60 / 108
住居
女帝の間
しおりを挟む
休日になり、麗と共に駅で慎也と合流し藤野宮家に出向く。
通されたのは藤野宮 紫織のいる、手前の座敷だった。
先日は暗闇の中通された空間だが、桐箪笥や鏡台、とんでもなく幅広い神棚など。思ったより生活臭はあった。ただ、一つ一つの質の高さに唖然とする。
完全に正座を崩すタイミングを逃した私はカチカチに固まっていた。
「手土産なんて持ってきて………。私たちがあなた達を巻き込んだのだから、普通は逆なのだけれど。
そうね、じゃあ有難く受け取っておくわ」
「はい…こちらこそバタバタとなんだか、かえってややこしくしてしまったようで失礼致しました。
仁恵さんは問題なさそうですし安心しています」
早口になりそうだ!
会議とは別の意味で緊張する。
藤野宮 紫織。この御老女には覇気がある。権力や財力ではない何かだ。
「もちろんよ。動画の事は最後の膿だったようだけれど……もうそんなことも。
ところであの後、幸田とやらはどうなったのかしら?」
竜子さんが大きく熟れた苺を運んできて私たちに振舞ってくれた。何これ凄く高そう………!
「どうぞ!ささっいっぱい食べてね!さぁ、ほら遠慮しちゃダメよ!」
「いただきます!」
味わいにくい!早く返答しなきゃ!
「んぐっ。
えと!直属の次長からは幸田さんはクビになって……今はショックで寝込んでいると聞いています。
何故か、社内の掲示板には張り出されませんでしたけど」
「寝込みたいのはこちらの方よね。
でも………ふぅん、そうなの。
聞けば最近退社になった社員の割合は縁故組が多いそうじゃないの。稼働してないフロアがあるらしいじゃないの。
張り出されないのは、それかしらね………」
この人はどこからそれを聞いてるんだろうか?
敵ではないものの、何年も嗅ぎ回るその執念に不気味さを感じる。
「それで、椿芽君はお住いを探しているとか?」
「はい。実は半年ほど前に空き巣に入られまして………家族も増えたものですからこれを機に転居でもと……」
一通り話を聞いたあと、紫織さんは皺の多い手で煙草を灰皿に置き、フゥっと煙を吐き出す。
「それにしても、貴方こないだと全然違うわねぇ!
腰が抜けるかと思ったわ。
その方がずっといい男よ」
「いえ、わたしなんか若輩者ですから」
佐伯次長の言った通りだ。
慎也は何故か老人に好かれる様だ。
「お前絶対普段はそんな感じじゃないだろ」ってバレバレなのだが………それでいいのか?それがいいのか!?
「つまり縁故組や『それ絡み』の敵のいない物件を紹介してくれ、と言う事で合ってる?」
「はい。社内はあまり個人情報を教えてくれませんし……調べようがなくて」
「賢明な判断だと思うわ。
ハズレを引いたら引越し代も馬鹿にならないものねぇ。
竜子さん」
「はい、何でしょう?」
「菊池さんをお呼びして頂戴」
菊池……!
あの変わった雰囲気の斡旋屋か。
「かしこまりました」
竜子さんが即座にその場で連絡を取る。
「十分程で来るそうです」
「だそうよ」
「あ、ありがとうございます」
うわぁ、あの人また来るのかぁ……。
隣で麗がすました顔で茶を啜っているが、頭の中は「?」の筈だ。
あれ?なんか楽しみのような。
通されたのは藤野宮 紫織のいる、手前の座敷だった。
先日は暗闇の中通された空間だが、桐箪笥や鏡台、とんでもなく幅広い神棚など。思ったより生活臭はあった。ただ、一つ一つの質の高さに唖然とする。
完全に正座を崩すタイミングを逃した私はカチカチに固まっていた。
「手土産なんて持ってきて………。私たちがあなた達を巻き込んだのだから、普通は逆なのだけれど。
そうね、じゃあ有難く受け取っておくわ」
「はい…こちらこそバタバタとなんだか、かえってややこしくしてしまったようで失礼致しました。
仁恵さんは問題なさそうですし安心しています」
早口になりそうだ!
会議とは別の意味で緊張する。
藤野宮 紫織。この御老女には覇気がある。権力や財力ではない何かだ。
「もちろんよ。動画の事は最後の膿だったようだけれど……もうそんなことも。
ところであの後、幸田とやらはどうなったのかしら?」
竜子さんが大きく熟れた苺を運んできて私たちに振舞ってくれた。何これ凄く高そう………!
「どうぞ!ささっいっぱい食べてね!さぁ、ほら遠慮しちゃダメよ!」
「いただきます!」
味わいにくい!早く返答しなきゃ!
