行き、その鍵を確認する。初手の反応を見るに期待はできなかったけど、やはり「こんなもん初めて見たぞ。見えんが」というのが答えだった。
こうなると本格的に壊す以外選択肢が無くなってくる。あのお爺さんの口調から察するに、恐らくこの鍵の『答え』はこの家に存在していないだろうから、これを探すのは流石に現実的とは言えない。
「こっちの二つには何も無かったのか?」
「まあ、見ての通りかな」
「つーかおまんら……調べるのはいいが散らかしすぎじゃ。さっきわいコケるか思ったぞ」
「あーいやそれはサクラが……ってサクラ何してんの?」
俺ら二人そっちのけで、真後ろから金属音がガチャガチャと聞こえてくる。
「何って、適当に合わせてみてんのよ」
「アネキそりゃ無茶じゃ。何通りあると思っとんねん」
「ああ、全部試す前に現実の俺らが死んじまうぞ」
何だかんだこれじゃ、工具を探すという目的のまま前進していないのと同じだ。あれ、でも現状工具があるのもここになるんだっけ?
「トシ、工具類は家の中には無いのか?」
「んー……小さなドライバー程度なら靴箱にあった気がせんでもないが——」
「開いたわ」
「…………は?」
「……え?」
そのたった一言の意味が理解出来ず、それはトシも同じだったようで一瞬謎の沈黙が場を包んだ。
何の喜びも驚きもないサクラの声が余計に俺たちを混乱させたのは間違いない。けれど、この場の空気を壊すように、私嘘吐いてないですよとばかりに、「ドスッ」という鈍重な音が地面で鳴った。
それは紛れもなく、金属製の何かが地面の土に着地した音だ。
「ちょちょっと待てよ。そんな馬鹿なことあるか?鍵番号は何にしたんじゃ?」
「さあ?適当に弄ったから」
いやいやいや、それにしてはあまりにも冷静すぎる。それで本当に開いたのなら、俺ならびっくりして大声の一つでも上げるところ。流石にそれはサクラも変わらないと思うんだが。
「アネキもしかして、わいの婆ちゃんだったりせんよな?」
「アホ言うな。あんたの婆ちゃんがこんな可愛い制服着てるわけないだろ」
「んなこたあ写真見てみんと分からんじゃろうがい」
問答をしている二人は放っておいて、俺は落ちた鍵を拾い指先でそれをなぞった。掘られた数字までは分からないものの、上から一番目と三番目には丸い突起が確認できる。これは多分触覚マークだから『0』。初期の並びをちゃんと確認してないけど、『0000』だったのであればワンチャン当てずっぽうでも可能性はあるか。
「私自転車の鍵は二箇所を一つずつズラしたら開くようにしてるから、これも同じノリじゃないかなーっと思っただけよ」
「わい自転車に鍵なんぞしたことないわ」
「私は可愛いからね、厳重にしないとすぐ変態オヤジにパクられるの」
「おまんどんな世紀末で生とんな」
厳重じゃねえじゃんそれ……というツッコミはさておき、そう言われると妙に説得力がある。昔の人が同様にリスク管理よりも効率化を優先していたのかは定かではないけども。深く考えるだけ無駄だったか……?
「そもそも喜ぶのはまだ早いよ。こっからまた変なの出てくるかもしんないから」
「確かに、ここでぬか喜びさせといてってのもあり得る。隠し方が変態じゃけえのう」
「いやあんたの祖先でしょうが」
錠が外れた扉は、他二つとは違い抵抗無く滑らかにスライドした。特に何かが倒れかかってくることもない。左手でその見えない空間に手を伸ばすと、どうやら物はそんなに置かれていないようで、仕切り板には当たれどその隙間はほとんど空気。道具箱のような大きい物は一つもない。
「どう?怪しいのある?」
「んー……なんか目ぼしい物はなさそう……」
「おいおい勘弁してくれ。まだ鍵付きの箱が出てくる方がマシやぞ」
小物一つひとつを取ってみても、提灯やら蝋燭やら団扇といった全く関係ないものばかり。一番下に桶と柄杓があるから、関連性があるとすればお墓参り辺りだろうか。
「マッチがあったけど、どうやら火は着かないわね」
「湿気とんか?」
「いや、そんな感じじゃない。手応えがないわ」
「……益々怪しいじゃねえか。明るく出来ないってことは隠す側が有利じゃろ?それで鍵まで掛けて大事なものが無いことあるか?」
そうだ、考えろ。わざわざ鍵までして、出てくるのがお盆のセットだけ……なわけがない。提灯の中に隠すとか、ガムテープで鍵だけくっ付けてるとか——。
ガムテープ…………?
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