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闇の訪れ

自宅 琴乃家

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 毎日ベッドに埋もれるも、睡眠は出来ぬまま。
 自分でも分かってる。
 不眠……不眠症。

 問題はどこに診察に行くかだ。
 社員には会いたくない。精神科に行っているなんて口が裂けても言えない!

 少し遠いが………市を二つほど挟めば誰にも会わないだろう。

 PCデスクに座る前に、台所にコーヒーを取りに行った。
 寝よう寝ようとすると、眠れないことに焦りが生じる。すると、朝までカウントダウンのように時計と睨めっこだ。精神的にも余計に疲労が伴う。

 だが肉体への疲労は睡眠を取らないと最早取り除けないギリギリの状態だった。

 コーヒーを淹れ、自室へ行こうと台所の電気をオフにしようとすると母が起きてきた。

「ちょっと………春子。今何時だと思ってるの」

「ん………ちょっと眠れないから暖かいものでもって……」

「コーヒーはカフェインが入ってるでしょ!余計に眠れないんじゃないの?」

 知ってる。

「今寝たら、明日一日寝ちゃいそうだし……」

 不眠症になっているとは言わない方がいいか。

「今日だって朝からどこに行ってたの?行先くらい言ってから家を出なさい!
 二十歳になったからってなんでも自由になるわけじゃないの!」

 夜更けの台所でくだらない事態になってしまった。
 母の声に父が起きてくる。

「何騒いでるんだ……」

「お父さんからも何か言ってよ!
 全く、平日も帰りが遅いし!休みは夜更かしばかりで!」

 喚く母を横目に、父もうんざりと私を見下ろす。

「お母さんの言う通りにしなさい。飲んだら早く寝るんだぞ」

「コーヒーじゃなくて白湯にしなさい」

 白湯…………そんな味気のないものなら無くていいくらいだ。

「わかった。白湯にするよ……」

「とにかく早く寝なさい!」

 早く寝なさい。
 早く寝なさい。

 この言葉はプレッシャーだ。

 眠れないんだ………。
 疲れた…………どうして急に眠れなくなったんだろう。

 とにかく早くどうにかしなきゃ。

 パソコンを齧り付くように見つめる。
 出来れば日曜日診察しているところがいい。
 汚い病院でも、医者がしっかりしていればいい!

「……?」

 不眠症って内科でも薬貰えるの……?
 心療内科……?精神科とは違うの……?
 いや、内科にしよう。
 親に見つかったら、また過剰に反応される気がする。


 次の日、日曜。松野島町まで来た。
 内科でも心療内科、神経内科もやっているところだ。
 それも朝から診察を受けるとあっさりと入眠剤が手に入った。
 あまりのあっけなさに自分でも驚く。なんのカウンセリングもなく、パーキング代と同程度の診察料。
 はぁ、もっと早く来ればよかった…… 。

 松野島は相変わらず朝から騒々しい町だった。
 松野島町を経由して泉田まで行けば、そこから各々の工業団地に分かれる。そういえば今日は土井の班も休日だったな。今頃、もしかしたら土井は泉田駅のホームにいるのかもしれないな。

 夜は繁華街として歩行者の多いこの町の朝の顔は、細い路地を猛スピードで会社に向かうサラリーマンの近道になっていた。

 そう考えると、日曜でもこれだけの人間が休みも取らずに出勤しているという現実だ。最も平日休みか、変則勤務なのかは分からないが。

 車に乗り、薬局で受け取った紙の袋をナイロン袋から取り出し、見つめる。

 本当に大丈夫だよな。

 もし見られても親は薬には疎いし、内科に言ったと言えば。
 睡眠さえ取れればもう問題は無い!

 まだ九時半だった。
 一日空いてしまったな。

 そうだ。
 川田にでも連絡してみるか。
 何度かLINEでやり取りをして、今日一日の行動が決まる。

『じゃあ今から来なよ!』

 突然だが、連絡を取り付け家へ行くことになった。
 一旦パーキングから車を出す。

 何か手土産を………和菓子、洋菓子………?
 由紀恵さんはまだ妊娠はしてないんだっけ?

 泉田駅前まで行けばロールケーキの美味い店があったな。

 悩みに悩み……昼時をずらしたおかげで到着は十三時となった。
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