子連れ魔族

影迷彩

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~~決戦、~~

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 ハーディーはナインゾン王国を出発してから数多くの拠点を奪還した。昼夜問わず敵が襲いかかる魔族の森を抜け、大地そのものが敵と化する地平線を越えた先の渓谷、その中央に位置するヴォンンデーダ孤峰へと辿り着いた。
 孤峰の頂点にある魔王城を目指す道中、竜人、蛇髪、単眼巨人を打ち倒し、最終地点である魔王城に到達した。

 ──そして、暗転した空の下。崩壊寸前となった灰色の城の最上階にて、一つの決戦が終わろうとしていた。
 「滅べ、魔ォォォォォォォォォォォォォ!!」
 「グワアアアアアアアアア!!」
 勇者ハーディーは、魔王ネロの腹を聖剣で貫いた。
 刀身から溢れる、魔族のみを殺す毒素に、さすがの魔王ネロも苦しみ悶える。
 「勇者ハーディー、貴様ァァァァァァァ!!」
 紫のローブを見に纏った魔王ネロの身体が倒れ、猛々しい異形の角は床に落ちた。
 細く痩せた手から魔法の杖が離れ、周囲に形成していた魔方陣が霧散した。
 勇者は引き抜いた聖剣を振り払い、魔王ネロの血を落とした。魔族特有の白い血でまみれた銀色の鎧から、冷酷な殺意が漏れだしている。
 「死ね、魔王!!」
 勇者ハーディーは聖剣を縦に構え、魔王に斬りかかる。
 その手には、魔王への殺意だけがこもり、聖剣の輝きを増させていた。
 「勇者様~~~」
 そのとき、聖剣を振り上げた勇者の背後にある扉から、十代後半ぐらいの少女が現れた。己の名を呼ぶ声に、ハーディーは腕を止め、背後に振り返った。
 「グレイ、どうした?」
 肩に猟銃をぶら下げている、その少女の名はグレイ。魔族に家族を殺され、自身も殺されそうになったところを勇者に救われ、彼の背についていった。
 「こ、こんな子供が~~」 
 彼女は、腕に抱えているものを掲げ、道中勇者の掩護射撃を行った者とは思えない、間抜けで情けない声をあげた。
 それは、ワーワー泣き叫ぶ赤ん坊であった。まだ生まれてから間もない様子であり、生えたばかりの白い髪がフワッとしている。
 「神殿の奥の、キラキラ光る石の中で眠っていました……どうしましょう!?」
 聖剣を下ろして勇者ハーディーは赤ん坊を凝視し、一瞬黙った。
 「……角はあるか? 尻尾、羽はあるか?」
 「ふぇっ?」
 グレイは赤ん坊を抱き抱え、すっとんきょうな声を出した。
 「あれば殺せ、魔族だ」
 「ふぇぇーーーっ!?」
 グレイは唇をわなわな震わせて赤ん坊を胸から離した。
 勇者ハーディーは従者に振り向き、抱いている赤ん坊を睨む。
 「グレイはそこで待ってろ、魔王にトドメをさしてから、それは俺が殺す」
 ハーディーはネロへ再び兜を向けた。
 「まずはお前から殺す。お前が生きている間は、俺達人間に平和は訪れない」
 ハーディーは聖剣の切っ先を振り下ろし、ネロの手の甲を貫いた。
 「何か術を発動する気か、魔王!!」
 「もう遅いっ!!」
 床には貫かれた掌を中心に、紫色に禍々しく光る魔方陣を構築し終わっていた。
 ハーディーはすぐさま聖剣を引き抜き、ネロが詠唱を始める前に首を落とそうとした。
 しかし、聖剣を振り上げた手が、魔方陣から伸びた泥のような紫色の手に阻まれる。
 「なにっ!?」
 「この城は……終わりだ」
 息も絶え絶えなネロ。その口からは詠唱が説かれてないにも関わらず、魔方陣が起動し、紫色の手が周囲の物体を呑み込んでいく。
 「城もろとも自爆か!!?」
 ハーディーの身体を呑み込む紫色の手は、聖なる銀の鎧を蝕み亀裂を広げていく。
 空間が歪み、魔方陣の中心に浮かんだ黒い球体に全てが吸い込まれる。
 「ふぎゃああああああああああっ!!?」
 ハーディーは従者の方へ咄嗟に振り向いた。グレイの姿は、既に彼の背後から消えていた。
 「魔王!! 貴様、何をする気だ!!」
 「グハッ! 建て直しというヤツだ……ッ!!」
 紫の手は、ハーディーもネロも呑み込み、激しく放電した。
 それは一瞬の出来事であった──空気を切り裂く音と共に、最上階に存在するもの一切を跡形もなく消してしまった。
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