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71弟との出会い
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今、エリザベスは目の前の5歳くらいの男の子と、やつれたその子の祖母に、田舎の教会の善良そうな神父を前にして、これ以上ないほどの怒りに満ちていた。
男の子と祖母はどう見ても貧しい平民の出だった。
この子共が、夫と農夫の母親との間に生まれた夫の落としだねで、母親は必死になって働き、夫との間に生まれたこの子と寡婦の自分の母親を、狭い農地を耕しそこから作物を得て養ってきたが、長年の無理がたたって最近になって病死したという。
祖母は自分一人ではもはや育てられぬと、教区の教会の神父様に相談して、今日せめて子供だけでもと、実の父親であるミュラー子爵に引き取ってもらうために、このミュラー家を訪ねてきたというのだ。
夫は農地視察で偶々一晩女の家に宿を借り、情を交わしたこの子の母親に別れ際、
「もし私の子が生まれたら証として家紋入りの指輪を渡しておく」そう言ったというのだ。
エリザベスは怒りのボルテージが、嫌でもぐんぐん上がっていくのを、止めようがなかった。
<ひどいではないか、>
情けなくて涙が出そうになるのを必死にこらえる。
「お、奥様~~~~」
侍女長と執事長のセバスチャンが必至に気遣う。今の奥様にはどんな慰めの言葉も届かないように二人は思えた。だから言葉の掛け様がなかったのだ。時間は刻々と立っていた。
どのくらい待っただろうか、部屋の外にメイドが廊下をかけてくる足音が聞こえてきた。普段は、貴族家で急いでいても廊下をかけてはいけないのだが、今日は特別だった。
「コンコン!」
扉にノック音、ドアがぱっと開いてアドラス付きのメイドのマリアがあらわれた。
「奥様、旦那様と坊ちゃまがおもどりになられました!」
エリザベスは思わず椅子から立ち上がり、そして三人にここで待つように命じた。
エリザベスはドレスをさばき、執事のセバスチャンを従えて部屋からさっそうと出て行った。
玄関ロビーのほうから可愛いアドラスの声が聞こえる。
「父上~修繕したこの壺、どこに置きますか?」
「そうだな、玄関わきでも置いておけ、」
「この壺、濡れた傘立てにちょうどいいとは思いませんか、陶芸職人にみせてわたすまでは傘立てにちょうどいいですよ」
「確かにそうでございますね、坊ちゃま」
エリザベスが玄関ロビーのほうから 、今さっき帰ってきたらしい夫と息子のアドラスに侍従の姿が見えた。そして確かに大きな壺が見える。でもその壺は素焼きの質素な壺だった。でもなんだか妙に玄関ロビーにしっくり来ていた。
<また妙なもの買ってきたわね、そういえば前ヘンリーは質屋で財物の神《恵比須様》を買ってきたことがあったわ>
「あなた、アドラスお帰りなさい。実はヘンリーに客が見えているの、帰ってきたばかりですけど着替えて、玄関近くの小応接室にきてくださいな。」
「わかった。客は誰だ?」
「会えばわかりますわ」
「?」
その時エリザベスは、ギッと平和ボケしたような夫ヘンリーをにらみ据えたのだ。
「な、なんだ?なんで私をニラムんだ?」
<あー、のんきな夫の頭をボコボコにぶん殴ってやりたい!!>
アドラスは父と母の間に流れる剣呑な雰囲気と会話になんか留守の間に起こったのかな、何だかお客様が関係しているみたいだけどと思った。
アドラスは2階の自室に戻りマリアに手つだってもらって服を着替えた。
戦利品の100000マルクのツボは、サッと修繕してサイドテーブルの上に飾る。
「まあアドラス様それが今日の戦利品ですか?お部屋によく似あってますね、」
「帝国の時価100000マルクのツボだよ、いいでしょ、掘り出し物だよ」
「とてもいいお品ですわ」
「ところでさ、お客さまって誰なの?母上の機嫌の悪さから見て、父上の浮気相手と其の女との間に生まれた子が来たんじゃないよね、」
マリアは視線をアドラスからソッと外して、あさっての方向にソォーと見やった。
「マリアーやっぱりそうなんだ!?これは僕も行かなくては!!」
「だめです、アドラス様!!」
「とめるなマリア!!」
言うが早いか、アドラスは部屋を飛び出して、階下の玄関わきの小応接室に向かって駆け出したのだった。
