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だってやる気がなかったんです…
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ガサッ!ザッザッザッ
「はぁはぁはぁっ」
(あー、自分は、何故こんなことをしているのか…)
わざと少しだけ音をたてるように相手を追いかける。付かず離れず、少しでも立ち止まればすぐに捕まると思わせるように。
目の前には、目には見えないなにかに追われ、必死に逃げている可憐な少女の姿。何度も転び、かわいいドレスは泥だらけで、目には涙が浮かんでいる。疲れ果て絶望しそうなのを必死に耐えて誘導されているとも知らず、森の奥へと向かっている。
この先には自分の主であるサイロス様の別荘があり、少女を助けることになっている。
少女はその優れた容姿と優しい言動に好意を寄せ、やがてすべてをゆだねるようになるのだろう。
…1ヶ月以上少女を尾行し、身辺調査した結果、主が我慢の限界を迎えた為、このようなことをしなければならなくなった。
(可哀想に…)
少女を見る目に憐れみの色が滲む。
「あっ!」
いきなり開けた視界に白い屋敷が映る。少女は必死に玄関の扉を叩き、助けを求める。すぐに扉は開けられサイロス様(変装中)が姿を現すと、その容姿に一瞬見蕩れるが、すぐに我に返り、事情を説明し中に入っていった。自分はその様子を冷めた気持ちで見つめる。
自分があの方に仕えるようになり、もう8年になる。
はじめて引き合わされたとき、自分は7歳になったばかりだった。影の一族でも能力が暗殺者向きだった為あまり外の人とは接触せず、仕事をするようになったら人知れず闇から闇へ生きていくものだと思っていた。
だから祖父から『10歳になったらこの方に仕えることになる。』
と言われたとき、とても驚いたが表で生きていけるのだととても嬉しかった。だから能力をさらに強化するため修行も頑張った。
…まさかこんな理由で自分が選ばれたなんて思わなかったから。
今回のような茶番をやらされるのは、もう何回目か…。
こんな回りくどいことしなくても我が主は非常にモテるのに、好みの子を尾行し、すべての行動を把握、交遊関係を調べあげる。
そして自分をけしかけ、常に見られているとそれとなく判らせ恐怖させる。まるでストーカーだ。
その様子を自分の能力の1つである『視覚共有』で常に観察し、喜んでいるのだ。
(変態だな…)
こんな人だと知っていたら、能力を向上させたりせず、かわいい少女達を怖がらせたりすることもなく、被害も最小限に抑えられたかもしれない。
「は~」
そう考えると思わずため息がでる。
しかし後は、主が少女を家まで馬車で送るのを陰ながら見守り今回の仕事は終わりだ。
(やっと帰れる~)
思わず力が抜け、隠れている木の枝に座り込む。なんせ今回の下準備で、3日も家に帰れていない。
(早く出てこないかな~)
どうせ見えていないだろうと足をブラブラさせ気を抜いていた。
『クレイっ!!』
ビクッ!!
