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第三章 学園編
第五十四話 試練4
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「僕たちを負かすにはそんな状態で十分ってことです」
「なんで・・・そう言い切れるんだよ」
「なんでって、カインさん先程実感したばかりでしょう? 刀がない状態であの強さ。しかも、あれで・・・」
さらにウィルは諦めた表情で言った。
「片腕がないんですから」
「なっ・・!」
その事実を確かめるために俺は再度ナガマサをみた。
「ん? なんだ・・?」
ナガマサは大きなあくびによって開かれた口を覆うようにして口元に右手を当てるが、その反面、逆の左手があるはずの袖は風が吹き、肩から先にはなにもないぞというかのように根本からひらひらと揺れた。
「ほんとに・・・片腕がないのか・・?」
「ここらでは有名な話です。昔、ある集落を襲っていた竜に立ち向かった際に左腕を失ってしまったと。そして、それ以降、刀神は刀を持たなくなったと聞いています」
「それは、片腕が無くなったから刀が持てなくなった、から?」
「いえ、刀神とも呼ばれる人がそんなはずは・・・」
「ーーーおいおい、随分と昔の話をしてくれるじゃねえか」
「・・・っ!!」
先程までのどこか腑抜けた様子から一変、突如、ナガマサからとてつもない殺気が放たれた。
普段向けられることのないウィルは当然のこと、多少は耐性があるはずの俺ですら、その気迫に思わず気圧される。
「やっぱり無理ですよ、彼を相手に合格を勝ち取るなんて・・・刀神が片腕を失い、刀を持たなくなったと聞いてたくさんの人が押しかけました。ですが、彼はその全員を一人でねじ伏せたんです。片腕の、刀も持たない状態で。
・・・彼がこの学園にいるのは決して過去の栄光ではありません。彼はあの状態で、他の教師と実力差がないから、今もこの学園に教師としていられるんです」
「・・・まじ、かよ」
俺は思わず言葉を失ってしまった。
あの状態でモモやベルの対戦相手である教師達と同じ実力、か。
「さらに悪いことに彼が試験官を務めてからこれまでたった一人として合格者は出てないんです。だから学園側も流石にまずいと思ったのでしょう、彼が試験官のときは少しでも受験者側が有利になるように調整されてきたんです。ちなみに去年は目隠しをしたそうですが、まあ、それでも合格できた人は現れなかったそうです」
ウィルはもう一度俺を見て言った。
「これで、わかってくれましたよね、カインさん。僕たちに、勝ち目はないんですよ」
「ーーーまあ、確かにウィルの、言うとおりかも知れないな・・・」
数秒黙って考えた後、俺はゆっくりウィルの肩に置いていた手を離し、自力でそのまま立ち上がる。
「兄の思惑通りにいってしまうのは正直悔しいですが、なんとか学園側に掛け合ってどうにかカインさんだけはもう一度試験を受けれるようにしますので、どうか安心してーーーカインさん?」
ウィルが気づいたときにはすでに俺はすでに歩きだした後だった。
俺はそのまま刀の柄と鞘に手を当て、今度こそ黒光りする刃を顕にさせる。
・・・本当はあの一瞬でちゃんと理解していたさ、俺とあのナガマサとの力量の差なんて。
武器を抜くことも許されず、完敗したんだ。
油断していたとかそんな言い訳をするつもりはない。
「ウィル、ありがとな。でも大丈夫、ここで情けを掛けられるくらいなら俺は・・」
「不合格でいい」
「・・・!」
ベルもモモも各々最大限の力を発揮して合格を勝ち取った。
それなのに、俺だけ相手が悪いからともう一度試験を受けるなんてこんなに惨めなことがあるだろうか。
もしそれで合格を勝ち取れたとしても納得いくわけがない。
「お、なんだ、てっきり辞退されると思ったぜ」
「・・・安心してください、絶対にそれだけはしませんから」
相手が刀神とよばれるほど強敵だとわかって、もしベルだったら最初からこんなふうに諦めるだろうか?
