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第二章 冒険者編
第二十五話 特訓開始
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ダンジョンの街ニースを出発した俺たちは精霊国アイルでの戦闘に向けて、モモはミリアに俺はグラジオに訓練をつけてもらうことになった。
「それではまず私から」
お互い一礼をして武器を構える。
「カインさんには今から、ダンジョンでお見せした『剣気』をマスターしていただきます」
『剣気』
それは実力ある剣士なら誰もが使うスタンダードかつ強力な技。
原理は簡単だ。
刀身に自身の魔力を纏わせるだけ。
これだけでどれだけ頑丈なものでも切り裂く事を可能にする。
グラジオがボスモンスターのあの固い外殻を両断できたのもそれが理由だ。
しかし言葉で聞くと単純だが、現実はそう簡単にはいかない。
『闘気』という身体強化を応用した、自分の肉体に魔力を纏わせて強化するといった似た技もあるが、それとは難易度が桁違いに違う。
闘気は熟知しきっている自身の体が対象だ。
腕や足の長さ、どのように動かせば実際はどのように動くのかも体が勝手に覚えている。
だからどのくらいの魔力を纏わせれば十分なのかも感覚としてわかる。
しかし剣気は、対象が武器。
つまり纏わせるのにどのくらいの魔力を使用すれば良いのかを感覚で測ることができないのだ。
長さは?剣を振ったときの軌道は?
それらがイメージと一致しない限り、無駄な魔力が消費され続けてしまう。
なぜここまで魔力の消費量を気にするかと言うと、纏わせるとはすなわち絶えず供給しているのと一緒なのだ。
確かに十分過ぎる魔力を送り続ければ不可能ではないが、それだとすぐに魔力が底をつき、一振りすらできないだろう。
更に不均等に纏わせた剣気はその効力がガクッと落ちる。
刀身の長さ、厚みを完璧に把握し、適切かつ最小限の魔力で纏わせることができたとき、その時初めて『剣気』という技になる。
「なので一朝一夕で身につけられる技ではないのです。ですが、近道がないわけではありません」
グラジオのその言葉を聞けてホッとする。
アイルに少しでも早く着かなければいけないのに、俺のせいでここでずっと立ち止まり続けるわけにはいかない。
「その方法って?」
「簡単なことですよ」
グラジオは背負っていた大きな袋を俺の足元に置く。
中身を確認すると、溢れんばかりの魔力ポーションが入っていた。
「まさか・・・」
「はい。体が覚えるまで死ぬ気で剣気を使い続ければ良いんです」
いつもの優しく、聡いグラジオがここまで恐ろしく見えるのはこれまでもそしてこれから先もないだろう。
こうして、グラジオによる地獄の特訓が始まった。
///
はぁ、はぁ。
あれから何時間魔力を纏わせて刀を振り続けているのだろう。
緑の魔力に包まれたグラジオの攻撃を不格好ながら赤い魔力で包まれた刀で防ぐ。
グラジオと俺の魔力の色が違うのは戦闘スタイルに寄るからと言われている。
グラジオのように盾で守りながら戦う防御を軸とした戦い方のものは緑色。
俺のように攻撃を軸とするものは赤色の傾向がある。
実際、師匠の魔力の色も赤色だった。
もちろんこれだけではなく、モモやミリアのような魔法中心の者は青色をしていたりと、様々な色がある。
「次はこっちから攻めさせてもらいますよ!」
剣を弾いて一度距離をとると、体勢を変え、低い姿勢でグラジオに接近する。
・・・予定だった。
突如、刀に纏っていた赤色の輝きが失われる。
それと同時に全身の力が抜け、顔面から地面に突っ込む。
魔力切れだ。
「はい、カインさん。魔力ポーションです」
体を回転させ、仰向けの状態から口に直接注がれる。
「ぷはぁ。やっぱり魔力消費が激しいですね」
「まだ、余分な魔力が流れていますからですね。
コツとしましては、剣身の根本に手を当て、魔力の膜を張らせるようなイメージで剣先まで手をスライドすれば」
言葉通り、手を当てたところから剣身が緑色の魔力に綺麗に包まれていき、「このとおりです」と剣気の完成形ができる。
それができないから苦労しているんだ
そうも簡単そうにされてはこちらの心が折れそうだ。
「今日のところはすっかり辺りも暗くなってきたのでここまでにしましょうか」
朝に初めたはずなのにもうすっかり日は落ちかけていた。
でもこれでようやく今日の訓練から開放された。
これが明日も続くなると、ああ、気が遠くなりそうだ・・・
「・・カ、カイン・・」
名前を呼ぶ声がしたのでその方向を見るとうつ伏せに倒れるモモの姿があった。
その周りにはもはや恐怖も抱く魔力を回復させる薬の空の残骸が。
「モモ・・・お前もか・・・」
「ミリアちゃんが中級魔法を無詠唱で撃ち続ける感覚を覚えさせるためにと、魔力が無くなってもこの魔剤で回復させて・・」
どうやら、ミリアもグラジオのやり方を完璧に引き継いでいるようだ。
わかる、わかるぞモモ。
もうその液体に恐怖の感情しか湧いてこない。
「くっ」
起き上がろうとするも体にそんな気力残っていないためすぐ地面に伏す。
一日目からすでにこんな状態で明日もやっていけるのだろうか。
そんな不安にかられながら、俺とモモは眠りについたのだった。
「それではまず私から」
お互い一礼をして武器を構える。
「カインさんには今から、ダンジョンでお見せした『剣気』をマスターしていただきます」
『剣気』
それは実力ある剣士なら誰もが使うスタンダードかつ強力な技。
原理は簡単だ。
刀身に自身の魔力を纏わせるだけ。
これだけでどれだけ頑丈なものでも切り裂く事を可能にする。
グラジオがボスモンスターのあの固い外殻を両断できたのもそれが理由だ。
しかし言葉で聞くと単純だが、現実はそう簡単にはいかない。
『闘気』という身体強化を応用した、自分の肉体に魔力を纏わせて強化するといった似た技もあるが、それとは難易度が桁違いに違う。
闘気は熟知しきっている自身の体が対象だ。
腕や足の長さ、どのように動かせば実際はどのように動くのかも体が勝手に覚えている。
だからどのくらいの魔力を纏わせれば十分なのかも感覚としてわかる。
しかし剣気は、対象が武器。
つまり纏わせるのにどのくらいの魔力を使用すれば良いのかを感覚で測ることができないのだ。
長さは?剣を振ったときの軌道は?
