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藤野宮家

不穏な帰路

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 既に仁恵さんの乗った軽トラは離れ、周囲は葡萄畑と防風林の杉林。
 街頭もない農道の中、ヘッドライトを消した車内だ、三人でスマホの液晶を見つめる。

「………でも、見てみないことには…俺のデータだとしたら佐伯次長が誰かに流したってことっすよ?」

「こんな!どう見ても裸なのに!あの時の動画なわけないでしょ!?」

「止めなさいあんた達!!」

 麗が眉を釣り上げて私からスマホを取り上げ、慎也と私を引きはがす。

「私が見るわ。どーせ男の顔なんかは映ってないでしょうから……どんな動画なのかだけ。音声も聞かないわ…」

「……………」

 麗がスマホをそっと手で包み、再生ボタンを押す。
 ドア側を背もたれにした麗の背にある窓ガラスにうっすらと激しく動く肌色が見え、思わず顔を背けた。

 慎也は頭を抱えたままうずくまり、つま先を凝視して動かない。

「モザイクは顔だけよ。間違いなく霜山さん本人だわ。彼女、ウエストにタトゥーがあるのよ…昔見せてもらった事がある。
 男は三人。痩せ型で………幸田じゃないわ。毛深い男と、若い肉付き…恐らく二十代の男よ。寮を知らないからなんとも言えないけれど、霜山さんのキャリーバッグが写ってるわ」

 ローラーの片方無い小さなキャリーバッグだ……。

「これって…リベンジポルノ…?」

「いや、それなら姫ちゃんはグルになるじゃないっすか!」

 麗から液晶が暗転したところでスマホを受け取り、働かない頭を拳で軽く叩きどうにか回す。
 まず、データの持ち主より土井が何のつもりでこれを上げたのかだ。

「土井さんには………私から連絡するよ……」

 これが仁恵さんと気付かない訳が無い。
 佐久間部長の自殺は一切書かなかったあいつが、何故これはネタにした?

「指示を。俺はどうしますか?」

 切り替える様に慎也が背筋を伸ばし、私を見る。

「明日朝イチに佐伯次長から事情を聞いて」

「はい」

「取り敢えず、車を出すわよ」

 待避所から車を車道に戻す。
 そろそろ朝だというのに冬の四時は真っ暗だった。

 帰りは誰も言葉を交わすことなく、帰路についた。
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