そんなのーーー絶対に有り得ない。
ベルだったら相手がどうとか気にすること無く決着が着くまで戦うに決まっている。
ウィルはこう言った。
『彼はあの状態で、他の教師と実力差がないから、今もこの学園に教師としていられるんです』と。
それを聞いたら、ベルがライゼンという教師に勝ったのに、俺がここで負けるわけにはいかないじゃないか。
俺はまだーーー認めたくないんだ。
「なんで・・・そう言い切れるんだよ」
「なんでって、カインさん先程実感したばかりでしょう? 刀がない状態であの強さ。しかも、あれで・・・」
さらにウィルは諦めた表情で言った。
「片腕がないんですから」
「なっ・・!」
その事実を確かめるために俺は再度ナガマサをみた。
「ん? なんだ・・?」
ナガマサは大きなあくびによって開かれた口を覆うようにして口元に右手を当てるが、その反面、逆の左手があるはずの袖は風が吹き、肩から先にはなにもないぞというかのように根本からひらひらと揺れた。
「ほんとに・・・片腕がないのか・・?」
「ここらでは有名な話です。昔、ある集落を襲っていた竜に立ち向かった際に左腕を失ってしまったと。そして、それ以降、刀神は刀を持たなくなったと聞いています」
「それは、片腕が無くなったから刀が持てなくなった、から?」
「いえ、刀神とも呼ばれる人がそんなはずは・・・」
「ーーーおいおい、随分と昔の話をしてくれるじゃねえか」
「・・・っ!!」
先程までのどこか腑抜けた様子から一変、突如、ナガマサからとてつもない殺気が放たれた。
普段向けられることのないウィルは当然のこと、多少は耐性があるはずの俺ですら、その気迫に思わず気圧される。
「やっぱり無理ですよ、彼を相手に合格を勝ち取るなんて・・・刀神が片腕を失い、刀を持たなくなったと聞いてたくさんの人が押しかけました。ですが、彼はその全員を一人でねじ伏せたんです。片腕の、刀も持たない状態で。
・・・彼がこの学園にいるのは決して過去の栄光ではありません。彼はあの状態で、他の教師と実力差がないから、今もこの学園に教師としていられるんです」
「・・・まじ、かよ」
俺は思わず言葉を失ってしまった。
あの状態でモモやベルの対戦相手である教師達と同じ実力、か。
「さらに悪いことに彼が試験官を務めてからこれまでたった一人として合格者は出てないんです。だから学園側も流石にまずいと思ったのでしょう、彼が試験官のときは少しでも受験者側が有利になるように調整されてきたんです。ちなみに去年は目隠しをしたそうですが、まあ、それでも合格できた人は現れなかったそうです」
ウィルはもう一度俺を見て言った。
「これで、わかってくれましたよね、カインさん。僕たちに、勝ち目はないんですよ」
「ーーーまあ、確かにウィルの、言うとおりかも知れないな・・・」
数秒黙って考えた後、俺はゆっくりウィルの肩に置いていた手を離し、自力でそのまま立ち上がる。
「兄の思惑通りにいってしまうのは正直悔しいですが、なんとか学園側に掛け合ってどうにかカインさんだけはもう一度試験を受けれるようにしますので、どうか安心してーーーカインさん?」
ウィルが気づいたときにはすでに俺はすでに歩きだした後だった。
俺はそのまま刀の柄と鞘に手を当て、今度こそ黒光りする刃を顕にさせる。
・・・本当はあの一瞬でちゃんと理解していたさ、俺とあのナガマサとの力量の差なんて。
武器を抜くことも許されず、完敗したんだ。
油断していたとかそんな言い訳をするつもりはない。
「ウィル、ありがとな。でも大丈夫、ここで情けを掛けられるくらいなら俺は・・」
「不合格でいい」
「・・・!」
ベルもモモも各々最大限の力を発揮して合格を勝ち取った。
それなのに、俺だけ相手が悪いからともう一度試験を受けるなんてこんなに惨めなことがあるだろうか。
もしそれで合格を勝ち取れたとしても納得いくわけがない。
「お、なんだ、てっきり辞退されると思ったぜ」
「・・・安心してください、絶対にそれだけはしませんから」
相手が刀神とよばれるほど強敵だとわかって、もしベルだったら最初からこんなふうに諦めるだろうか?
そんなのーーー絶対に有り得ない。
ベルだったら相手がどうとか気にすること無く決着が着くまで戦うに決まっている。
ウィルはこう言った。
『彼はあの状態で、他の教師と実力差がないから、今もこの学園に教師としていられるんです』と。
それを聞いたら、ベルがライゼンという教師に勝ったのに、俺がここで負けるわけにはいかないじゃないか。
俺はまだーーー認めたくないんだ。
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