それらがイメージと一致しない限り、無駄な魔力が消費され続けてしまう。
なぜここまで魔力の消費量を気にするかと言うと、纏わせるとはすなわち絶えず供給しているのと一緒なのだ。
確かに十分過ぎる魔力を送り続ければ不可能ではないが、それだとすぐに魔力が底をつき、一振りすらできないだろう。
更に不均等に纏わせた剣気はその効力がガクッと落ちる。
刀身の長さ、厚みを完璧に把握し、適切かつ最小限の魔力で纏わせることができたとき、その時初めて『剣気』という技になる。
「なので一朝一夕で身につけられる技ではないのです。ですが、近道がないわけではありません」
グラジオのその言葉を聞けてホッとする。
アイルに少しでも早く着かなければいけないのに、俺のせいでここでずっと立ち止まり続けるわけにはいかない。
「その方法って?」
「簡単なことですよ」
グラジオは背負っていた大きな袋を俺の足元に置く。
中身を確認すると、溢れんばかりの魔力ポーションが入っていた。
「まさか・・・」
「はい。体が覚えるまで死ぬ気で剣気を使い続ければ良いんです」
いつもの優しく、聡いグラジオがここまで恐ろしく見えるのはこれまでもそしてこれから先もないだろう。
こうして、グラジオによる地獄の特訓が始まった。
///
はぁ、はぁ。
あれから何時間魔力を纏わせて刀を振り続けているのだろう。
緑の魔力に包まれたグラジオの攻撃を不格好ながら赤い魔力で包まれた刀で防ぐ。
グラジオと俺の魔力の色が違うのは戦闘スタイルに寄るからと言われている。
グラジオのように盾で守りながら戦う防御を軸とした戦い方のものは緑色。
俺のように攻撃を軸とするものは赤色の傾向がある。
実際、師匠の魔力の色も赤色だった。
もちろんこれだけではなく、モモやミリアのような魔法中心の者は青色をしていたりと、様々な色がある。
「次はこっちから攻めさせてもらいますよ!」
剣を弾いて一度距離をとると、体勢を変え、低い姿勢でグラジオに接近する。
・・・予定だった。
突如、刀に纏っていた赤色の輝きが失われる。
それと同時に全身の力が抜け、顔面から地面に突っ込む。
魔力切れだ。
「はい、カインさん。魔力ポーションです」
体を回転させ、仰向けの状態から口に直接注がれる。
「ぷはぁ。やっぱり魔力消費が激しいですね」
「まだ、余分な魔力が流れていますからですね。
コツとしましては、剣身の根本に手を当て、魔力の膜を張らせるようなイメージで剣先まで手をスライドすれば」
言葉通り、手を当てたところから剣身が緑色の魔力に綺麗に包まれていき、「このとおりです」と剣気の完成形ができる。
それができないから苦労しているんだ
そうも簡単そうにされてはこちらの心が折れそうだ。
「今日のところはすっかり辺りも暗くなってきたのでここまでにしましょうか」
朝に初めたはずなのにもうすっかり日は落ちかけていた。
でもこれでようやく今日の訓練から開放された。
これが明日も続くなると、ああ、気が遠くなりそうだ・・・
「・・カ、カイン・・」
名前を呼ぶ声がしたのでその方向を見るとうつ伏せに倒れるモモの姿があった。
その周りにはもはや恐怖も抱く魔力を回復させる薬の空の残骸が。
「モモ・・・お前もか・・・」
「ミリアちゃんが中級魔法を無詠唱で撃ち続ける感覚を覚えさせるためにと、魔力が無くなってもこの魔剤で回復させて・・」
どうやら、ミリアもグラジオのやり方を完璧に引き継いでいるようだ。
わかる、わかるぞモモ。
もうその液体に恐怖の感情しか湧いてこない。
「くっ」
起き上がろうとするも体にそんな気力残っていないためすぐ地面に伏す。
一日目からすでにこんな状態で明日もやっていけるのだろうか。
そんな不安にかられながら、俺とモモは眠りについたのだった。
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