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1 初めての恋

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 それよりも、僕は君が使っていた部屋で生活していることに、異様な高揚を感じている。

 君が使っていたトイレ、君が使っていたお風呂……想像するだけで胸が高鳴る。

 きっとあの明るい感じでは生活していなかっただろうけど、それでも、ここに君が居たと思うと、まるで童心に帰るように心が躍る。


 本当に君が居てくれたら、どれほど幸せだったことか——。



 そして僕はある日ふと思った。
 もしかして君は……居ないようで、居るのではないか?事故物件では『出る』ところもあるらしいけど、もし仮に『出た』ら、それは間違いなく君なんだよね、と。

 別に僕は幽霊を信じてるわけでも信じてないわけでもない。居ても不思議ではないんじゃない?という考えだ。

 暫く続いた頭痛……あれがもし、彼女の仕業だったら……彼女は霊として、ここに居る。


 そう思うようになった途端、僕は些細な現象を常に待ち望むようになった。

 夜眠ることが楽しみになった。夢に出てこないか、もしくは金縛りでもいい。少し目を開けたら人影が、なんてのもアリだ。それは全て、君なんだろうから。


 仏教では自殺したら地獄に堕ちると言われているそうだ。もしそれが本当なら、君はここには居ない。
けれど、ここに居るのなら、君が逝った先は人間界以外の六道ではなく、まだこの世界の何処か。

 いや、何処かではないな、まさに『ここ』にいるはずだ。所謂地縛霊というやつか。

 もし君が地縛霊となっているのなら、僕がここで死ねば、君にまた逢えるのかもしれない。




 ああ、逢いたい。



 君に逢いたい。



 君が居ないこっちの世界は実につまらない。君が居なくなってからこの1年、生きている理由が分からなくなってしまった。

 唯一僕を突き動かしているのは、君が死んだ理由を突き止めるという使命感のようなもの。

 でも、仮に僕が死んで君と逢えるなら、そこまで必死になる必要も無い気がする。

 だって、君と逢うことより望んでいることなんて無いからね。





 そして遂に、それらしき事象が起こり始めた。

 2ヶ月が経とうとしていた頃、もうすぐ夏休みが終わってしまうというタイミング。

 僕は毎日、写真に載っていたお酒をプレゼントしていた。アルコール度数の低いチューハイだ。勿論、君が呑めるようにちゃんと口を開けてね。

 霊が現れるのはきっと夜中……だから、毎晩寝る前に枕元に捧げた。

 そしたらある日、その缶チューハイが倒れていた。
 1回だけじゃない……2回、3回と、倒れていた。

 3回目に至っては僕の枕元がびしょ濡れで、まるで僕に呑ませてくれようとしていたようだった。


 ああ、きっと、寂しがっている。もうすぐ大学が始まって僕が来れなくなるから、寂しがっているんだ——。

 確信したよ。君はここに居るんだって。

 不思議な現象はそれだけじゃない。夜中、玄関のドアがよく鳴るようになった。「コンコンっ、コンコンっ」って。

 分かってる分かってる……『出て行かないで』って言ってるんだよね。出て行かないよ、もう。


 君が何故自殺したのか、それはもういい。
 君がここに居るなら、わざわざ必死になって調べる必要なんてない。僕が死んで、その後君に逢って聞けばいいから。

 全部聞いてあげるよ、君の気が済むまで。
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