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85狙われた辻馬車
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次の町ヘンダースまで、御者は辻馬車を順調に馬を走らせていた。
その日の天気は春の心地よい天気にポカポカして、乗客たちは馬車に揺られながら一人二人と次第にうつらうつらして眠り込んでいる者もいた。
アドラスもその一人で、馬車の車輪が路傍の石をガタッと乗り上げた衝撃でハッとして目が覚めた。
<いけない!眠っちゃってたんだ!>
ぶるぶるっと首を振るアドラスにヘンリーはフフッと笑った。
<アドラスのおかげで家族全員あの燃え上がる屋敷から、しかも資金まで持ち出して脱出できた。敵は我々のことは全員焼け死んだと思っているだろう。だから追手の心配はない。
あとはこの国の王都を目指して辻馬車を乗り継いで旅を続ければいいのだ。ここまで本当に順調だった。王都についたら宿をとりアパートを探すか、それから仕事と家を探す。店をすぐ買いたいところだが、>
「父上、母上商売やったことあるの?一度もやったことないでしょ、商売の経験もないのに店買っていきなり商売やっても店すぐつぶすだけだよ。
それになんの店買うの?洋服屋、それとも古着屋、・・・美術商・宝石商・・雑貨店・・本屋・・所かえて新聞社?あるいは飲食店でレストランとか、ね、考えてもこれだけあるんだよ、まずは店員に雇ってもらえて商売のイロハを学ぶべきだよ。
それからどんな店がいいか下調べしてから買うべきだよ。」
ヘンリーは息子のアドラスのほうが世俗がよくわかっていると思った。
<どっちにしろ、王都についてからか>
「ぴぴぴぴぴ」
<小鳥のさえずりか、森に入ったらしいな、平和だな、これで辻馬車を襲う盗賊団などが万が一出てこなければいいが・・・・・・私もなんだか眠くなってきたな>
ガタゴトガタゴトガタゴト
やがて馬車は森の中の開けた場所に出た、小屋も近くにあるし井戸もあった。ここは宿営地だった。旅人や冒険者がここで一夜を明かしたり休憩をとる場所だった。すでに馬車が出発してから2時間が経過した。
「お客さんたち、休憩地についたよ、休憩時間は30分、用を足すなり水を飲むなりしておくれ」
「アドラス、アドラス、ルシアン、休憩地についたぞ。」ヘンリーは子供たちを揺さぶり起こした
「え、ほんと?うーん」
目が覚めたアドラスは大きく伸びをした。
「やっと町に着いたの、アドラス兄さん?」
「違うよルシアン、休憩地についたんだ、トイレ休憩だ。」
「なんだそう」
乗客はめいめい馬車を降りた。
「ルシアンむこうの茂みがよさげだ。」
アドラスは弟の手を引いて休憩地から少し離れた茂みに向かって用を足すために走り出した。
「あまり遠くに行くなよアドラスルシウス」ヘンリーが子供たちに背後から声をかけた。
「「はーい!」」
用を足してすっきりしたアドラスは空を仰いだ。いい天気だと心から思った。空は見事な4月晴れ、日本なら5月には鯉のぼりが空を悠々と泳ぐところだけど、さすがにこの世界にその風習はない。
そのときアドラスの視界の隅を、白いうさぎがぴょんぴょん走り去っていくのが見えた。
「ワーウサギだ!」
「おいルシアン、待てよ、僕から離れるな!!」
森の中をウサギを追いかけるルシアン、それを追っかけるアドラス。はじめて入った森で二人と一匹の追いかけっこが始まった。
ルシアンはウサギを追いかけるのに夢中になって、どんどん森の奥に入っていく。
アドラスはまずいと思った。あまり離れたら、辻馬車の出発の時間に間に合わず、置いてかれてしまう、それだけじゃなく森で迷子になったら大変だ!!アドラスはとっさに腰の剣をぬき、木にどんどん通り過ぎる瞬間に剣をひらめかせて切りつける。目印だ!