「んぐっ。
えと!直属の次長からは幸田さんはクビになって……今はショックで寝込んでいると聞いています。
何故か、社内の掲示板には張り出されませんでしたけど」
「寝込みたいのはこちらの方よね。
でも………ふぅん、そうなの。
聞けば最近退社になった社員の割合は縁故組が多いそうじゃないの。稼働してないフロアがあるらしいじゃないの。
張り出されないのは、それかしらね………」
この人はどこからそれを聞いてるんだろうか?
敵ではないものの、何年も嗅ぎ回るその執念に不気味さを感じる。
「それで、椿芽君はお住いを探しているとか?」
「はい。実は半年ほど前に空き巣に入られまして………家族も増えたものですからこれを機に転居でもと……」
一通り話を聞いたあと、紫織さんは皺の多い手で煙草を灰皿に置き、フゥっと煙を吐き出す。
「それにしても、貴方こないだと全然違うわねぇ!
腰が抜けるかと思ったわ。
その方がずっといい男よ」
「いえ、わたしなんか若輩者ですから」
佐伯次長の言った通りだ。
慎也は何故か老人に好かれる様だ。
「お前絶対普段はそんな感じじゃないだろ」ってバレバレなのだが………それでいいのか?それがいいのか!?
「つまり縁故組や『それ絡み』の敵のいない物件を紹介してくれ、と言う事で合ってる?」
「はい。社内はあまり個人情報を教えてくれませんし……調べようがなくて」
「賢明な判断だと思うわ。
ハズレを引いたら引越し代も馬鹿にならないものねぇ。
竜子さん」
「はい、何でしょう?」
「菊池さんをお呼びして頂戴」
菊池……!
あの変わった雰囲気の斡旋屋か。
「かしこまりました」
竜子さんが即座にその場で連絡を取る。
「十分程で来るそうです」
「だそうよ」
「あ、ありがとうございます」
うわぁ、あの人また来るのかぁ……。
隣で麗がすました顔で茶を啜っているが、頭の中は「?」の筈だ。
あれ?なんか楽しみのような。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
三郎君のお弁当☆美容オタクのスイーツ女子と引きこもりから脱出しつつあるジャニーズ系な高校生に見える27歳の男
宇美
経済・企業
フリー朗読台本として利用可能な小説です。
可愛い若者の、ユーモアたっぷり青春ショートショート。
女性パートと男性パートがあるので、男女2人で読むのもオススメです。
利用の際の注意は目次をご覧ください。
【あらすじ】
三郎は27歳のひきこもりのニート。
自慢できるものは何一つないけれど、ルックスだけはジャニーズ系で高校生に見える若々しさ。
そんな彼は一念発起して就職を目指します。
就職支援センターで、三郎の担当になったのは、若くて可愛くて、軽そうな美容オタクの春菜でした。
シャッター商店街のシャッターの開け方
ihsoy_japan
経済・企業
「今日も沢山売れ残るのかなあ、、、、」
昭和は沢山の団体で賑わった温泉街にある【柳原ベーカリー】の柳原一郎の前に販売促進を手伝うという三木という男が現れる。
『いい物を作ればいつかは解ってもらえるから必要無い』という一郎に対して、
『情報を出していないところは存在しないも同じ』いつかは凄い長いスパンになっているのに、それでも『いつか』を待つかと問う三木。
『PUSH情報とPULL情報』『フリーミアム戦略』『情報を記憶させる方法』など『いつか』のタイミングを早めていく方法を学びながらも、その先にある小さいお店ならではの商売の本質を思い出していく一郎。
しだいに勢いを取り戻してきた【柳原ベーカリー】
そして、街を巻き込んでのイベント開催。その先に訪れる地方創生とは、、
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
こども家庭株式会社
ジャン・幸田
経済・企業
2030年代、政府は少子化対策の一環として恐るべき政策を始めた。
それは引きこもりの男女をこどもを養育する家庭に縛り付けることであった!
この物語は、そんな仕事に強制的に就職させられた男女とそのこどもたちとの物語である。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ブラック企業で24時間休憩無しで精神限界を迎えた僕のつぶやきたち
あらのい
エッセイ・ノンフィクション
夜勤や16時間業務で残業代なしが当たり前のときに過去に作成した短文です。
暗く、しんどい気持ちを紙に書いています。
暗いものですが、なにか少しでも得るものが読んだ人にあるように備忘録として残して行きます。
あ、昔の話ですよ。
いまはコンプラ大丈夫ですよ。
プロジェクトから外されて幸せになりました
こうやさい
経済・企業
プロジェクトも大詰めだというのに上司に有給を取ることを勧められました。
パーティー追放ものって現代だとどうなるかなぁから始まって迷子になったシロモノ。
いくらなんでもこんな無能な人は…………いやうん。
カテゴリ何になるかがやっぱり分からない。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる