最後の春

さや

文字の大きさ
上 下
1 / 2
1小節目

1小節目

しおりを挟む
※曲目の楽器編成が間違えてる箇所があるかもしれません。ご容赦ください。
※京都の高校が舞台ですが、京都弁使ってません。


「それじゃあ各自パート練始めてー。」

コンミスの3年、人見 桜は指示を出す。

桜の指示を聞き、団員たちは個人練をストップする。

皆それぞれ声を掛け合うが、1人でオドオドとしている者がいる。

「彩、練習しよっか。」

チューバの2年、市川 彩の元にやって来たのはトロンボーンの2年、朝倉 花音だ。

「うん。」

彩と花音は1年で同じクラスとなり、元吹奏楽部ということもあってか、一緒に管弦楽団に入団した。

彩は自分の譜面台と椅子を、花音の席に近づける。

「今日はここを重点的に練習しよう。この前の合奏で上手く吹けなかったから…。」

「そうだね…。私もこの前音外しちゃったし。」

2人は顔を見合わせ、苦笑いする。

「頑張ろうね!」

花音は言う。

そしてパラパラと譜面をめくり始める。

「えっと…この前音外したのが2ページ目の5小節目で、拍数間違えたのがここで…。」

花音が確認をしていると、誰かが後ろから覗き込んだ。

「大丈夫?」

声を掛けたのは、桜だ。

「桜先輩!」

花音と彩は後ろを振り向く。

「あっ、もしかして練習の邪魔しちゃった?」

「そんなことないです!ね、彩?」

花音が言う。

「はい、そうです…。」

彩は頷く。

「なら良かった。今年の定演の曲難しいし、大丈夫かと思ったんだ。」

曲目は前プロにカレリア組曲、中プロに木星、メインにチャイコフスキーの交響曲第2番、アンコールにトレパークだ。

「今回は難しいです。」

花音が譜面をめくりながら言うと、桜は相づちをうつ。

「うんうん。木星とか、金管楽器は大変そうだよね。」

「ですよねー…って、決めたの私たちですけど。」

毎年、定演の曲目を決めるのは生徒たちなのだ。

「で、でも…っ、私は木星好きです!サビの部分とかヴァイオリンは凄い綺麗だし…。」

彩が突然言う。

「ありがとう、彩ちゃん。私もっと頑張らないとね!」

桜はにこりと笑いかける。

「いえっ、そんなことないです。桜先輩はヴァイオリン上手ですよ!」

「またまたぁ、お世辞がうまいんだから。」

そう言って桜はパート練に戻っていく。

彩が花音を見ると、花音はそっと耳打ちする。

「よかったね、先輩と話せて。」

「うん…っ!」

彩は大きく頷く。

なぜなら彩は桜に想いを寄せているからだ。

きっかけは昨年の新入生歓迎会での演奏会だった。

ヴァイオリンを弾く桜をみて、彩は一目惚れしたのだ。

「桜先輩…。」

彩は、赤くなった頬を押さえる。

「ほらほら、もう練習するよ。」

花音が彩の肩を叩く。

「あっ、ごめん。練習しなきゃね。」

2人が練習を始めると、その様子を遠目で見ている人物が小さな声で呟く。

「下手くそ。」

そう呟いたのはセカンドヴァイオリンの1年、原田 夏希だ。

夏希は京都府主催のヴァイオリンコンクールの優勝者で、学校ではちょっとした有名人だ。

切れたE線を張替えながら練習光景をみていると、誰かが夏希の肩を叩く。

「弦切れちゃったの?」

声を掛けたのはチェロの2年、森 香だ。

「はい、そうです。換えの弦くらい持ってますよ。もしかして先輩も弦切れちゃったんですか?」

「ご名答…。実は換えの弦持ってなくて…。」

香は苦笑いする。

「呆れた…。確か音楽準備室にチェロの弦置いてありましたよ。どの弦ですか?」

「C線です…。」

それを聞いた夏希はため息をつく。

「この前もC線上手く張替えられなくて、切ってましたよね。」

「う、うん。ごめん…。」

「別にいいですけど、次から気をつけて下さい。」

そう言って夏希は音楽準備室へ向かう。

「こらこら、後輩に頼っちゃ駄目だぞ。」

誰かが香の頭を軽く叩く。

「良美先輩、やめて下さいよ。」

現れたのはフルートの3年、瀬戸 良美だ。

良美は桜の幼馴染で、付き合いが長い。

「まあまあ、そう怒らないでよ。ね、桜?」

近くにいた桜を呼ぶ。

「え、どうしたの?」

「実は香がさー。」

良美がここまで言いかけると、夏希が戻ってきた。

「香先輩、C線ありましたよ。よかったですね…って、皆さんお揃いで何してるんですか?」

夏希は真顔で言う。

「いやー今みんなでお話ししてて。」

香が笑うと、夏希は怒る。

「ちゃんと練習しなきゃ駄目ですよ!合宿までになんとかなればいいやー、とか思ってるんじゃないですか?」

「そ、それは…。」

香は言葉を濁らせる。

「はいはい、もういいですから香先輩は私と練習ですよ。」

「えっ、夏希ちゃん待ってよー!」

「待ちません。」

夏希は強引に香を連れていく。

「夏希ちゃんと香って仲良いよね。」

桜は笑う。

「ほんとそうだね。あっ、私も練習しなきゃ。」

譜面を持ち、桜は自分の椅子に座る。

その時、音楽室のドアが開く。

「君たち、そろそろ閉門の時間だから練習は終わりにしてくれるかな?」

やって来たのは警備員だ。

「あっ、はい!じゃあみんな片付けして!」

桜の指示が出ると、皆は急いで片付けを始める。

弦楽器は片付けが早いが、管楽器は大変だ。

特に金管楽器はつば抜きがあるため、他よりも片付けが遅くなってしまう。

「少し早く片付けしておけばよかったね。」

花音は彩に話しかける。

「うん、そうだね。」

2人が片付けを進めていると、桜がやって来る。

「2人の荷物は私たちで片付けしておくから、楽器の片付けはゆっくりやって大丈夫だよ。」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます…。」

彩と花音はお礼を言う。

「だいじょーぶ!」

桜はウインクして、微笑む。

丁度、時計は夜の8時を回っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...