突然頭の中に主の怒鳴り声が怒りの感情を持って流れてきた。
自分の能力『感覚・感情共有』だが、主に能力媒体の指輪を持たされている為、主からも送られてくることがある。
何があったのかとあわてて屋敷の方を見ると、窓から顔を出しこちらを睨んでいるサイロス様の姿があった。
『何事ですか~っ!』
焦って頭の中で問いかけると、
『こっちにこい(怒)』
何か怒られることしたかな?心当たりがない。そもそも少女がまだ中にいるだろうに自分が行って良いのか。
そんなことを考えていると
『さっさとこい(怒)』
(なんだよ~泣)
しぶしぶ木から降りると主の元に駆け寄り、片膝を付く。
「何事でしょうか?」
「クレイ、何で呼ばれたかわからないのか?」
「さぁ?分かりかねます。」
皆目検討がつかず、眉根を寄せて問いかけると「は~」っととため息を付き、主は
「正体がばれてたんだよ。俺とお前の!俺の顔を知ってた。」
ガックリと肩を落として、落ち込む主を見て、
(ざまー笑)
っと心の中で笑いつつ、表情に出ないよう細心の注意を払い慰めの言葉を探す。
「お立場を考えれば致し方ないかと…。いっそ他国の方がやり易いかもしれませんが…」
そう言うとバッ!っと勢いよく顔をあげ、悲壮感の漂う顔で、
「余計無理に決まってるだろ!他国なんて護衛付けられて自由に出歩けないし、常に監視されるに決まってるじゃないか…!!」
「…偉くなるってのも大変ですね~」
「他人事だと思ってっ!」
だって他人事だし…っと思うが声には出さない。
去年兄が王位を継ぎ、弟として王の補佐をしている主、サイロス様は今まで以上に忙しくなり、趣味に時間を費やすことがなかなか出来ず、ストレスを溜めていた。
(だからって何で自分がこんなことに付き合わなきゃいけないんだ)
仕え始めてから知った主の性癖は、自分には理解出来ず、敬う気持ちもここ1年ほどこんなことに付き合わされ、すでに当初の半分ほどに減っていた。
(黙っていれば、金髪碧眼で美形。程よく付いた筋肉は、逞しく色っぽい。優しくて、周りのことにも気配りできるから人気あるし。身長だって180超で抱かれたい男No.1なのに、気を許した相手にはすごく残念な性格。もう20歳なんだからいい加減落ち着けば良いのに)
(てか、何で自分が怒鳴られなくちゃいけないんだ?)
「「クレイ様は一緒ではないのですか?もしやあの木の上の方がクレイ様?」って言われた。だから半分はお前が悪い!お前の調査不足だ。あの子の友達、お前のファンクラブ入ってて何度も会報見せてもらってるそうだ。」
ファンクラブってなんだそれ?そんなもの調べた中にあったっけ?でも友達が?……
「あっ!……げっヤバッ」
「クレイ…お前、今回手抜きしたな…!?」
(バレたーっ!!)
「はぁはぁはぁっ」
(あー、自分は、何故こんなことをしているのか…)
わざと少しだけ音をたてるように相手を追いかける。付かず離れず、少しでも立ち止まればすぐに捕まると思わせるように。
目の前には、目には見えないなにかに追われ、必死に逃げている可憐な少女の姿。何度も転び、かわいいドレスは泥だらけで、目には涙が浮かんでいる。疲れ果て絶望しそうなのを必死に耐えて誘導されているとも知らず、森の奥へと向かっている。
この先には自分の主であるサイロス様の別荘があり、少女を助けることになっている。
少女はその優れた容姿と優しい言動に好意を寄せ、やがてすべてをゆだねるようになるのだろう。
…1ヶ月以上少女を尾行し、身辺調査した結果、主が我慢の限界を迎えた為、このようなことをしなければならなくなった。
(可哀想に…)
少女を見る目に憐れみの色が滲む。
「あっ!」
いきなり開けた視界に白い屋敷が映る。少女は必死に玄関の扉を叩き、助けを求める。すぐに扉は開けられサイロス様(変装中)が姿を現すと、その容姿に一瞬見蕩れるが、すぐに我に返り、事情を説明し中に入っていった。自分はその様子を冷めた気持ちで見つめる。
自分があの方に仕えるようになり、もう8年になる。
はじめて引き合わされたとき、自分は7歳になったばかりだった。影の一族でも能力が暗殺者向きだった為あまり外の人とは接触せず、仕事をするようになったら人知れず闇から闇へ生きていくものだと思っていた。
だから祖父から『10歳になったらこの方に仕えることになる。』
と言われたとき、とても驚いたが表で生きていけるのだととても嬉しかった。だから能力をさらに強化するため修行も頑張った。
…まさかこんな理由で自分が選ばれたなんて思わなかったから。
今回のような茶番をやらされるのは、もう何回目か…。
こんな回りくどいことしなくても我が主は非常にモテるのに、好みの子を尾行し、すべての行動を把握、交遊関係を調べあげる。
そして自分をけしかけ、常に見られているとそれとなく判らせ恐怖させる。まるでストーカーだ。
その様子を自分の能力の1つである『視覚共有』で常に観察し、喜んでいるのだ。
(変態だな…)
こんな人だと知っていたら、能力を向上させたりせず、かわいい少女達を怖がらせたりすることもなく、被害も最小限に抑えられたかもしれない。
「は~」
そう考えると思わずため息がでる。
しかし後は、主が少女を家まで馬車で送るのを陰ながら見守り今回の仕事は終わりだ。
(やっと帰れる~)
思わず力が抜け、隠れている木の枝に座り込む。なんせ今回の下準備で、3日も家に帰れていない。
(早く出てこないかな~)
どうせ見えていないだろうと足をブラブラさせ気を抜いていた。
『クレイっ!!』
ビクッ!!
