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住居

女帝の間

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 休日になり、麗と共に駅で慎也と合流し藤野宮家に出向く。
 通されたのは藤野宮 紫織のいる、手前の座敷だった。
 先日は暗闇の中通された空間だが、桐箪笥や鏡台、とんでもなく幅広い神棚など。思ったより生活臭はあった。ただ、一つ一つの質の高さに唖然とする。
 完全に正座を崩すタイミングを逃した私はカチカチに固まっていた。

「手土産なんて持ってきて………。私たちがあなた達を巻き込んだのだから、普通は逆なのだけれど。
 そうね、じゃあ有難く受け取っておくわ」

「はい…こちらこそバタバタとなんだか、かえってややこしくしてしまったようで失礼致しました。
 仁恵さんは問題なさそうですし安心しています」

 早口になりそうだ!
 会議とは別の意味で緊張する。
 藤野宮 紫織。この御老女には覇気がある。権力や財力ではない何かだ。

「もちろんよ。動画の事は最後の膿だったようだけれど……もうそんなことも。
 ところであの後、幸田とやらはどうなったのかしら?」

 竜子さんが大きく熟れた苺を運んできて私たちに振舞ってくれた。何これ凄く高そう………!

「どうぞ!ささっいっぱい食べてね!さぁ、ほら遠慮しちゃダメよ!」

「いただきます!」

 味わいにくい!早く返答しなきゃ!

「んぐっ。
 えと!直属の次長からは幸田さんはクビになって……今はショックで寝込んでいると聞いています。
 何故か、社内の掲示板には張り出されませんでしたけど」

「寝込みたいのはこちらの方よね。
 でも………ふぅん、そうなの。
 聞けば最近退社になった社員の割合は縁故組が多いそうじゃないの。稼働してないフロアがあるらしいじゃないの。
 張り出されないのは、それかしらね………」

 この人はどこからそれを聞いてるんだろうか?
 敵ではないものの、何年も嗅ぎ回るその執念に不気味さを感じる。

「それで、椿芽君はお住いを探しているとか?」

「はい。実は半年ほど前に空き巣に入られまして………家族も増えたものですからこれを機に転居でもと……」

 一通り話を聞いたあと、紫織さんは皺の多い手で煙草を灰皿に置き、フゥっと煙を吐き出す。

「それにしても、貴方こないだと全然違うわねぇ!
 腰が抜けるかと思ったわ。
 その方がずっといい男よ」

「いえ、わたしなんか若輩者ですから」

 佐伯次長の言った通りだ。
 慎也は何故か老人に好かれる様だ。
「お前絶対普段はそんな感じじゃないだろ」ってバレバレなのだが………それでいいのか?それがいいのか!?

「つまり縁故組や『それ絡み』の敵のいない物件を紹介してくれ、と言う事で合ってる?」

「はい。社内はあまり個人情報を教えてくれませんし……調べようがなくて」

「賢明な判断だと思うわ。
 ハズレを引いたら引越し代も馬鹿にならないものねぇ。
 竜子さん」

「はい、何でしょう?」

「菊池さんをお呼びして頂戴」

 菊池……!
 あの変わった雰囲気の斡旋屋か。

「かしこまりました」

 竜子さんが即座にその場で連絡を取る。

「十分程で来るそうです」

「だそうよ」

「あ、ありがとうございます」

 うわぁ、あの人また来るのかぁ……。
 隣で麗がすました顔で茶を啜っているが、頭の中は「?」の筈だ。
 あれ?なんか楽しみのような。
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