「アドラス様ー!!」
アドラスを呼び止めようとした、必死のマリアの叫び声がむなしく廊下に響くのだった。
男の子と祖母はどう見ても貧しい平民の出だった。
この子共が、夫と農夫の母親との間に生まれた夫の落としだねで、母親は必死になって働き、夫との間に生まれたこの子と寡婦の自分の母親を、狭い農地を耕しそこから作物を得て養ってきたが、長年の無理がたたって最近になって病死したという。
祖母は自分一人ではもはや育てられぬと、教区の教会の神父様に相談して、今日せめて子供だけでもと、実の父親であるミュラー子爵に引き取ってもらうために、このミュラー家を訪ねてきたというのだ。
夫は農地視察で偶々一晩女の家に宿を借り、情を交わしたこの子の母親に別れ際、
「もし私の子が生まれたら証として家紋入りの指輪を渡しておく」そう言ったというのだ。
エリザベスは怒りのボルテージが、嫌でもぐんぐん上がっていくのを、止めようがなかった。
<ひどいではないか、>
情けなくて涙が出そうになるのを必死にこらえる。
「お、奥様~~~~」
侍女長と執事長のセバスチャンが必至に気遣う。今の奥様にはどんな慰めの言葉も届かないように二人は思えた。だから言葉の掛け様がなかったのだ。時間は刻々と立っていた。
どのくらい待っただろうか、部屋の外にメイドが廊下をかけてくる足音が聞こえてきた。普段は、貴族家で急いでいても廊下をかけてはいけないのだが、今日は特別だった。
「コンコン!」
扉にノック音、ドアがぱっと開いてアドラス付きのメイドのマリアがあらわれた。
「奥様、旦那様と坊ちゃまがおもどりになられました!」
エリザベスは思わず椅子から立ち上がり、そして三人にここで待つように命じた。
エリザベスはドレスをさばき、執事のセバスチャンを従えて部屋からさっそうと出て行った。
玄関ロビーのほうから可愛いアドラスの声が聞こえる。
「父上~修繕したこの壺、どこに置きますか?」
「そうだな、玄関わきでも置いておけ、」
「この壺、濡れた傘立てにちょうどいいとは思いませんか、陶芸職人にみせてわたすまでは傘立てにちょうどいいですよ」
「確かにそうでございますね、坊ちゃま」
エリザベスが玄関ロビーのほうから 、今さっき帰ってきたらしい夫と息子のアドラスに侍従の姿が見えた。そして確かに大きな壺が見える。でもその壺は素焼きの質素な壺だった。でもなんだか妙に玄関ロビーにしっくり来ていた。
<また妙なもの買ってきたわね、そういえば前ヘンリーは質屋で財物の神《恵比須様》を買ってきたことがあったわ>
「あなた、アドラスお帰りなさい。実はヘンリーに客が見えているの、帰ってきたばかりですけど着替えて、玄関近くの小応接室にきてくださいな。」
「わかった。客は誰だ?」
「会えばわかりますわ」
「?」
その時エリザベスは、ギッと平和ボケしたような夫ヘンリーをにらみ据えたのだ。
「な、なんだ?なんで私をニラムんだ?」
<あー、のんきな夫の頭をボコボコにぶん殴ってやりたい!!>
アドラスは父と母の間に流れる剣呑な雰囲気と会話になんか留守の間に起こったのかな、何だかお客様が関係しているみたいだけどと思った。
アドラスは2階の自室に戻りマリアに手つだってもらって服を着替えた。
戦利品の100000マルクのツボは、サッと修繕してサイドテーブルの上に飾る。
「まあアドラス様それが今日の戦利品ですか?お部屋によく似あってますね、」
「帝国の時価100000マルクのツボだよ、いいでしょ、掘り出し物だよ」
「とてもいいお品ですわ」
「ところでさ、お客さまって誰なの?母上の機嫌の悪さから見て、父上の浮気相手と其の女との間に生まれた子が来たんじゃないよね、」
マリアは視線をアドラスからソッと外して、あさっての方向にソォーと見やった。
「マリアーやっぱりそうなんだ!?これは僕も行かなくては!!」
「だめです、アドラス様!!」
「とめるなマリア!!」
言うが早いか、アドラスは部屋を飛び出して、階下の玄関わきの小応接室に向かって駆け出したのだった。
「アドラス様ー!!」
アドラスを呼び止めようとした、必死のマリアの叫び声がむなしく廊下に響くのだった。
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