ひらっ
ひらっひらっ
<はなびら?>
次の瞬間アドラスの視界に飛び込んだのは満開の桜だった。
弟のルシアンも足を止めて、はなびらがふりつもる桜の木を見上げ手のひらをかざしていた。
「兄さん、桜、うちの庭にもあったよね、きっと今頃うちの庭の桜の木も満開だね」
「ああ、そうだな・…きっと満開だ。」
<僕たちがいなくても桜の花は咲くんだ。今頃誰があの桜の木の花を見ているんだろうか。
「・・・・・ショギョムジョウノヒビキアリ、ジョウシャヒッスイノコトワリヲアラワス」
「兄さん何言ってるの?」
「ルシアン、どれほど栄えたものでもいつかはほろぶ、それは必ずだ。、ああこの世は無常だなぁと今うたったんだ。」
「そうなの?歌?」
「詩だ。漢詩だ。」
「かんし?」
「ああ、日本に伝わってる中国という国から伝来した詩なんだ。」
「ふーん」
アドラスの胸に湧き上がる、グレーソンに裏切られたという、何とも言えぬ悲しみと怒りを癒すかのように、桜の花びらが風で舞って慰めているかのようだった。
その日の天気は春の心地よい天気にポカポカして、乗客たちは馬車に揺られながら一人二人と次第にうつらうつらして眠り込んでいる者もいた。
アドラスもその一人で、馬車の車輪が路傍の石をガタッと乗り上げた衝撃でハッとして目が覚めた。
<いけない!眠っちゃってたんだ!>
ぶるぶるっと首を振るアドラスにヘンリーはフフッと笑った。
<アドラスのおかげで家族全員あの燃え上がる屋敷から、しかも資金まで持ち出して脱出できた。敵は我々のことは全員焼け死んだと思っているだろう。だから追手の心配はない。
あとはこの国の王都を目指して辻馬車を乗り継いで旅を続ければいいのだ。ここまで本当に順調だった。王都についたら宿をとりアパートを探すか、それから仕事と家を探す。店をすぐ買いたいところだが、>
「父上、母上商売やったことあるの?一度もやったことないでしょ、商売の経験もないのに店買っていきなり商売やっても店すぐつぶすだけだよ。
それになんの店買うの?洋服屋、それとも古着屋、・・・美術商・宝石商・・雑貨店・・本屋・・所かえて新聞社?あるいは飲食店でレストランとか、ね、考えてもこれだけあるんだよ、まずは店員に雇ってもらえて商売のイロハを学ぶべきだよ。
それからどんな店がいいか下調べしてから買うべきだよ。」
ヘンリーは息子のアドラスのほうが世俗がよくわかっていると思った。
<どっちにしろ、王都についてからか>
「ぴぴぴぴぴ」
<小鳥のさえずりか、森に入ったらしいな、平和だな、これで辻馬車を襲う盗賊団などが万が一出てこなければいいが・・・・・・私もなんだか眠くなってきたな>
ガタゴトガタゴトガタゴト
やがて馬車は森の中の開けた場所に出た、小屋も近くにあるし井戸もあった。ここは宿営地だった。旅人や冒険者がここで一夜を明かしたり休憩をとる場所だった。すでに馬車が出発してから2時間が経過した。
「お客さんたち、休憩地についたよ、休憩時間は30分、用を足すなり水を飲むなりしておくれ」
「アドラス、アドラス、ルシアン、休憩地についたぞ。」ヘンリーは子供たちを揺さぶり起こした
「え、ほんと?うーん」
目が覚めたアドラスは大きく伸びをした。
「やっと町に着いたの、アドラス兄さん?」
「違うよルシアン、休憩地についたんだ、トイレ休憩だ。」
「なんだそう」
乗客はめいめい馬車を降りた。
「ルシアンむこうの茂みがよさげだ。」
アドラスは弟の手を引いて休憩地から少し離れた茂みに向かって用を足すために走り出した。
「あまり遠くに行くなよアドラスルシウス」ヘンリーが子供たちに背後から声をかけた。
「「はーい!」」
用を足してすっきりしたアドラスは空を仰いだ。いい天気だと心から思った。空は見事な4月晴れ、日本なら5月には鯉のぼりが空を悠々と泳ぐところだけど、さすがにこの世界にその風習はない。
そのときアドラスの視界の隅を、白いうさぎがぴょんぴょん走り去っていくのが見えた。
「ワーウサギだ!」
「おいルシアン、待てよ、僕から離れるな!!」
森の中をウサギを追いかけるルシアン、それを追っかけるアドラス。はじめて入った森で二人と一匹の追いかけっこが始まった。
ルシアンはウサギを追いかけるのに夢中になって、どんどん森の奥に入っていく。
アドラスはまずいと思った。あまり離れたら、辻馬車の出発の時間に間に合わず、置いてかれてしまう、それだけじゃなく森で迷子になったら大変だ!!アドラスはとっさに腰の剣をぬき、木にどんどん通り過ぎる瞬間に剣をひらめかせて切りつける。目印だ!
ひらっ
ひらっひらっ
<はなびら?>
次の瞬間アドラスの視界に飛び込んだのは満開の桜だった。
弟のルシアンも足を止めて、はなびらがふりつもる桜の木を見上げ手のひらをかざしていた。
「兄さん、桜、うちの庭にもあったよね、きっと今頃うちの庭の桜の木も満開だね」
「ああ、そうだな・…きっと満開だ。」
<僕たちがいなくても桜の花は咲くんだ。今頃誰があの桜の木の花を見ているんだろうか。
「・・・・・ショギョムジョウノヒビキアリ、ジョウシャヒッスイノコトワリヲアラワス」
「兄さん何言ってるの?」
「ルシアン、どれほど栄えたものでもいつかはほろぶ、それは必ずだ。、ああこの世は無常だなぁと今うたったんだ。」
「そうなの?歌?」
「詩だ。漢詩だ。」
「かんし?」
「ああ、日本に伝わってる中国という国から伝来した詩なんだ。」
「ふーん」
アドラスの胸に湧き上がる、グレーソンに裏切られたという、何とも言えぬ悲しみと怒りを癒すかのように、桜の花びらが風で舞って慰めているかのようだった。
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