突然頭の中に主の怒鳴り声が怒りの感情を持って流れてきた。
自分の能力『感覚・感情共有』だが、主に能力媒体の指輪を持たされている為、主からも送られてくることがある。
何があったのかとあわてて屋敷の方を見ると、窓から顔を出しこちらを睨んでいるサイロス様の姿があった。
『何事ですか~っ!』
焦って頭の中で問いかけると、
『こっちにこい(怒)』
何か怒られることしたかな?心当たりがない。そもそも少女がまだ中にいるだろうに自分が行って良いのか。
そんなことを考えていると
『さっさとこい(怒)』
(なんだよ~泣)
しぶしぶ木から降りると主の元に駆け寄り、片膝を付く。
「何事でしょうか?」
「クレイ、何で呼ばれたかわからないのか?」
「さぁ?分かりかねます。」
皆目検討がつかず、眉根を寄せて問いかけると「は~」っととため息を付き、主は
「正体がばれてたんだよ。俺とお前の!俺の顔を知ってた。」
ガックリと肩を落として、落ち込む主を見て、
(ざまー笑)
っと心の中で笑いつつ、表情に出ないよう細心の注意を払い慰めの言葉を探す。
「お立場を考えれば致し方ないかと…。いっそ他国の方がやり易いかもしれませんが…」
そう言うとバッ!っと勢いよく顔をあげ、悲壮感の漂う顔で、
「余計無理に決まってるだろ!他国なんて護衛付けられて自由に出歩けないし、常に監視されるに決まってるじゃないか…!!」
「…偉くなるってのも大変ですね~」
「他人事だと思ってっ!」
だって他人事だし…っと思うが声には出さない。
去年兄が王位を継ぎ、弟として王の補佐をしている主、サイロス様は今まで以上に忙しくなり、趣味に時間を費やすことがなかなか出来ず、ストレスを溜めていた。
(だからって何で自分がこんなことに付き合わなきゃいけないんだ)
仕え始めてから知った主の性癖は、自分には理解出来ず、敬う気持ちもここ1年ほどこんなことに付き合わされ、すでに当初の半分ほどに減っていた。
(黙っていれば、金髪碧眼で美形。程よく付いた筋肉は、逞しく色っぽい。優しくて、周りのことにも気配りできるから人気あるし。身長だって180超で抱かれたい男No.1なのに、気を許した相手にはすごく残念な性格。もう20歳なんだからいい加減落ち着けば良いのに)
(てか、何で自分が怒鳴られなくちゃいけないんだ?)
「「クレイ様は一緒ではないのですか?もしやあの木の上の方がクレイ様?」って言われた。だから半分はお前が悪い!お前の調査不足だ。あの子の友達、お前のファンクラブ入ってて何度も会報見せてもらってるそうだ。」
ファンクラブってなんだそれ?そんなもの調べた中にあったっけ?でも友達が?……
「あっ!……げっヤバッ」
「クレイ…お前、今回手抜きしたな…!?」
(バレたーっ!!)
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