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第二章 冒険者編

第三十三話 救出へ

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「カイン、モモ、ここよ」
 俺達はツバキたちと別れた後、シオンが偵察している時に見つけた王宮の入り口と裏口が見渡せる場所に身を隠した。

「見て、グラジオたちよ」
 シオンの指差す方を向くとちょうど王宮に向かって歩くグラジオ達の姿が見えた。

「なんだかこっちが緊張しますね・・・」
 二人が入り口に徐々に近づいていくのを固唾を呑んで見守る。

 グラジオたちが門のすぐ目の前まで接近した時、入り口を守護する衛兵に呼び止められているのがここから確認できた。

「ふふっ、まさかこの国の王女様が衛兵に武器を向けられるなんてね」
 シオンがその様子を見てクスクスとつい笑ってしまっている。

 まあ、衛兵に負けるような人たちではないのをこの身を持って知っているからあまり心配はしていない。

「うん、全然問題ないようね」
 尻もちをついて王宮に向かう衛兵が見える。
 どうやら威圧だけで無力化できたようだ。

「さ、私達も準備しましょうか」
 ひとまず安心して裏口の方を注視しようとしたときだった。

「ちょっと待って」
 シオンの声に反応し、再度グラジオたちの方を見るとそこにはミリアと同じ髪色と瞳を持つ男性が現れていた。

「あれってもしかして・・・」
「ええそうよ、あれこそがこの状況を作り出したミリアの兄、ザクよ」
「あの人が・・・」
 俺はこの時初めてザクの姿を目にした。
 高貴な衣装を纏い、普通に見ただけではただただ優しそうで、戦争を起こそうとしてるようには決して見えなかった。

 そんなザクが二人を招くように王宮の中に戻っていく。
「うん、どうやらミリア達、王宮に無事に入れたみたいだね」
「そのようですね」

 まさか早速ラスボスの姿を見ることができるなんてな。
 でも何はともあれ、今のところは作戦通りだ。

 ザクの姿が完全に建物の影に消えるまで見届けていると・・・
 突如、ザクが不気味悪い薄ら笑みを浮かべてこちらの方を振り向いた。

「・・・隠れて!」
 その言葉と同時、いやその前に一瞬で三人とも体を物陰に移す。
 もしかして気づいたのか・・・?
 いや、まだ俺達の存在はバレてないはず。

 偶然、だよな・・・・

 不安にかられながら次に正門を見たときはザクもグラジオ達の姿も既になくなっていた。
 グラジオ達をつけていたツバキの姿も一緒に無くなっていたから、師匠も二人に注目が集まっている間にきっと無事に侵入できたのだろう。

「・・・なんだか変な感じですね」
 今の所、作戦通りにいっている。
 三人とも王宮には入れたのだから。

 うまくいっているからにはとりあえずこのまま進行していくしかない。

 俺たちは予定通り、次は裏口の監視を開始する。
 すると・・・
「ん、早いね」

 なにやら慌てた様子で裏口の衛兵たちが去っていくのが見えた。
 まあ、死んだと思われた騎士団団長と王女が来たんだ。
 そりゃあ、焦るよな。

 続々といなくなり、そして少しも立たない内に裏口の警備には最低限の人数だけが残った。

「よし、行くよ」
「はい」
 音を立てず、気配も消して一気に裏口の直ぐ側まで接近する。

 警備の人数は二人。
 シオンと俺はお互いを見て頷き、呼吸を合わせ一斉に飛び出す。

「な、なんだお前た・・・」
 言い切る前に手前を俺が、奥をシオンが峰打ちで気絶させる。
 流石に殺すのは気が引けるからな。

 ぐたりと倒れた衛兵を拘束し、すぐには見つからない場所に隠しておく。

「よし、これで後は俺たちも侵入するだけですね」

 誰もいなくなった裏口を抜け、とうとう王宮の敷地内に潜入する。
 中はところどころに兵が配置されているが、シオンが事前に見つからずに行けるルートを見つけている。

「ついてきて」
 シオンの後ろにピッタリとくっつき、素早く王宮の中に入っていく。

「止まって」
 シオンのその言葉に従うと、通ろうとしていた道を兵士が歩いていく。
 常に敵の位置を把握しているのだろうか。
 一度たりとも遭遇すること無く、地下牢への入り口にたどり着いてしまった。

 しかし、
「おかしい・・・」
 シオンがついそう口にしてしまうのもわかるくらいに俺たちは異様な光景を目にしている。
 なぜなら、その地下牢への入り口を守る兵がからだ。

「シオンさんが前来たときは多くの兵士たちで守られていたんですよね・・・?」
「ええ、そのはずなのになんで・・・」
 辺りを見渡しても潜んでいるようにも見えず、ただ下に降りる階段だけが存在している。

「・・・でも、行くしかないですよね」
 そう、ここまで来たからにはどれだけ怪しいといっても確認するしかない。

「ここも私が先頭を努めますね」
 おそるおそる、確実に階段を降りてゆく。

 すると暗く狭い空間にたどり着いた。
 最低限の明かりの中、目を凝らすと奥になにか見える。

 少しずつ暗闇に目が慣れ、ようやくその正体が見えた。

「んー、んー!」
「ルド!」
 その姿が顕になった途端、檻の中にいる人物の名前だろうか、シオンがその名前を呼びながら駆け寄っていく。
 俺たちも続いて駆け寄ると、その者はさっきみたザク、ミリアと同じ色の瞳を持っていた。

「この方がもしかして・・・」
「そうよ、この人が人質にされていたミリアの兄、ルドよ」
 改めて彼の状態を確認すると手は後ろで固く縄で繋がれ、口は布で塞がれていた。


「・・・急いで助け出さないと」
 檻を開けるため、檻の扉に頑丈に取り付けられた南京錠の破壊を試みるが、流石にそう簡単には壊れない。

「くそっ」
「下がってください!」
 モモの指示に従って南京錠から距離を置くと、モモは拳くらいの岩を生成、そして回転させることで威力を高めて発射する。

 バキンッと粉々に粉砕された南京錠を確認して、檻のドアを開ける。

「んーー!んー!!」
 なぜか必死に首を大きく振るルドの口の布をシオンはなんとか取り払う。

「ぷはあ!」
 よし、後はこの縄をほどいて脱出すれば・・・

「君たち、逃げろ!!!」
「・・・え?」
 ルドがそう叫んだ瞬間、突如として地面に大きな魔法陣がまばゆい光を発しながら出現した。

「なに、これ・・・」
 正体不明の魔法陣に困惑していると、後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。

「カイン!」
「・・・師匠!!なんでここに!?」
 振り返るとそこにはなぜグラジオ達をつけていたはずの師匠がこちらに向かってきていた。

「シオンそいつを守れ!」
 シオンは必死に訴えかけるツバキを見て、黙ってその指示に従う。

「くそっ間に合え!」
 ツバキも全力で飛び出して、両手を大きく広げ、その中に俺とモモが収まったときだった。

 キュイイイン!!という甲高い音とまばゆい白い光を放出しながら、魔法陣はたった一瞬、それも数秒にも満たないうちだった。

「えっ・・・」
 を起こしたのだった。
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